第8話

「お兄……?ルキ兄、なの?」

恵縷エル……俺、おれだよ」

「ふふっ……何か、服の趣味、変わった?」

「これはっ……!まあ、そう。似合うでしょ?」

「全然。ってか、あれ?私何して……って、嘘……イケメン!」

「あは、ありがと。よく言われる」

恵縷エル?ってか何だよぉ。こんなに心配してた俺より、冴李サイリのこと見つめすぎだろ?」

冴李サイリ渾身の治癒で恵縷エルは目を覚ました。しかし、これまでのことはよく覚えていないらしい。縷希ルキの存在に気が付いた恵縷エルはその側に居た冴李サイリに釘付けになっている。

「もう、なんでもいいか。良かった。恵縷エル……これからまた、ずっと一緒に……」


──ドシャッ


感動の再会に心躍らせていた縷希ルキの耳に、鈍く不気味な音が響く。

「そうはさせるもんですか……!」

「……加賀美……うわあっ!世津セツカナデっ!碧志アオシも……え?梁間ハリマまでどうして……」

加賀美が金切り声で叫ぶと、その足元では倒した加賀美を踏みつけていた世津セツたちが蹲り、うなり声をあげている。

「散々馬鹿にしやがって。下手にチカラを持ったからって図に乗り過ぎだわっ、この塵クソどもが」

「くそっ、だからすぐにトドメ刺しとけって言ったのに。あいつら、結局まだ“ヒト”なんだから……」

憎しみと怒りだけを沸々と滾らせ、黒煙を巻き上げながら立ち上がった加賀美は世津セツカナデを蹴り散らす。

「今すぐにその娘を喰って、永遠の命を手に入れてやるわ。そして、このわたくしを踏みつけた報い、子々孫々呪い続けてやる!」

「ふざけんなっ!!好き勝手やって恵縷エルを傷付けただけじゃなく、カナデたち……いや、俺の仲間まで何回もっ……」

縷希ルキ……抑えろ……くっ……俺らは大丈夫だから。でも、お前には何が起こるか……」

薄っすらと意識を残していた梁間ハリマは、絞り出すような声で縷希ルキを止める。

「いや、俺には何があっても、どうなってもいい。こいつだけは、許せねーよ!!」

そう叫んだ途端、縷希ルキのカラダは神々しい光に包まれ、縷希ルキの背からは、恵縷エルの背中のそれより更に大きくて白い羽が生える。碧志アオシたちの治癒を始めていた冴李サイリは、思わず目を逸らし、自分のカラダが燃え始めていることに気が付いた。

「……っく、熱い、お前、その娘より高位の天使だったのか?いや、この際そんなことどうでもいいわ。これまで自分が何だったかも知らないやつに何ができる?」

「何ができるか?知らねーよ。でもやるんだ。そっちこそ、何が起こるか知らねえからな!!!もう躊躇いも容赦も捨てた。いくぞっ


────天地・逆転!!」


「……っく……ぐわっ……なんだ?女神様の愛し子なのに……同族にやられるなん……っ──」

縷希ルキが宣言した途端、更に眩く鋭い光が細く美しい剣に姿を変え、加賀美のカラダを貫いた。加賀美は燃える様な熱さを感じた後、凍える様な寒気に襲われる。そして縷希ルキを侮ったことも、自らが犯していた罪を悔いる時間も与えられず、白けた灰になり床に降り積もった。

…………

……

「……俺、やったのか?そうだっ!みんなは?恵縷エルは?無事なのか?」

「うわあ、こりゃすごいや。ってか、縷希ルキくんってば天使だったの?」

「まじだ。羽、白ぉ」

「すげえ!でっけー」

梁間ハリマ世津セツカナデ縷希ルキuniqueユニを浴びて意識を取り戻し、自分のカラダが完全に回復していることに驚きながらも、まだ大きな羽を生やしたまんまの縷希ルキの姿に目を輝かせている。

冴李サイリ……大丈夫だった?」

碧志アオシ……ゴメン……ありがと」

同じく縷希ルキの光で回復した碧志アオシは、真っ先にその姿を探すと、冴李サイリが無事であることに胸をなでおろしていた。冴李サイリの種族が「vampire」だと知る碧志アオシは、縷希ルキの風貌が見紛う事なき天使であることに気が付き、縷希ルキuniqueユニを発動する前に、その場から冴李サイリを逃がしていたのだった。

「あっ、そうだ、レンレン?聞こえる?」

「……聞こえてますよ。というか、ちゃんと見てましたし、ちゃんと何もしないでここで待ってました。なんで僕だけ……」

「あー、わかったわかった。大丈夫、観てたら一緒に戦ったのと全く一緒だからさ。帰ったらゆっくりお話しよ?」

「むー、絶対、約束ですよ」

…………

……

「……っ!恵縷エル?」

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