第37話 事件の結末 ※エンゲイト公爵家当主視点

「閣下、またあの家から手紙が送られてきました」

「またか。今回も読む必要は無いだろう。そのまま保管しておけ」

「わかりました」


 執事が持ってきた手紙をチラッと確認してから、すぐに突き返した。その手紙は、保管しておくように指示する。おそらく、後で読み返したりはしないだろう。だが、念のために証拠として保管しておいた。この証拠を使う日は訪れないだろうが。


 あの家も、追い詰められて焦っているようだ。何十回も繰り返し手紙を送りつけてきて、何とか取引に持ち込もうと必死だった。


 手紙に書かれている内容は、いつもと同じだろう。わざわざ読まなくても分かる。おそらく、ベリンダ嬢を返してくれというもの。もう一度、取引してほしいと彼らは懇願してくる。


 ナハティガル男爵家とスターム侯爵家の取引について、記録には存在していない。


 スターム侯爵家のベリンダという女性は、既に病死したことになっている。彼らが公表した。そしてナハティガル男爵家のベリンダ嬢は、生まれ時から男爵家の娘だという記録になっている。両家の間に、取引した事実などない。これは、王国も認めていること。だから、ナハティガル男爵家のベリンダ嬢を返せと言われても無理だ。


 それなのに彼らは納得しない。何度もしつこく手紙を送ってくる。屋敷に押しかけてきたこともあるが、当然門前払いした。


 ナハティガル男爵家にも何度も繰り返し手紙を送って、屋敷まで乗り込もうとしたらしい。もちろん、ナハティガル男爵家は拒否した。


 男爵家には、色々と迷惑をかけてしまったな。後で、謝罪の品を送らなければ。


 とにかく、このまま無視し続けていればスターム侯爵家は断絶するだろう。だから放置しておく。


 スターム侯爵家の一人娘は、あの事件の結果、婚約者とまとめて僻地へ送られた。王国騎士団が調査した結果、王子暗殺の疑いは晴れた。だが、色々と問題を起こして王子を危険に晒したことは事実。その結果、責任を取ってハルトマイヤー家は爵位を返上することが決まった。領地も王家に返還される予定だった。


 そんな状況だったので、スターム侯爵家には跡継ぎが居ない。このままだと家系が断絶する。そうさせないために、対策する必要があった。跡継ぎにベリンダ嬢を取り戻したい。そういう考えなのだろう。


 養子を取るにも、色々と問題を抱えているので無理のようだ。だから、近いうちにスターム侯爵家は断絶するだろうな。


 早く取引しておいて良かった。少し遅れていたら、スターム侯爵家は大事な彼女を引き渡さなかっただろうから。


 我が息子のウォルトンとベリンダ嬢は、今やエンゲイト公爵家には欠かせない存在となっていた。


 彼らの活躍で、様々な貴族との交流が盛んになった。そのおかげで、色々な取引も成立した。協力関係も強固になって、大きな利益をもたらしてくれた。


 彼らの協力がなければ、ここまでの発展はなかった。そう断言できるぐらい、彼らの活躍は大きかった。


 そして、これからも活躍してくれるだろう。かなり期待していた。


 だからこそ、今後は彼らの護衛を増やさないといけないだろう。馬車を止められた時は何事もなく無事に終わってくれた。運が良かった。警戒しておくべきだったと、強く反省した。


 移動の際も護衛をつけるべきだな。彼らを傷付けさせないように、しっかり守っておかねば。


 ウォルトンとベリンダ嬢の成果を確認しながら、護衛に関する計画を考える。

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