第77話

「ちょっ、リディアさん!?」


 魔獣人とは簡単に言えば、魔獣が何らかの方法で人間の魔法を使う手段を得た時に人型に姿を変えて人間を襲う魔獣の最終形態。今まで見たことは無い。殆ど都市伝説レベルで空想上の物だと思われているからだ。


人間の使う魔法が使えるという事は魔法に対しての耐性も高い。それを剣無しで倒せるのかしら。私は不安になりながらも魔獣人に試しにファイアを打ってみた。すると相手もファイアを打ち、相殺となった。


何処まで魔法が使えるのかしら。私はファイアランスやフレイムボムを唱えると魔獣人も同じように唱えて相殺を図る。色々と魔法を試しているけれど、下級や中級の魔法を魔獣人は使いこなしている。かなり厄介だわ。上級魔法は殆ど使えないようだが、中級魔法でかなり威力を相殺している感じがする。


ここは物理的な解決法しか思い浮かばない。


 私は魔獣人を囲む小さな結界を張ると、水魔法で結界内を水で満たしていく。これには魔獣人も焦ったようだ。火魔法で水を蒸発させようとするが結界内の温度が上がるだけとなり諦めたようだ。次に凍らせたり、土魔法で結界を破ろうとしていたりしたが敢え無く失敗し、結果は溺死となった。


リディアが戦闘の様子を見た後、パチンと指を鳴らすとさっきまでいた魔獣人は光と共に消えてしまった。


「マーロアの勝ちね。正直魔法で倒せるとは思っていなかったわ。よく頑張ったわね。因みに、魔獣人は私が団員の訓練用に作ったの。凄いでしょう?」


うふふと色気たっぷりに話すその仕草とは裏腹になんて怖い物を作るのかしら。流石イェレ先輩のお姉さん。規格外だわ。とりあえず合格は貰えたようでホッと一息を吐く。


「マーロアは魔法の技術はかなり高いのね。イェレの下で魔法の訓練していたことも十分役だっている様子だし。どちらかと言えば補助に回るのが良いのかしら」


 リディアさんはさっきの戦闘で細かい部分まで見逃さなかったようだ。イェレ先輩やアルノルド先輩のように魔力が豊富な人は難易度の高い魔法を気にせず使うけれど、元下位貴族並みの魔力しかなかった私には同じことは出来ない。対抗するなら技術で隙を突くしかないのだ。


まだお披露目していないけれど、フェイク魔法だって得意なの。イェレ先輩との鍛錬で編み出した技。普段は全く使う機会はないのだけれどね。それからリディアさんはここの部屋の使い方を一通り説明した後、零師団本部の部屋へと戻った。


 今日の用事はこれで終わったらしい。次回は学院試験後に剣術を副団長が見てくれるらしい。私は礼をして邸へと戻った。色々あって休みたかったけれど、明日の試験は待ってくれないので団長さんから貰った書類に目を通した。


……これは明日の卒業試験の回答ではないかしら。


 絶対落ちるなって事なのね。ズルだわ。まぁ、問題は簡単なようなので見なくても落ちる事はなさそうな問題ばかりだったのが心のモヤを晴らしてくれる。


一応父には明日、学院の卒業試験を受ける話と少し早いけれど王宮勤務になる事を報告したわ。ファルスはというと、私と一緒に試験を受け、合格したら少し早いけれど王宮騎士団に入団する事が決まったらしい。


そこは王家としてもしっかりと私達の事情を考慮しているのね。


優秀な人材は絶対手放せないという事なのかもしれないけれど。父はもちろん、オットーも喜んでくれた半面、とても心配しているようだったわ。ファルスにもちゃんとユベールとビオレタに報告するようにと父は言っていたわ。





 ―迎えた学院卒業試験。


 私もファルスもどことなく朝から緊張している。今日は万一の事を考えて馬車登校にしたわ。昨日は貰った書類を馬車の中でこっそりファルスに見せると『流石零騎士団だぜ。絶対合格しないと駄目なやつだな』と笑っていた。


 学院に到着後、クラスとは別の部屋へ呼ばれて試験を開始する事になった。どうやら学院長が試験監督をするらしい。ちょっと学院長を目の前に緊張しつつ、テストの回答を書いていく。


やはり試験自体の難易度はかなり低かったわ。そして貰った書類のままだったのにも苦笑するしか無かったわ。流石暗部。どうやって手に入れたのかしら?そんな考えをしながら全問解いていった。


回答を書き終えるとその場で学院長が丸付けをしてくれる方式らしい。ちょっと意外だったわ。ファルスも私と同じく書き終えて学院長へテスト用紙を渡して結果を待つ。



 しばらくすると学院長が採点を終えて満面の笑みを浮かべる。


「マーロア・エフセエ侯爵令嬢、ファルス君。卒業おめでとう!!」


私もファルスもほっとしながらも喜びを分かち合う。


「「学院長先生、有難うございます」」


「君たちは入学試験の時から儂は注目していたが、二人とも良い成績を収めていた。それに闘技大会でも目が離せなかった。本当に学院自慢の生徒であった。これからは王宮でその才能を遺憾なく発揮しておくれ。


卒業証明書は後日エフセエ侯爵家に送っておこう。そして本来の卒業式と卒業パーティには出席するようにな」


「分かりました。学院長先生有難うございました」


 私達は学院長先生にお礼を言ってクラスへと向かう。やはり今日もクラスは閑散としていたわ。私とファルスはクラスに置いてある私物を引き上げてクラスメイト一人ひとりに挨拶をしてから邸へと向かった。


「ファルス、来週から王宮の寮住まいなのでしょう?荷物は大丈夫なのかしら?手伝うわよ」


ファルスは私と自分の荷物を抱えながら笑っている。


「大丈夫だよ。身体強化や風魔法で荷物も楽に運べるしな!それにアルノルド先輩から貰ったリュックもあるから一回で済むかもな。俺、荷物少ないし」


「そう、ならいいんだけど。なんだかちょっと感慨深いわ。私もファルスも夢が叶ったんだもの」


「そうか?俺はあんまり実感湧かないけど。まぁ、目指すのは騎士団長だ」


「そうね。私も当分は王宮通いだからお互い同じ職場だし、アルノルド先輩もイェレ先輩も居るし寂しくないわよね」


「そうそう。寂しくなったらいつでも来いよ。俺、寮だけど!」


 私達は笑い合いながら邸に帰ってきた。すぐに父の執務室へ今日の事を報告しに行く。ファルスは邸に入ってすぐに待っていた別の従者に荷物を渡して私と共に父の執務室へと向かった。

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