第102話

サロンに居たのは……。


「ファルス!どうしたの?」


「どう?マーロアに似合うと思って準備をしていたんだ」


そしていつもの騎士服では無く、かっちりとしたスーツを着ていた。いつもと違う様子に動けないでいると、ファルスが話始めた。


「マーロア、今度の舞踏会でさ、俺、伯爵になるんだ。凄いだろう?」


「凄いわ!ファルス。私はてっきり闘技大会での約束で騎士爵を貰うものだと思っていたわ」


ファルスは少し照れたような仕草をしている。


「あの時の約束は俺が騎士団長になったらっていう話だったんだけど、騎士団長にはなれそうにないんだ。今度、俺、アロイス王太子殿下の側近として就くことに決まったんだ。


平民の俺が側近になるのは爵位が問題になるらしくて、母親の没落して今は使われていない伯爵位を復活させる事が認められたんだ。凄いだろう?それもエフセエ侯爵が後ろ盾になってくれたおかげだよ」


「……お父様が?本当?」


「あぁ、本当さ。これからは堂々とマーロアをエスコート出来る。俺にマーロアの専属エスコート役を、任せてくれないか?」


「ふふっ。嬉しいわ。是非お願いしますね。伯爵様。ところで家名は何になるのかしら?」


「母さんの実家だった家名はウォーレンス。これからはウォーレンス伯爵になるんだ。と言っても今はまだ名前だけだけどな!」


「凄いわ。おめでとう」


 まさか、ファルスが伯爵になると思ってもみなかったわ。話を聞くと、うちが何だか忙しくしていたのはファルスの爵位に関係していたのね。今は王宮の独身寮に住んでいるけれど、伯爵は流石に寮には住めないよねって事で慌てて今タウンハウスの準備をしているらしい。


 ファルスは従者のように私にお茶を淹れながら話をしてくてれたわ。ふふっ。従者だった時のクセは抜けないのね。それから私の旅の話や騎士団での出来事を話した後、ファルスは寮に帰っていった。舞踏会当日はエスコートに来ると言い残して。


アンナやオットーがニマニマしていたのは気のせいよねきっと。




 そして迎えた舞踏会当日。


 ファルスは白の騎士服を着て邸にやってきた。私はというと、朝から邸の侍女総出と言っても過言では無いほど舞踏会の準備に追われていたわ。既にぐったりよ。


「お嬢様、この国一番の美女に仕上がりました!!」


アンナの鼻息は凄かった。鏡を見て自分でも思ったわ、誰この美女って。別人に仕上げてくれた侍女達に感謝だわ。


「ファルス、お待たせ」


「……あぁ。マーロア。綺麗だよ」


ファルスがいつに無く目が泳いでいるわ。


「ファルス、素敵だわ。ドレスを有難う」


「あぁ。月並みな事しか言えなくてごめん。本当に綺麗だから」


「ふふっ。嬉しいわ。有難う。さぁ、会場に行きましょう?」


「あぁ、そうだな」


 父もテラも玄関ホールで待っていてくれたみたい。ファルスは父達に深々と頭を下げて『しっかりとエスコートさせていただきます』と言っていたわ。その姿を見てなんだかこそばゆい気持ちになったのは仕方がないわよね。


 私達は公爵家の馬車で会場までやってきた。今回の舞踏会では男爵から公爵まで幅広く貴族が出席する舞踏会。


大人数がホールに集まるという事もあり、警備も特に厳しいようだ。私はファルスのエスコートで会場入りをする。父とテラは後から会場入りするらしい。そして舞踏会の開催前に式のような事が行われるとファルスは言っていたわ。


きっとこの時にファルスは側近として発表されるのだと思う。


「マーロア、今から俺が呼ばれるからここで待っていて」


「えぇ、分かったわ」


と舞台下の場所でそっと待機する事になった。なんだか自分の事のように思えてドキドキしていると、舞台袖から見えたチラッと見えたエレノア様。目が合い、手を振って微笑む。少し緊張が解けたかな。


「国王陛下、入場!!」


 陛下が王妃様と共に舞台中央に立つ。そして陛下はこれから数年掛けてアロイス王太子殿下へと政務を移行し、数年後に王の交代となる話をしたわ。そしてアロイス王太子殿下と王太子妃様、シェルマン殿下とエレノア様が呼ばれ、挨拶となった。その後、新たな側近達が呼ばれて殿下の後ろに一列に並ぶ。


