第75話

―コンコン― 


「失礼します」


執務室に入ると、いつものようにオットーと父は執務をこなしていたわ。


「お呼びですか?お父様」


「マーロア、先ほど王宮から来た手紙のことだが――」


「お父様、ファルスは同席しても?」


「あぁ、ファルスなら他の者に話さんだろう?ファルス、ここだけの話だと心に留めておけ」


「承知致しました」


ファルスは父の言葉に従者の礼を執った。


「マーロア、どういう事か説明してもらわねばならない。マーロアに陛下直属である王宮騎士団第零師団の入団案内が来た」


 王宮騎士団第零師団?第零師団は謎も多く暗部の者もいると言われている部署。先程陛下が言っていたのは第零師団の事だったのかぁ。


父に直接入団の届がきているのね。


いつまでも父に隠す必要はないと思っていたけれど、今が打ち明ける時なのだと感じた。


父にはどう受け止められるだろう?


また捨てられるのかしら。嫌がられる?それとも令嬢として嫁げと言われてしまうのかしら。不安になりながらファルスに視線を向けると、ファルスは真面目な顔で頷いている。


きっと打ち明けるなら今だと彼もそう思っているのだろう。


私は覚悟を決めて父を見ながら口を開いた。


「……お父様。私が第零師団と呼ばれる部署に声が掛かったのには理由があるのです」


「理由とは?」


私はそっと右手から水球を浮かばせる。すると父とオットーは目を見開き、私の魔法を凝視している。


「ま、マーロア、いつから、魔法が使えるようになったんだ?」


「五歳の時だったと思います。村に出た魔獣をファルスと見に行った時に魔獣が私達に向かって来たのです。その時に身を守るために魔法を使ったのが切っ掛けですわ」


父は驚きを隠せないでいるようだった。


「ど、どうして報告しなかったのだ?ユベールからは何も聞いていない」


「お父様、ユベールを叱らないで下さいませ。口止めしたのは私なのです。ずっと村で生活していて神父様からもこれは神の思し召しだと。魔力無しの判定をされたのはきっと理由があるに違いないので黙っているように言われたのです」


「……そうだったのか。だが何故陛下がマーロアに魔力があるのを知っているのだ?」


「それは、闘技大会で知ったのだと思います。魔力量の多い王族や一部の魔術師の人には魔力を見る力があるようでシェルマン殿下や陛下は私を見て気づかれたのだと思います」


「それで舞踏会で殿下の護衛を引き受ける事になったのか」


父は点と点が繋がったかのような腑に落ちた顔をしている。


「そうですね。私は女であり、魔力無しと思われているので敵は油断しやすく適任だと判断されたようです」


「……そうか。マーロアが魔力持ちだと知っているのは他に誰かいるのか?」


「村ではユベールとビオレタ、村の神父様とファルス、レコですわ。後、レヴァイン先生、アルノルド・ガウス侯爵子息、イェレ・ルホターク子爵子息と、武器屋のマージュと防具屋のダンジオンと王族だけですわ」


あら、よく考えると知っている人って結構いるのね。


「マーロアから教えたのか?」


「ユベール達は家族ですから自分から教えました。後の方は私が魔力持ちだと気づいた感じです」


「そうか。どれくらいの魔力量があるのか調べたのか?」


「いえ、イェレ先輩の話では下位貴族の平均魔力量より少なかったようですが……」


 私は言ってからマズイと言葉を濁し、視線を反らすとファルスと視線があった。ファルスはあーあ、言っちゃったよと言わんばかりの視線を送っている。


「下位貴族の平均魔力量より少なかったが……?その後があるのか?」


「はい。詳しくは言えませんが、魔獣討伐をした時に木の実を持ち帰り、先輩方と一緒に食べたのです。その後、体に変化があり、現在は上位貴族並みの魔力を保持しているようです。詳しくは調べていないのでわかりません」


「そうか」


父は何やら考え事をしている。今まで魔力無しだと思っていたのに上位貴族並みの魔力持ち。思うところは沢山あるのだろうと考える。


「お父様、先日王宮から呼ばれたのはこの件でした。私は陛下にお受けいたしますと返事をしましたわ」


「だが、第零師団は隠された師団だ。危険な任務が伴うのではないか」


「陛下からはレヴァイン先生の補佐に就くように指示を受けておりますわ。冒険者としての活動をしながら、という感じなのだと思います。私は冒険者になるのが夢でしたし、レヴァイン先生の下で働けるのなら第零師団に喜んで入ろうと思います」


「……そうか。分かった。侯爵家としても王宮で働く事に反対する事は出来ない。送られてきた書類にはサインをしておく。だが、あまり危険な事はしないで欲しい。心配しているのだからな」


 私は満面の笑みを浮かべて頷く。いつから仕事になるのかしら。どういったお仕事なのかしら、レヴァイン先生が迎えに来てくれるのかしら。父の心配を他所に私は既に仕事に夢を馳せていたら後ろからトントンと肩を叩かれて振り向くと、ファルスが苦い顔をしている。


ハッと我に返ると父達は私を見て呆れている感じだ。


「まぁ、とにかく。無理はするな」


「はい。お父様」


そうして私達は部屋へと戻った。


「マーロア、零師団おめでとう。この事だったんだな。零師団って陛下の影もやっているんじゃなかったっけ?」


「謎が多いわよね。私も詳しく聞いていないの。ただ決まっているのはレヴァイン先生と一緒に冒険の旅に出て新人のスカウトをするという事かしら」


「いいなぁ、俺もマーロア達に付いていきたい」


ファルスはとても羨ましそうに言う。


「でもファルスは騎士団長になるのでしょう?」


「そうだな!俺の夢は騎士になる事だしな。たまの休みにマーロア達と狩りをして息抜きするのがいいんだよ」


子供の頃からの夢だものね。お互い夢が叶うのだからとっても素晴らしい事だと思う。そうして私は今日の出来事に考えを巡らせながらベッドに入り、目を閉じた。


 


 王宮からの手紙が来てから数日後、父は王宮に零師団への入団契約書を提出し、無事受理されたらしい。陛下の方は待ちに待ったという感じだったのかしら、夜寝る前に魔法鳥(陛下特別バージョン)が窓をコツコツと鳴らして部屋に入ってきたわ。そして私の手に触れるなり手紙へと変化した。


これは今までに見たことが無い魔法便だわ!と一人部屋で感動したのは内緒よ。流石王族。手紙の封を開けると、そこには明日からの予定表がざっくりと書かれていた。卒業後に職場に行くのではないのね。『早急に学院の卒業試験を受けるように』って書いてあるわ。


明日、学院に登校後、王宮の陛下執務室横の部屋へ直行せよ??陛下執務室の横に部屋なんてあったかしら?そう思いつつ、この日はベッドに入った。

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