第66話 美濃衆
家康が織田の本陣を離れたのち、信長が残った兵を見回した。
「殿、いかがされましたか?」
「……おれバカだから難しいことわかんねぇんだけどさ〜。なんか兵少なくないか?」
信長の指摘に、丹羽長秀が陣を見渡した。
「……そういえば、稲葉一鉄殿が見えませぬな……」
「安藤守就殿もだ」
「別働隊に入っているわけでもないのに、これは……」
家臣たちが顔を見合わせる。
気がつけば、別働隊の出陣に合わせて美濃の国衆がこつ然と姿を消していた。
これは、相当まずいことになっているのではないか……。
顔を青くする家臣たちに、信長が命令をだした。
「至急、家康に使いを出せ。そちらの兵は何人残っているのか、と」
義信軍の背後に回り込んだ家康は、飯富虎昌率いる赤備えと対峙していた。
「赤備え……先の戦では遅れをとったが、此度はそうはいかぬ。今こそ家臣の無念を晴らす時ぞ!」
見たところ、赤備えは3000騎ほど。
対してこちらは1万1000。
相手が精兵とはいえ、4倍もの兵力差だ。
勝機は十分あると言えた。
「赤備えを倒し、その後は……」
赤備えの守る先には、武田軍の本陣が構えてあった。
家康が本陣を強襲している間に織田軍本隊が正面から猛攻を仕掛ける。
これならば、十分義信の首に届きうると言えた。
「全軍、征くぞ!」
采配を手に、家康は声を張り上げるのだった。
家康率いる織田軍を前に、飯富虎昌は静かに闘志を燃やしていた。
(来たか……)
織田軍の強襲に合わせて本陣の守りを固めたとはいえ、武田軍の急所であることに変わりはない。
主である義信の首がかかっている以上、万に一つも抜かれるわけにはいかなかった。
「此度の戦、我らが双肩に託された! 尾張の弱兵が何するものぞ! 赤備えの武、とくと味わわせてくれようぞ!」
家康と飯富虎昌の戦いが始まると、義信の構える本陣にも兵たちの声が聞こえてきた。
「始まったか……」
「お館様、徳川家康の率いる織田軍はが迫っております。この場は離れた方がよろしいかと」
「問題ない。爺が赤備えを率いておるのだ。万に一つも負けはない」
家康を迎え撃つ一方で、義信は信長率いる織田軍本隊の動きが気になっていた。
「稲葉一鉄、安藤守就ほか、美濃の国衆たちが織田軍から離反し始めている。今ごろ、織田の本陣は混乱していることだろうな」
「はっ、織田の兵も二割ほど減ったとのこと」
物見の者によれば、正面の織田軍は1万8000。
家康率いる別働隊は6000ほど残っているという。
「戦わずして、兵が削れましたな」
長坂昌国がぽつりとつぶやく。
「しかし油断はするなよ。相手は義元公を討ち取った名将だ。これしきのことで終わるとは思えんからな……」
義信は川を挟んで織田軍本隊を見据えるのだった。
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