第35話 お化け屋敷と、ダンス

Side:スパロ


 ナノが遊園地に誘ってくれた。

 聖女様とベルベルと一緒に行く。


「今日はお化け屋敷体験だ」


 遊園地の入口でナノが待っていた。


「どんな乗り物だ?」

「乗り物じゃないけど、きっと楽しいと思うぞ。まあ、入ってみてのお楽しみだ」


 俺が尋ねるとナノは笑ってそう答えた。

 不気味な感じの入口に入る。

 中は真っ暗だ。

 ぼんやり光る緑色の矢印に導かれて進む。


「スパロ、手を握って良い」


 ベルベルが不安そうだ。


「そうだな。躓いたりすると危ない」


 後ろから、ナノと聖女様がついて来るのが気配で分かる。

 俺もモンスターとの戦いで成長しているようだ。

 後ろを見なくても少し把握できる。


「きゃ」


 ベルベルが可愛い悲鳴を上げる。

 冷たい何かぬるっとした物が、顔に当たった。

 スライムみたいだ。


「ナノ、ポーションを」

「心配いらないよ。怪我はしない」


 ぬるっとした物を掴んだ。

 四角いな。

 糸で吊るしてある。

 もっと柔らかければ、まるでゼリーだ。


「きゃあーー」


 突如、前方から悲鳴が聞こえ、青い燐光をまとった骸骨が出て来た。


「きゃあー」


 ベルベルが悲鳴を上げる。

 後ろで聖女様が魔法を唱えた。

 魔法は不発だったようだ。


 骸骨は糸で吊るされたような感じで、カランカランと音を立てて動き、引っ込んだ。

 この催し物はアンデッドをイメージして作られているんだな。


 作り物だから怖くないな。


 部屋に入る。

 うすぼんやりとした灯りに、壁には赤い光る血痕。


「ぎゃあー」


 壁に人の顔のアップが映された。


「きゃあ」


 ベルベルが後退る。


「落ち着いて。ただの絵だよ」

「悪趣味ね。もうここには来ない」

「進もう」


 次の部屋では喪服を来た人達が列をなして歩いている。


「しくしく」


 悲しい鳴き声が聞こえる。


「ぎゃあー」


 悲鳴が聞こえ、喪服の人達が一斉にこちらを向く。

 その顔面は腐っていて蛆が湧いている。

 だが蛆に動きはない。

 作り物だな。


「きゃあきゃあ」


 ベルベルが悲鳴を上げる。


「人形だよ」


 腐った顔の人形の一体が笑った。


「きゃあ」


 ベルベルが繋いでない方の手で顔を隠してしゃがむ。


「人形だよ」

「ほんとう?」

「進もう」


 次の部屋では子供の声がする。


「きゃははっ」


 足音もする。

 そして、呪ってやるという声が大音響で響き渡った。


「きゃー」


 ベルベルが悲鳴を上げて俺に抱きつく。

 聖女様が解呪の魔法を唱えた。


 みんな、大げさだな。

 外に出ると眩しかった。


 なぜか下着売りの箱がある。

 ベルベルは赤い顔で購入した。


「どうだった」

「まあ楽しめたかな」


 4人ぐらいでわいわいと楽しむものだな。

 また来たいとは思わないが、一度なら良いだろう。


Side:ハイチック8000


 お化け屋敷にベルベルちゃんとイユンティちゃんを招待する。

 あと、おまけのスパロな。


 こんにゃくは古典的だが、面白い。

 隣を歩いているイユンティちゃんはこんにゃくが当たって回復魔法を唱えた。

 何で回復魔法。

 異世界人の感覚は分からん。


 骸骨の所では、イユンティちゃんは攻撃魔法を唱えた。

 ここは抱きついても良いんだけど。


 血痕の部屋では、イユンティちゃんは洗浄の魔法を唱えた。

 汚れだと思っているようだ。

 苦痛の顔のアップが映し出されても、反応がない。

 こんなはずでは。


 喪服の所ではイユンティちゃんは鎮魂の祈りを奉げている。

 一斉に顔が向いても変わらない。

 それに所作が加わっただけだ。


 子供の部屋では呪ってやるという声と共に解呪の魔法を唱えた。

 ええっ、恐くないのかよ。

 魔法があれば大丈夫さと、ニカっと笑いサムズアップする絵面が浮かんだ。


 イユンティちゃんの反応はお化け屋敷向けじゃない。

 ベルベルちゃんとスパロはいちやいちゃしている。

 羨ましい。

 血の涙がでそうだ。

 スパロの奴、抱きつかれやがって。

 ゆるせん。


 どうすれば、いちゃいちゃ出来る?

 ダンスかな。

 チークを踊りたい。


 次はディスコにしようか。

 それとも社交ダンスを覚えるべきだろうか。


【社交ダンスのデータは?】

【ありません。格闘技ならありますが】

【ディスコで踊る恰好良いのは?】

【ありません。資源調査を何だと思っているのですか?】


 それぐらい網羅しておいても良いだろう。

 腐る物じゃないしさ。

 だけど、どっちかと言えば軍用だからな。

 仕方ないか。

 別の手を考えよう。

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