第33話 物乞いと、ゲール

Side:スパロ

「領主様、物乞いが来てる」


 孤児が報せにきた。

 物乞いとは珍しい。

 巡礼みたいな人は来ているけど、そういう人は畑で参拝すると去って行く。

 居つく人はなかなかいない。


 これからはそういう人も増えるのかな。

 対処を決めておかないといけない。

 スラムを作られるのも困るし、叩き出すのも不人情な気がする。


「物乞いだって。ナノどうしたら良いと思う」

『生活保護は確かに必要な制度だけど、職業訓練も大切だ。精霊の国で訓練してやるよ。職業適性を調べるから無駄がないはずだ』


 分かんない単語を並べられた。

 理解できないけど、ナノに任せておけば良いかもな。


 俺は物乞いに会ってみる事にした。

 物乞いは惨めなボロボロの恰好で禿げ頭だった。

 黒い顔の垢だらけで、おまけに口もきけない。


 俺がそばに寄ると泣いてすがってくる。

 可哀想な人だな。

 こんな人にも出来る仕事があるだろうか。


 泣く物乞いをなだめて畑に寝かす。

 土の中に飲み込まれた。

 あとはナノが何とかしてくれるだろう。


 参拝客が訪れるので、乗合馬車のルートが出来た。

 露店などを開く人も現れる。


 銀河連邦クレジットは次第に普及しているようだ。

 土産物に換える人が多い。

 売れ筋は、精霊まんじゅうだ。


「観光の目玉がほしいね」

『おお、温泉行っちゃう』

「温泉って何?」

『暖かいお湯が地面から湧きだすんだよ。それを使って風呂に入る』

「お風呂に毎日入れるのはいいね。そういえばここに来てから一度も風呂に入ってない。川も池もないから、水浴びもしてない」

『不衛生だな。温泉の採掘許可を』

「領主の権限で許可する」


 ゴーレムが土を掘り始めた。

 かなり深く掘っている。

 そして、関節から湯気が上がった。

 温泉を掘り当てたらしい。


「どのぐらい堀ったの?」

『2キロだな。小さい街の端から端ぐらいだ』

「凄いね」


 瞬く間に灰色で出来た温泉施設が出来上がった。

 中に入ると男湯と女湯に分かれていて、男湯に入ると、脱衣所があり、ロッカーが設置されている。

 ロッカーにはカードを入れるスリットがある。


 カードを入れるとロッカーが開く。

 服を脱いでから入れる。

 湯屋に入ると、湯船にはドラゴンの頭があり、暖かいお湯を吐き出していた。

 湯舟に浸かる。

 体から領主をやっているストレスが抜けていくようだ。


 これは良い物だ。

 風呂から上がって脱衣所に四角い箱があるのが分かった。

 カードを入れてタッチする冷たい飲み物を頼んだ。

 脇のプランターに飲み物の実が生る。

 瓶が生るのももう慣れた。

 もぎ取ると植物が枯れて土に吸収される。


 蓋を取って一気に飲んだ。

 よく冷やされている。

 これは流行るぞ。

 ベルベルにも教えてやらないと。


Side:ハイチック8000


 物乞いを職業教育する事になった。

 こいつはゲールじゃないか。

 口がきけなくなって勘当されて放り出されたか。

 惨めなものだ。


 口を再びきけるようにしてやろうかな。


【銀河連邦の法に則るった場合、こいつの罪状は?】

【暴動の首謀者ですから、軽くても懲役3年ですね】

【じゃあ3年経ったら口をきけるようにしてやろう。こいつの最適な職業は?】

【ゴミ拾いですね】


 よし、立派なゴミ拾いに育ててやろう。

 VRなので臭いをカットしてあるのは良かった。

 たぶん風呂に入れないと、臭くて堪らない。


 スパロが観光の目玉がほしいと言っている。

 風呂が良いな。

 温泉にしよう。

 色街なんか作っちゃったりして、VRにも温泉町を作ろう。

 よし、ダブルで温泉開発だ。


 地上の温泉は深い所にある2キロは堀った。

 ナノマシンに掛かればこんなのチョロい。

 汲み上げるポンプも設置。

 ポンプの限界なんて、超科学力の前にはどうって事は無い。

 2キロぐらいは簡単に汲み上げられる。


 恩論施設を作って、自販機も中に設置。

 あとでマッサージチェアとかも作っておこう。

 ドライヤーも必要だな。


【科学技術漏洩には抵触しないだろうな】

【魔道具で類似の物は作れます】

【武器でもありませんので、問題はないでしょう】


 さて、ゲールは仕上がったかな。

 ゲールを見に行くとトングで素早くゴミを拾ってた。

 そして袋に入れて溜まったら、精霊の畑に捨てる。

 よし、実践させてやろう。


 ゲールをVRからログアウトさせる。

 疑似植物を生やしトングと袋を生らせた。

 ゲールがゴミ拾いに出発する。

 露店などがあるので、ゴミはそれなりにある。

 頑張って拾っているようだ。


 ゲールの銀河連邦クレジットがガンガン溜まっていく。

 何を買ったかと思えば、精力剤だった。

 不能なのを気にしているのだな。


 3年は治らないと伝えなくてもいいな。

 その方が頑張れるだろう。

 しかし、スパロはいつゲールに気づくのだろうな。

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