第2話 賑わいランチタイム

 思えば、1年生の頃は、ずっと1人でお昼ごはんを食べていたと思う。


 みんなにとっては、楽しい時間。


 私にとっては、栄養補給の時間。


 それで良いと思っていた。


 けど……


「いや~、嬉しいな~。今日はスペシャルゲストの、アッキーが来てくれていまーす」


 今の私は、何だか陽気そうな面々に囲まれている。


「わ~、月島さんだ~」


「間近で見ると、ホント美人さ~ん」


「てか、ヒナよりおっぱいデカくない?」


 グイグイと来られて、


「あ、えっと……」


「こら~、アッキーを困らせないの」


 朝宮さんが、みんなをなだめてくれる。


「てか、さすがヒナだよね~」


「ウチら、基本コミュ力たかめだけど~」


「さすがに、月島さんはハードルが高いわ~」


 みんな口々に言う。


「そんな私なんて……」


「まあまあ、とりあえず、食べようよ」


 朝宮さんが言うと、


「「「いただきまーす」」」


「い、いただきます」


 ランチタイムが始まる。


 教室内には、他にもグループがあるけど……ここはひと際、目立って恥ずかしいわ……


「てかさ~、月島さんのお弁当、ちょっと見ても良い?」


「えっ? べ、別に普通だけど……」


「いや~、どうやったら、そんな美貌と乳が手に入るんだろうって」


「まずは、食生活から盗もうかなって」


「つか、何カップ?」


「あ、あの……」


「あたしがEだから、アッキーはFじゃない?」


「「「デカッ」」」


「…………」


 言えない。


 確かに、いま私はFカップのブラをしているけど……


 最近、それがキツくて、恐らくGカップだなんて……


 きっと、騒がれるから、黙っておきましょう。


 そもそも、いくら女子同士だからって、そんな……


「あたし、分かっちゃった」


 朝宮さんが、閃いたように、ニヤリと笑う。


「え、ヒナどしたん?」


「アッキーの胸が、どうしてそこまで育ったのか」


「ちょ、ちょっと、もう胸の話は……」


「1年の時、イッチーと同じクラスだったからだよ」


 その名が出ると、私は束の間、フリーズする。


「あ~、たけもっちゃん?」


「てか、同じクラスになれてラキ~」


「ワンチャン、狙っていくべ?」


「つーか、ヒナは去年、違うクラスだったけど、けっこう仲良くしていたっしょ?」


「コミュ力オバケだわ~」


「いや~、それほどでも~」


「けど、その時に、月島ちゃんとも話さなかったの?」


「あー、あたしがイッチーを捕まえたのは、主に廊下だったから」


「そか、教室には行かなかったん?」


「うん、さすがに他のクラスには、それなりの用事がないと行けないよ~」


「まあね~」


「てか、ヒナの乳がデカいのも、たけもっちゃんと仲良くして、女性ホルモン出たから?」


「うん、そうかも……だから、もし去年、あたしもイッチーと同じクラスだったら……アッキーと同じくらい、育ったかも」


 朝宮さんは、照れたように目を逸らして言う。


 何かしおらしい感じだけど……言っていることは、まあまあ変態チックよ?


「そうだ、あのね。イッチーとのエピソード、1個だけ披露しても良い?」


「聞かせてみ」


「あのね、イッチーがね、あたしに言ったの……『お前は将来、そのエロい体で稼げば?』……って」


「ひゃ~、何それ~?」


「やば~」


「刺さる~」


 あの男、最低ね……


「え、それって、つまりは……エッチなお店でってこと?」


「じゅうはちきん?」


「えーぶいおち?」


「ふーぞくおち?」


「違う、違う、そうじゃなくて……グラドル、やってみたらどうかって」


「「「あぁ~」」」


 朝宮さんの友人たちが、納得したように頷く。


「確かに、ヒナって可愛くて巨乳だし、明るい性格だから」


「グラドルとか、天職かも」


「今からサインもらっとくか」


「や、やだも~、みんなってば~」


 朝宮さんは、まんざらでもない様子だ。


 私は盛り上がる彼女たちを見て、苦笑する他ないのだけど……


「あれ、珍しい組み合わせだな」


 その時、聞き覚えのある声がした。


 それは、私をザワつかせる、ノイズに近い……


「あっ、イッチー」


「何でア◯ズレどもの中に、月島もいるんだ?」


「ちょっと、誰がア◯ズレですって?」


「ああ、悪い。ビッ◯ども」


「こら~!」


 朝宮さんは、竹本くんのことをポカポカと叩く。


「全くもう、イッチーはエッチなんだから」


「エロいのはお前のカラダだろ、グラドルでもしとけ」


「ね~? 言っているでしょ~?」


「よっ、エロプロデューサー」


「で、いずれはヒナをえーぶいおちさせるんでしょ~?」


「果ては、ふーぞくおちに」


「ああ、夢が膨らむな」


「ふ、膨らませるな~!……胸は膨らませても良いけど」


「んっ?」


「な、何でもないよ」


 朝宮さんはフン、と鼻を鳴らして、サンドイッチをパクパクと食べる。


 ふと、竹本くんの視線が、私にスライドした。


「な、何よ……?」


 警戒する私のことを、彼はジッと見つめる……


「……何か泣けるわ」


「はっ?」


「ずっとボッチだったお前にも、とうとう友達が出来たか……」


「ちょっ、竹本くん? 何を勝手なことを……」


「そうだったの、アッキー?」


 朝宮さんが、こちらを気遣うように見つめて来る。


「いえ、その、事実と言えば、そうかもしれないけど、私は別に……」


「じゃあ、これからはずっと、一緒に食べようね!」


 むぎゅっ、と抱き締められる。


 お互い、豊かに育った胸同士が圧迫しあって……苦しい。


 けど、不思議と、悪い気分じゃないわ。


「……ふむ、百合路線も悪くないな」


「ちょっと、あなた? 何を気持ち悪いことを言っているの?」


「でも、月島だって、まんざらでもないだろ?」


「いや、それは……」


 私はふと、目の前でニコニコしている、朝宮さんを見た。


 確かに、彼女とこうして抱き締め合っているのは、悪くないかも……


「……って、違うから。断じて違うから」


「あっそ、どうでも良いけど」


「は、はぁ~?」


「あ、イッチーも一緒に食べない?」


「いや、良いわ。これから男子連中と、新クラスの女子ランキング投票するから」


「えっ、何それ?」


「あっ……悪い、今の聞かなかったことにしてくれ」


「ムリですぅ~! 良いもん、それなら女子サイドだって、同じことしてやる~」


「別に良いけど……さすがに0票だと悲しいから、俺にも入れてくれよ? 義理で良いから」


「そういえば、あたしがあげた義理チョコ、美味しかった?」


「いつの話だよ。まあ、クソほど甘かったな」


「えへへ~、イッチーへの愛情をたっぷり込めましたから♡」


「へぇ~」


「って、反応うすっ」


「じゃあな、優等生withギャルズ」


 竹本くんは適当なことを言って、去って行く」


「つーか、ヒナ。あんた、いつの間にたけもっちゃんに義理チョコあげてたの?」


「ま、まあ、こっそりと……」


「本当に嫌らしい女だわ~、カラダと一緒で」


「だ、だから、もうカラダいじりはやめて……」


 私は、照れたように頬を赤く染める朝宮さんと、去りゆく竹本くんの背中を見比べて。


 何だか、胸の奥底が疼くようだった。




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