悪事も善行も大きく括ればどちらも行動しなければ妄想で終わる
今日は緊急で開かれた協議の日で、国王をはじめ王家の人間とこの国の大臣たちが一堂に会する。
エムはいつもと同じ様にきっちりとした装束を着こなしてエスの横に立つ。
今日ばかりはエスも、春の王族会議の際にエムにもらった服をきっちりと着て立っている。
今日は次期国王は少し離れたところ、二人より一段も二段も高い場所で座っている。
そんな彼の一段上には今の国王が座っていた。
二人と同じ高さの場所で座っているのは、この国の大臣たち。
難しい顔をしている者、オロオロと狼狽えている者、今が好機とニヤケ顔を必死に隠している者。
大臣たちは皆、貴族ではあるが、その中身はバラバラだ。
きちんと国の事を考えている者、私腹を肥やすことしか頭にない者、何も考えていない者。
エムは彼らを一瞥すると、呆れたように小さくため息を漏らした。
エムも貴族であり、家の名だけでいえば、エムより地位が低い大臣たちも少なくない。
しかし、エムはまだ家をきちんとは継いでおらず、また、エムには魔導師の頂点である称号エムの名を冠している。
エスとエムの称号は立場の有無はない。
ある意味では大臣や貴族、時と場合によっては国王さえ動かす権利を持ち、ある意味では領主や商人、時には平民より立場がないとも考えられる。
エスとエムはその称号を得た時から、エスとエムという立場であり、そういう生き物に等しい。
それ故、エムは大臣でも貴族の当主でもないが、貴族の内情に明るく、発言力を持ち合わせてしまっている立場なき者。
その存在は大臣たちにとっては、何をしても目の端に入ってくる煩わしくてたまらないだけの目の上のたんこぶ、といったところだろう。
エムの小さなため息を、目で耳で捉えた大臣たちが、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
その一人が声を上げる。
「エム殿!此度の騒ぎの一件、貴方はそれを未然に防ぐことができなかったっ!そのことの重大さ、自身のお立場を分かっているのか!?」
その声を皮切りに、不平不満を蓄えていた大臣たちがそれをエムにここぞとばかりにぶつける。
「そうですよー!エム殿には立場をわきまえていただかないと困りますー!!」
「そんなところで知らぬ顔で他人事よろしくため息など吐いて……信じられません!」
「エム殿、騒ぎは我が国にとって重要とされる儀の日に起こった。どうにかささやかながらではあるが、帰りの儀も内々に執り行いはした。しかし国民たちの中には事態が収束したとはいえ、未だ不安や不信感に襲われている者がいるだろう。此度の失態はどう考えられ、どう贖うおつもりか」
エムは一身に浴びせられる彼らの暴言にも似た叱責や神妙に問われる進退についての事柄を口を挟むことなく、静かに黙って聞いていた。
そして、その問いに答えるように口を開く。
ひどく冷たい怜悧な瞳と無感情の声音で。
「まるで自分たちには非がないとでも言いたげな言い草だな。他人事よろしく、その言葉は丁重にそちらにお返ししよう」
エムの言葉は大臣たちにとって、望んだような泣き言ではなかった。
思いもしない言葉を浴びせられ、大臣たちは口をパクパクさせながら、言葉を失う。
そんな彼らのことなど、意に介さず、エムは言葉を続ける。
「祭りの参加者は、ほぼここにいる全員だった。国王や王子は城の厳重な警備の中にて身動きは取れなかったでしょうが、その他のそこらの大臣やその御子息は街にて祭りに参加していたでしょう。だというのに、騒ぎに駆けつけたのは私とエス、一人の観光客、たった三人でした。客人は逃げたようですが、それは構いません。しかし、貴族には腕に覚えのある方々ばかりのはず、他にも自分のところで警備のものを雇っている。それなのに、これほどの人数がいながら、事態はエスの部下である城の騎士が到着するまで終息しなかった。これについて、まずお聞かせ願いたい。貴方がたは国民が危険にさらされているその瞬間、一体どこにいて、そこで何をしていたのか……その後に、此度の事態で後手に回ってしまったこと、ついては私に進退についても考えお話をしましょう?」
理路整然と正論を並び立てるエムの言葉に、歯噛みをする者あれど、言葉一つも返せる人間はそこにはいなかった。
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