第23話 有効活用


 *異世界6日目:朝


 朝起きて朝食を食べ終え、ゆっくりしているところにリリスがやって来た。


「マスター、おはようございます。昨夜ゴブリンは無事に送り届けました。」


「あぁおはよう、お疲れ様。もしかして今帰ってきたのか?」


 夜中ずっと働かせていたなら悪いなと思っていると、


「いえ、昨夜はゴブリンを送ってからはすぐに戻って休んでいます。今はビッグラットの様子を確認してきました。」


「おっ?どうだった?まぁそもそも見たことすらないけど。」


「ビッグラットは約50cmの鼠です。やはり鼠なのかもう妊娠しているメスがいました。」


「もう?それに多産ならすごい数になりそうだな。」


 実家でハムスターを飼っていた時に、1回の出産で10匹以上産まれたのを思い出した。


「はい、平均出産数は8のようですが、充分な速度で数が増えると思われます。餌は今のところは1日に2kg以下で足りています。」


「そうか。それでゴブリンの餌は?しばらくビッグラットは与えない方がいいと思うけど。」


 オスとメスの比率は知らないが、ビッグラットのメスが充分に増えるまでは簡単に餌にすることは難しいはずだと考えた。


「当座の食料としてとうもろこし20kgと毎日1匹のオスラットを与えることにしています。オスはまだ余裕があるので。」


「そんなんで足りるのか?ラットを10kgだとしても食えるところは減るだろうし…。」


 豚とか牛とか人間が家畜としている動物でも、肉にすると体重の半分くらいしか肉にならなかったはず。ラットを仮に半分だとしても5kgで、60近いゴブリンを養えるとは思えなかった。


「マスター、それは満腹まで食べようとした場合です。こちらの世界では朝夜の二食制ですし、一食しか食べられない者も珍しくありません。それにゴブリンは弱さを数で補う種族です。元から粗食に耐えられるように出来ています。」


「…そうか。それで足りるならいいんだ。繁殖して数が増えてきたら多少は増やしてやれよ?」


「はい、こちらの都合で飼う以上は餌は用意します。その調整はお任せ下さい。」


「あぁ、頼んだ。…それで3首ヒュドラはいつ作る?もう18万貯まってるけど。」


 昨夜から回復した分で18万以上あるので、ヒュドラを3体生成出来る状態になっている。


「では、今作ってしまいましょう。作ったらすぐに私が配置場所に送ってきます。」


「おけ、早くしないとハチに狩られそうだからな。」


 机からコア前のソファーに移動してコアに右手を触れる。


「コア、3首のヒュドラ、6万のやつを3体大部屋に生成してくれ。」


 :180.000MPを吸収します。手を離さないで下さい。…完了しました。


 赤い光が大部屋に流れていくと、


「ではマスター、私はヒュドラを送ってきます。護衛はロキに任せていきますね。」


「あぁ、よろしく。」


 ペコリと一礼するとコアルームから出て行くリリスを見送って、ソファーに座る。


「コア、ヒュドラを映してくれ。」


 コアウィンドウが目の前に現れ、ヒュドラが見えた。


 太い蛇の胴体から3本の首が生えた巨大な蛇が映っている。リリスが画面に映り込んだのと比較すると全長が20mくらいで約5mの首が3本生えている。


(このデカさで毒持ち耐性持ちなんだからハチに負けることは無いな。)


 ヒュドラの頼もしさに安心した俺は今後のことについて考えようと、ソファーに身体を投げ出した。



 ***



 *異世界6日目:昼


 ソファーに転がりながら色々と考え込んでいると、リリスがコアルームに帰ってきた。


「おかえり。問題無かったか?」


「ただいま戻りました。特に問題無く配置が出来ました。あとは餌だけですね、蛇なので1週間に1回の餌をやれば充分ですが、その分量を与える必要があります。。ビッグラットを1回5匹程でしょうか?養殖規模を上げる必要があるかもしれません。」


「そう言えばビッグラットはどれくらいで出産する?追いつかないようなら最初はMPで用意してもいいし。」


 20MPの最安魔物なので、餌にするにも問題無い。何かをした余りのMPで用意出来る。


「でしたらもう10体生成をお願いします。メスをもう少し増やして母体を増やしておきたいです。」


「おけ、200MPなら余裕だ。コア、養殖部屋にビッグラットを10体生成してくれ。」


 ソファーから手を伸ばしてコアに触れた。


 :200MPを吸収します。手を離さないで下さい。…完了しました。


 またコアルームの外に光が流れていくのを見ていると、


「マスター、インプに追加されたラットの面倒も見るように指示してきます。」


「あぁ、頼んだ。戻ったらまた話があるから。」


 急いで出ていくリリスを見ながら、自分の考えを頭の中でまとめ始めた。



 *



「マスター、戻りました。それでお話しとは?」


 ボーッと考え込んでいるとリリスが戻ってきた。


「あぁ、座ってくれ。少し長くなりそうだ。」


「はい、失礼します。」


 リリスにソファーに座るように促す。素直に座って俺に顔を向けてきた。


「色々と考えたんだけど、今のこの世界の…発展度?俺が思ってたよりも酷い気がしてきてさ、聞いておきたくなったんだ。」

「リリスの頭の中の情報は前軽く教えてもらったけど、周辺国の食料自給率とかって分かるか?何の情報なら有るのか教えて欲しい。」


「私が持っている情報は、人口や物価、兵士の数に、保有財産などの国力といったモノで、食料自給率は分かりません。年間の死者数は分かりますが、餓死者など死亡原因までは…。」


「そうか…。建国するっていうから俺も詳しく歴史を調べたりしたんだけど、ヨーロッパとアジアの戦争の規模が違うのは米と小麦が養える人口に差があるらしくてさ。俺が米食いたいから水田とか言ってたけど、さっさと水田を整備しちゃえば人が入ってくるんじゃね?って思ったんだよ。」


「はい、それはお話ししてありますよね?新しく都市を建設するのは決まっていますが。」


「そう、それをもう少し早められないかなって。例えば他所の都市から孤児を拾ってきて育てる代わりにスパイをやってもらうとかさ。もっと人を使った計画にした方が早く進むんじゃないかなと思ったんだ。」

「こっちじゃ二食、一食も食べられないのが多いんでしょ?だったらそいつらをこちら側の味方に付けて協力させるのはどうか?って思ったんだ。」


「それは確かに出来ますが、そこまで手を掛ける必要がありますか?」


「恩で縛り付けるんだよ、国家としてはスパイは必ず必要になるだろうから、今のうち恩を売れるうちに人を集めておこうって思ったんだ。」



 別にこっちの世界の人間が死のうとどうでもいいけど、こちらの味方になるかもしれない人間に恩を売れるなら売っておいた方がお得だと考えるのは当然のことだよな。

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