第72話 忘れられない記憶
それはまだ、携帯電話が普及していない頃のことでした。
入院中の楽しみなんてなにもありませんでした。
テレビは一部屋にひとつ。食事する部屋にもひとつありましたが、こちらもベテランさんが主導権をにぎっております。
冷蔵庫も食事をする部屋にひとつ。ただし、名前を書いていても盗まれることもあります。
さて、電話の話です。
夕飯後は、トイレと公衆電話の奪い合いです。
その日も、親父さんに電話して、火の元の確認等々気をつけるようにと電話をかけようと思っていたのですが(毎日電話するように、との親父さんとの約束でもありましたし)、その日は元気のいいおばさまに先を越されてしまいました。
あきらかに話の長そうなおばさまです。案の定、間もなく退院するので、という報告を、方方にしているようでした。
が。そのうち、電話の方から奇声が聞こえてきました。
あきらかに事件のようです!!
後で知ったのですが、電話をかけていたおばさまが、電話中に膝が冷たいと思って見たら、膝の内視鏡の手術の方だったのですが、傷口が膿んでしまって、水が飛び出した、と。
せっかく楽しそうに退院の連絡をしていたのに、おかわいそうに、と思いつつ、なんとなーくこの件が頭を離れなくなり、そういえば昔、盲腸の手術をした方が、糸? のアレルギーかなにかで傷口が膿んでしまった話と重なり、怖いものになったのでした。
これまで色々なアレルギーに悩まされている私ですが、手術後のトラブルがなかったことは幸いです。
ちなみにそのおばさま、公衆電話から運び出されて処置室で緊急オペじゃないけど、麻酔しないで仮縫いして、次の日に緊急オペになりました。なんか、お医者さんも初めてのケースらしくて、怒りっぽいお医者さんだったのですけど、その後めっちゃ機嫌が悪かったです。
内視鏡手術なんて簡単だよ、なんて思っている方がいらっしゃったとしたら、こういうこともあるんだよ、ということを心にとめておいてください。手術は、大きくても小さくも、メリットもデメリットもあるのです。
つづく
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