ふふっ。ファルスも並んでいるわ。


 ちらっとアンナから聞いた話では、ファルスは騎士として十分な実力と学院での成績、長年の従者としてきめ細かな仕事ぶりが側近として選ばれた理由らしい。側近は文武両道でないとかなり難しいのだとか。一人ひとり側近の名前が呼ばれる。


この時、ファルスは爵位の復活も伝えられたわ。会場中拍手が起こった。皆、一礼して舞台から降りる時にファルスは私に小さく手を振った。


ふふっ。これはファルスのファンに怒られてしまうわね。


そう思いながらも手を振り返す。


 アロイス王太子殿下と妃殿下、シェルマン殿下とエレノア様は舞台中央から降りてそのままダンスホールの中央へと歩く。互いに礼をすると曲が鳴り、舞踏会の開始が殿下たちのダンスで始まった。


「マーロア、お待たせ。俺、かっこよかっただろ?」


「えぇ、とってもかっこよかったわ。ビオレタにも見せてあげたかった」


「あぁ。母さんはダンスホールの角にいるぞ?」


「今回、許しが出たんだ」


「後で会いに行きましょうよ」


「あぁ、そうだな。それより、私と一曲踊っていただけませんか?」


ファルスは礼をしながら私に手を差し出した。


「喜んで」


私とファルスは中央まで歩いていき、ダンスを始める。


「これからファルスは伯爵として沢山の令嬢達とダンスを踊るのね。ちょっと寂しいわ」


「えー踊りたくないな。最低限でいいよ。踊りたいのはマーロアだけだしな」


「また足踏んじゃうかも?」


「ははっ、マーロアのダンスの癖はしっかり覚えているから大丈夫だ。このダンスが終わったら一旦バルコニーへ出ても構わないか?」


「?ええ、いいわよ?でも早足で行かないと令嬢達に囲まれてしまうかもしれないわね」


「あぁそうだな。急いでいこう」


 私はなにやら大切なミッションなのかと思いながらダンスを終えたその足でファルスとバルコニーへと歩いていった。


「ファルス、バルコニーへ出てきたけれど、バルコニーに何かあるのかしら?」


すると、バルコニーの手すりや足元、宙に淡い光の花が浮かび上がった。


「凄く素敵ね!私、こんなの見たことが無いわ」


「……良かったよ。これを作ってもらうのに先輩達に協力してもらったんだ」


「そうなの!?本当に素敵ね。感動したわ」


すると、ファルスは片膝を突き、手を差し出した。


「マーロア、俺はずっとずっとずーっと昔から、マーロアと一緒だった。マーロアがお転婆な所も、魔力無しと貶されても負けない所も、優しい所も、刺繍が下手な所も全部見てきたつもりだ。


その上で、一緒に居たいと、生涯共に過ごしたいと思った。問題だった爵位も復活した今、こうして求婚する事が出来た。どうか、俺の手を取ってくれないかな?」


「……ファルス、私でいいの?また旅がしたくなるかもしれないわよ?嫉妬深いかもしれないわよ?貴族らしくない私でもいいの?」


「あぁ。マーロアがいいんだ。俺の側に居てほしい。一緒に旅に出てもいい。殿下から休みをもぎ取るから」


「……嬉しい。一生私を幸せにしてね」


 私はそっとファルスの手を取った。するとその手は私をグッと引っ張り、ファルスが私を抱き込む形となった。


「もちろん、幸せにするさ」


 いつのまにか私より大きくなっていたファルス。すっぽりと抱えられ、額にキスを落とすほどに。すると先ほどまで宙に浮いていた光の花が雪のように光りながら辺りをふわふわと浮いて私達の周りを包む。


「ファルス、マーロア!おめでとう。ようやくだな」


空から降りてきたのはイェレ先輩だった。


「イェレ先輩、こんなに素敵な光の花を、有難うございます」


「マーロアが喜んでくれて良かったよ!ゆっくり話をしたいけれど、まだ会いたい人達が居るだろう?二人で行っておいで」


 私達はイェレ先輩にお礼を言ってファルスのエスコートで父とテラ、それにビオレタの所へ向かった。どうやら父達は事前に知っていたようだわ。父は珍しく微笑み、テラはニコニコ手を振ってくれている。


ビオレタは涙を一生懸命拭っているわ。生涯忘れることの出来ない舞踏会になったわ。

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