第5話
部屋で音楽を聴くときはだいだい独りで煙草を吸いながらボーッとしているときが多く、昔はクラシックを聴くときが多かったがさいきんはジャズやロックなどを聴くときが多い。私がいちばん好きなジャズミュージシャンはチャーリー・クリスチャンというジャズギターの名手で、若くして彗星のように散った。はじめて渋谷のタワレコで買ったのもチャーリー・クリスチャンのCDだったと思う。だいたいジャズの人の天才というのは大概が麻薬漬けで、私の勝手に師匠と決めてしまった深沢七郎さんの「まったく人類に貢献する人はみんな麻薬中毒者なんだなぁ」という言葉がよみがえる。ハンク・ウィリアムス、マリリン・モンロー、ジミ・ヘンドリックス、たしかにみんな釈尊のような存在のまま若くして散った。七郎さん風に言うと「ナウ」をつかんだままいなくなったのである。ナウは、百年前からあるし、未来のようでもあるが、やっぱり現在なのがナウなんだろう。みんな好きなカート・コバーンなんかもそうかもしれない。チャーリー・クリスチャンの音楽も僕にとってはそのような尊いもので、頭の中のクシャクシャしたものがすべてきれいさっぱり洗われるようだ。それはナウだ。僧侶がお経を唱えているうちに宙に浮くなんて言うけど、それと同じようなものだろうか?ナウはボーッとそこにあって、すべてを許してくれる。ハジケルような、ギターの、ツブツブとした粒子のような音が耳から頭へ入って再びハジケル。その幸福感たるや。まあ、これは誰でも同じようなもので、どんな人にでも自分にとってのそんなものは一つか二つあると思う。それは、猫でもどら焼きでも可愛い女性でもお酒でもサイダーでも映画でも、楽しければ何でも良いのだ。
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