第5話 おもしろい女

 どうも、みんなのアイドル、朝宮陽菜あさみやひなです♪


 ごめんなさい、それは言い過ぎました。


 現在、放課後です。


 あたしは、2年生になって、ようやく仲良くなれた、アッキーこと、月島秋乃つきしまあきのの頼みにより、真性クズ男くん、イッチーこと竹本一郎たけもといちろうの陰謀を止めに向かっております。


 彼のターゲットは、クラスでも大人しい、地味子ちゃん。


 山崎千尋やまざきちひろちゃんです。


 色々とウブウブでか弱いその子をクズ男の魔の手から守るため。


 正義のヒロインであるヒナちゃんは、立ち向かうのです。


 バレないように、そーっと、そーっと。


「……あっ」


 校舎裏にて、あたしは木陰に身を隠す。


 うっかり、このワガママおっぱいが飛び出ないように、気を付けないと☆


 なんてふざけている内に、例の2人が対面しちゃっている。


「よく来てくれたな、山崎」


「あ、うん……そ、それで、わたしに何の用かな?」


 メガネ奥で、その瞳が戸惑いに揺れている。


 山崎ちゃんは、地味子らしい、おさげ髪を落ち着きなくいじっていた。


 やはり、見た目通り、ウブい。


 さて、そんな彼女に対して、イッチーはどう出るか?


 ここはやはり、相手の緊張をほぐすように、軽いトークでもして……


「お前、彼氏とかいる?」


 いきなりダイレクトアタック!?


「へっ? い、いないよ」


「だよな」


 しかも、相変わらずのクズい返し。


 いくら何でも、失礼でしょ!


「うぅ……わたしはどうせ、地味でブスだから……彼氏なんて……」


「いや、それは違うぞ」


「へっ?」


「お前は原石だ」


「原石?」


「俺の彼女になったら、たっぷり磨いてダイヤモンドにしてやる」


 イッチー、良いこと言っているようで、めっちゃキモ……キザいね~。


「ダイヤモンド……」


「ああ、そうだ。お前だって本当は、トップカースト、リア充の仲間入りをしたいだろ?」


 イッチーの問いかけに、山崎ちゃんは押し黙ってしまう。


 あたしもついつい、2人の会話に聞き入ってしまう。


「……確かに、キラキラと輝く人とか、憧れるよ。朝宮さんとか」


 イエイ☆


「まあな。けど、あいつは乳だけのバカだ」


 あぁん?


「でも、わたしは……今のわたしがそんなに嫌いじゃないと言うか……これはこれで、平穏な学園生活で、楽しいかなって……」


「……山崎」


「だからね、その……わたしは今のままのわたしでも、良いかなって……それって、ダメかな?」


 今度は逆に、イッチーが問われる。


 しばらく、沈黙の時が流れた。


「お前……」


「うっ、やっぱり、ダメかな……」


「思った以上に、おもしろい女だな」


「へっ?」


「その考え自体はおもしろいし、魅力的だ。特別なモノが無くても、自分を肯定できる……素晴らしい」


「そ、そんな、わたしは……」


「すまない、山崎。俺は少々、お前のことを見くびっていた」


「い、いやぁ……」


「うっかり、惚れるところだった」


「へぇっ!?」


 何ですと!?


「まあ、それは冗談だけど」


「あっ……う、うん」


 何だ、冗談かよ。


「お前とは、もっと仲良くなりたいと思った。だから、友達になってくれ」


「と、友達?」


「ああ。ぶっちゃけ、俺と関わる女は、みんなこってり味というか……月島とか朝宮とか、我が強くて乳がデカいし」


 うるせーよ!


「その点、お前は色々と慎ましやかだから、何か癒されるんだよ」


「い、癒し……ですか?」


「うん。俺ってクズだけど、人間だからさ。疲れる時もあるんだよ」


 クズの自覚はあるのか。少し安心したよ。


「で、どうだ、山崎? 俺と友達になってくれ」


「え、えっと……」


「あ、もちろん、セ◯レとかじゃないから、安心してくれ」


 余計な一言!


