第48話 甲斐の国衆

 上杉との同盟成立の兆しが見えると、武田家でも上杉との同盟を祝う気運が高まっていた。


「流石はお館様。上杉北条を相手に一歩も引かず立ち回るとは……」


「これで上杉との同盟も時間の問題ですな」


 同盟成立を前に、長坂昌国、曽根虎盛が機嫌を良くする。


 初めは上杉との同盟には反対を表明する家臣も多かったが、いざ同盟を目前にすると反対意見も消えていた。


 口でこそ上杉をそしっていたが、その実誰もが上杉との対立を望んでいなかったのだろう。


(謙信は強いからな……。まともに相手をしては、どれだけ犠牲が出るかわからないぞ……)


 上杉、北条との三国同盟が締結されれば、北と東の脅威は排除され、織田家との戦いに集中することができる。


 さらに、織田との戦いに上杉や北条の兵も動員できるとなれば、戦いにも余裕が生まれる。


「また一歩上洛に近づいたな」


 義信がうんうんと頷く。


 ともあれ、すべてが順風満帆というわけでもなかった。


 先の飛騨の戦いを制したことで、武田家は飛騨を加えた7ヶ国を領有する大大名となっていた。


 しかし、領地の拡大に伴い、人や土地が増えたことで、それらを管理する官僚の不足が目立ってきた。


 それらを管理する場所を作るべく、義信は甲斐の地図を広げた。


「やはり狭いな……」


「仕方ありますまい……。甲斐には多くの国衆もおり、使える土地は限られてます」


 守護大名とはいえ、元々武田家は甲斐の国人衆の代表でしかない。


 そのため、甲斐を治めているとはいえ、他の国人に気を遣いながら、どうにか守護大名の地位に収まっているにすぎなかった。


 今でこそ7ヶ国の太守となっているが、甲斐での武田家は未だ一有力勢力の一つにすぎなかった。


「広い土地を確保するにも、まずは国衆に話をつけ、融通してもらう必要がありましょうな。その上で代わりとなる土地を与え、機嫌を損ねぬようせねばなりますまい」


「面倒だな……」


「我らも国衆に支えられ、ここまでこられたのです。仕方ありますまい」


 飯富虎昌の言葉もわかるが、今はその国衆が足枷となっている。


 150万石の大大名にもなったというのに、国元の家臣すら御せないとあっては、今後の領地運営に支障をきたすことは目に見えていた。


 かといって、国衆を軽んじるということは、譜代の家臣から反感を買いかねない。


 国衆か。武田家か。


 答えはわかりきっているはずなのに、片方をとってはもう片方が立ち行かなくなる。


 そこまで考えて、ふと思い至った。


 そういえば、信長は那古野城からはじまり、清洲城、小牧山城、岐阜城と拠点を移動させている。


 それならば、武田家も本拠地を移転させるのはアリなのではないか。


「……決めたぞ、爺」


 嫌な予感がしつつ、飯富虎昌が尋ねた。


「いったい、なにを……」


「本拠地を移転させる」


「は!?」

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