Chapter.7 赤灯


時は流れ私は中学2年生になった。特に変わる事もなく母は相変わらずだったし父は仕事から帰ると自室に篭り切りになった。変わっていったのは心の中を蝕む病魔のスピードが異様に早くなっていった事だった。


以前話したようなポーっと意識が遠のきゲームの世界の中にいる様な感覚は続いていたが眠っていたはずなのに階段に1人で座っていたりゴミ箱を漁っていたりといった夢遊病も悪化し始める。酷いと自室で眠っていたはずなのにお風呂場の鍵を閉め包丁を持って端っこに体育座りしていた事もあった。自分が一番ゾッとするのだ。眠っていたはずなのにこれは何していたんだ?と。


そして幻聴も顕著に現れ始める。頭の真上で母親と父親がお金のことだろうか、何かを口論している声が聞こえると言うより頭の真上からするのだ。あと私がよく聞こえていたのは例えるならメリーゴーランドの様な騒がしい音楽と意味不明な言葉が羅列された女の子の声が聞こえた。これらが聞こえ始めると何故かとても焦燥感が生まれ、どうしよう、どうしようと焦るのだ。特に焦ることは何も無くとも心がざわざわした。


ある日私が2階の自部屋にいると母と父がまた口論をしたらしく母が過呼吸を起こし自身でゴミ袋を頭からかぶり発狂していた。救急車も呼んでいた。

間も無くして救急隊が到着する。『旦那に殺される』と通報したせいで警察までもが来た。赤灯で一面は真っ赤、玄関先に集まってくる近所の住人、大丈夫ですか、話せますかと言う救急隊員の声、事情聴取をされている父親と警察の声。



急に何もかもどうでも良くなってしまった。怖いだとか悲しいだとかの感情が何も湧かないのだ。ごった返す玄関先を階段上からただ見つめていたがスッと自部屋に戻りカッターを手にする。とりあえず思うままに左腕を切り刻んだ。痛みを感じるまで。自分が戻って来るまで。


はっと我に返った時には太ももの上に血が滴っていた。痛い。大丈夫だわ、生きてるわ。まだいける。そんな事を一番最初に思った。そして切った腕を見ていたら初めて涙が出てきた。やっと泣けた、そうだ私苦しかったんだ。泣きたかったんだ。これが人生初の自傷行為である。


自分を傷つける自傷行為は色んな意味合いがあると思っている。生きていると感じる為、はたまた詩を切望する為、ただ何となくだったりステータスだという人も居た。その理由こそ十人十色だろうと思う。私の場合泣く為の手段だった。自分を保つ手段の一つだった。実際私のクラスにも何人か自傷行為をしている子達がいた。でも彼女たちはそれを鼻高々に見せ合うのだ。


『私また昨日やっちゃったんだよね〜』

と同級生達はケラケラ笑いあっていた。



私は誰にも話す事が出来なかった。自身の口から口が裂けても話すことなんて出来なかった。自分の家庭がおかしい事も自傷行為をしている事も全てだ。

私はまた偽りの仮面をして言う。『え〜どうしたの〜?またなんかあった?』

どうせくだらねぇ理由なんだろうなぁ。そんな事を想いながら理由を問う。


女社会の常である。いかに心配してあげられるか話を聞いてあげられるかそれで友情のステータスは上がるし“ニコイチ”や“心友”に簡単になれる。生き残っていく上で大事な事なのだ。それは一番母が教えてくれた事だ。その為なら舌も売る。思ってもない上部だけの言葉をいくらでも投げる。小さくジメジメしたくだらない社会だ。



それは幾つになっても変らない事実だ。




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