第7話 家庭訪問までに出来る事
放課後に先生が来ると連絡があった。
いわゆる家庭訪問というもの。俺が反省してるかを確認するために来るのだと。
確かに昨日と比べ幾分かマシになっているとは思う。今の俺は昨日の出来事を少しだけ距離をおいて考えられる……気がする。
「…………」
今はゲームをするという気分でもない。
とは言え、何もせずにいるのは確かに苦痛だ。しかし、家の外に遊びに出るなど認められる訳もない。別に誰にも見られなければ良いのだろうが、ゼロとは言えない確率だ。それに俺は不良になったつもりもない。
「どうしたもんか」
外にも出れない。
かと言って家の中ではすることもない。皆んなは授業の最中だというのに、こうやって休んでしまっていると言う事に罪悪感を覚えながらも、俺はベッドに倒れ込む。
「静かだな」
平日のこの時間帯に家に一人でいる事は基本的にない。こんな事があったとしても夏休みだし、夏休みであれば倉世と遊ぶ予定なんかもあっただろう。
「そう言えば……倉世の誕生日、もう直ぐだったんだ」
四月の下旬。ゴールデンウィークに入ると言うことで倉世の誕生日が近いのを思い出した。今年は何を買おうかとここ最近まで悩んでいたのだ。と言っても俺の経済力なんてたかが知れていて、大したものでもない。
「……関係、ないか」
既に物を買ったけど、倉世にそれをプレゼントとして手渡す事はないかも知れない。意味がない事をしたなどと、その時の俺は思いもしなかったのだ。その時なんて言ったが、つい最近の話だ。
倉世が三谷先輩と帰った時の話だ。
「…………」
ベッドから立ち上がって机の引き出しを開ける。中には未開封の有線イヤホンが入っている。これを渡すつもりだった。
「お前さ、喜んでくれたか?」
今までのお前なら。
今のお前は多分、嫌いな奴からのプレゼントなんて嬉しくもないし。それこそ、気持ち悪いと言い切ってしまうだろうし。これがここにあっても意味がないのかも知れない。引き出しの中からイヤホンの箱を持ち上げる。
「…………」
それでどうするつもりだ。
捨てるのか。今から自分で使うのか。
自分で使う気はない。俺は俺のを持っているから。このイヤホンは行き場がない。使われる道が現状ではない。
「はあ」
仕方なく引き出しに戻した。
捨てるわけにもいかない。せっかく新しく買った物だ。一度も使わずに捨てるという発想にはなれなかった。
「ふう」
椅子に座り机に向かい合う。
かと言って何をするでもなく、天井を見上げる。白い天井が俺の視界に広がる。
「何してたら良いんだかな」
反省を促された、と言うのは分かる。
だが、反省だけしていられるわけでもない。手持ち無沙汰にもなる。これが二週間だ。ゴールデンウィークすらも謹慎期間に組み込まれ、俺は外を出歩けない。
「…………」
何とはなしにテレビをつけてもニュースだの、古いドラマの再放送だの。特に興味はないから観る気もない。スマホを弄り、数分。
俺はふと疑問に思った事を検索する。
倉世の記憶喪失の前例があるかという事だ。どんな事が原因で彼女が俺や篠森の事を忘れたのか。少しでも分かるかも知れない。
「記憶、喪失……」
彼女の状態がこれであっているかはよく分からない。まあ、忘れているのだから大きくも外れていないはずだ。
「チッ……全然出てこないな」
ワードを変えて何度か調べてもそれらしい事は出てこない。現実に記憶喪失があり得るのか。殆どはフィクションの様な物ばかりだ。
倉世の現状を馬鹿みたいに入力して検索してもヒットする物はない。
「手詰まり、か」
それでも大きな絶望というものはない。
倉世に俺のことを忘れられたショックの方が大き過ぎて、原因に至らなくとも仕方ないと思えてしまう。薄々、分かってはいたんだ。だから、仕方ない。
「……三谷先輩と何があったんだ、倉世」
何かがあったとするなら、あの後の筈だ。それまでは普通に教室で篠森と一緒に弁当を食べていたのを俺は覚えてる。
「──篠森が何とかしてくれるんだろ」
倉世の事は。
あっちは問題ない筈だと思う。何かが得られるかも知れない。
「…………」
三谷先輩の事を考えるとどうしても気に入らない。これ以上考えるのは心の毒だ。深呼吸をして俺は立ち上がり、ベッドに倒れ込む。
「止めだ、止め」
考えても良くない事だ。
天井を見上げて息を吐き、俺は目を瞑る。必死に考えを追い出す。あのゲームをどう進めようかだとか、今日の晩飯の用意だとかの事で紛らわせる。
「……今日は唐揚げだっけか」
鶏肉が解凍してある。俺一人で最後まで作れるとか母さんも考えてないだろうが下準備については指示がされていた。
「……腹、減ったな」
時刻はまだ一一時。
昼を食べるにはまだ早い。
「よっ、と」
今は学校じゃない。
昼飯の時間くらいは自由にしてもいいだろう、と言い訳を頭の中で並べて立ち上がった。
「カップ麺だよな」
母さんは「優希の分の弁当は要らないでしょ」と言って出かけてしまったから。俺もそれで納得したのだ。
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