「へっ? あ、う、うん……じゃあ、わたしで良ければ」


「本当か? じゃあ、今日からよろしくな」


 2人は握手を交わす。


 その様子を、あたしは何だかなぁ、という感じで見ていた。


 結局、止めるタイミングが分からず、何か意外な感じの結末になったけど。


 とりあえず、アッキーに報告しないと……


「……首尾はどうかしら?」


「うわっ、サ◯コ!?」


「誰がよ!」


「って、アッキーか。何か、随分とやつれちゃって」


「本当に地獄だったわ……」


 アッキーは、少し汗ばんだ長い黒髪をかきあげて、かすれた声を漏らす。


「おつかれ~」


「で、あの男の告白はどうなったの?」


「ああ、うん……何か、友情(?)が芽生えたよ」


「友情?」


「あの2人、今日から友達なんだって」


「友達……それは……どうなのかしら?」


「う~ん、あたしもよく分からないけど……でも、あんなにテンション上がったイッチーは、久しぶりに見たかも」


「そ、そうなの?」


「うん。何か、あたしらが思っていたよりもずっと、山崎ちゃんが強い子だったかなぁ」


「強い……か」


「アッキー?」


「あ、いえ……何でもないわ」


「あ、イッチーがいなくなった。今がチャンス!」


 あたし達は、木陰から出ると、まだその場に立っていた山崎ちゃんに歩み寄る。


「山崎ちゃ~ん」


「へっ? あっ……朝宮さんと月島さん……どうして?」


「ごめん、覗いちゃった」


「えっ……み、見ていたの? は、恥ずかしい……」


 山崎ちゃんは、頬を赤く染めて言う。


 う~ん、良いウブ反応ですなぁ~。


 っと、いけない。


「てかさ、イッチーと友達になったんでしょ? 大丈夫なの? あいつ、クズだよ?」


「う、うん、知っているけど……そんな悪い人じゃないなって」


「まあ、そうかもしれないけど……」


「それに、こんなわたしを認めてくれて……例え、冗談でも……惚れたって言われて……」


 そこで山崎ちゃんは、先ほど以上に顔を真っ赤に染めて、両手で頬を押さえて、身をくねらせる。


 あれ、これって……


「……山崎ちゃん、惚れちゃった?」


「ほえっ!? い、いえ、そんなことは……」


 うわぁ~、この感じ……確実に惚れとるやん。


 まずいな~、こういう地味子ちゃんって、1つのトレンドだし。


 あれ? ていうか、この子、何だか……


 むぎゅっ。


「はえっ?」


 気付けば、山崎ちゃんの胸部に触れていた。


「……何か、デカくない?」


「へっ? あ、いや、その……」


「山崎ちゃん、まさかの隠れ巨乳!?」


「こ、声が大きいよ!」


「ねえ、何カップなの?」


「そ、それは……恥ずかしくて……」


「お願い、教えて! ちな、あたしはEカップだよ!」


「あっ……」


 山崎ちゃんは、何だか気まずそうにする。


「……え、Fです」


「うそぉ~ん?」


 あたしはひどい女だ。


 何だかんだ、山崎ちゃんを見下していたのかもしれない。


 そんな彼女が、自分よりも巨乳だったと知って……


「……危なかったわ」


「アッキー、どったの?」


「へっ?」


「ああ、アッキーもFカップだもんね。でも、身長はアッキーのが上だから、質感的には山崎ちゃんが1番おっぱい大きいってことになるね~」


「そ、そんな、わたしが2人よりも……だなんて」


「ねえ、ザッキー」


「ザ、ザッキー?」


「ザッキーが隠れ巨乳だってこと、バラしても良い?」


「ダ、ダメだよ、恥ずかしいから」


「じゃあ、イッチーにだけ言えば? あいつ、興奮すると思うよ?」


「ダ、ダメ」


 より強く否定される。


「え、どうして?」


「だって、竹本くん、言ったから……わたしが、慎ましい……貧乳だから、癒されるって……いつも、巨乳の2人と……話しているからって」


「ああ、うん。言っていたね~……」


「だから、わたし……」


 ザッキーは、モジモジマックスで、とうとう喋れなくなってしまう。


 予想以上のドハマリっぷりに、あのクズ男の恐ろしさを感じた。


「……本当に腹立たしい男ね」


 アッキーがぼそっと言う。


 うん、すごく同感だけど……


 何か、アッキーから漂うオーラが怖すぎて、あたしは何も言えない。


 それからしばらく、イッチーと深く関わってしまった女子トライアングルは、気まずく沈黙していた。




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