第96話

 俺のコンボフィニッシュは決まったコンボを繋げ、最後にクロスフィニッシュにスライムウエポンを纏って放つ技だ。


 だがセバスが今やろうとしている技は一瞬で相手に迫り、圧倒的な速さのまま強力な突きか斬撃で突進攻撃を繰り出す刹那の技だ。


 俺のコンボが決まる前にセバスに攻撃を受けて終わる。

 走馬灯のように意識が加速する。

 何度打ち合う姿をイメージしてもやられる。


 俺は何をしようとしていた?

 決まった型のコンボを繋げるだけだ。


 だが、セバスはあの固有スキルにすべてを賭けている。

 強いセバスが一瞬にすべてを賭けて後先考えずに攻撃を繰り出すのイメージが浮かんだ。

 セバスがあの技を使えばほとんどのMPを使い切り、体が痺れ、自らがダメージを受けるほどの衝撃を負う。

 そこまでしてくれているのか。


 俺に何かを教えようとしているように感じた。


 俺が今出来る最大は何だ?


 一瞬に凝縮して出来る事は何だ?


 後先を考えるな!


 すべてを使い切っていい!


 セバスは武器の握り方を決めていない。

 

 握り方を決めるな!


 最初の定石はリーチの長い槍?それも違う!


 武器の型も決めるな!


 常にグレーゾーンに身を置け!


 楽な型に逃げるな!


 自由に、苦しみながら決断し続けろ!


『コンボフィニッシュがカタナシに進化しました』



「それではアキ選手VSセバス選手の試合、開始です!」


 点と点が繋がって線になっていく。

 何かが生まれる。


 スライムウエポンとスライムガントレットは武器、だけじゃない!


「スライムウエポン!」


 スライムガントレットの強化紋章が4つ発動する。

 俺の固有スキルとスライムガントレットが混ざり合って威力を押し上げていく。


 もっと柔軟に、スライムウエポンは武器だけじゃない。

 スライムウエポンが一部俺の体にまとわりつく。

 俺の体をパワードスーツのように覆って操るイメージだ。


 反応速度を上げる。


『スライムウエポンが進化しました』


『カタナシが進化しました』


 足りない!


 まだ足りない!


 一瞬でいい!力を振り絞れ!


 セバスとぶつかって打ち合うその瞬間だけでいい!


 一瞬でいい!


 それが終わればスライムウエポンが解除されてもいい!

 MPを使い切ってもいい、体に負担がかかってもいい、倒れてもいい!


 圧縮しろ!


 魔力を一瞬に圧縮しろ!


 前傾姿勢のままセバスが走って距離を詰めてくる。


 セバスの動きを上回れ!

 

 もっと先をイメージする!


『ものまね極が進化しました』


『カタナシが進化しました』


 そうか、固有スキルのアーツは、同じ動きを反復して精度を高めるものだと思っていた。

 精度を高めるのは固有スキルをただ使えるだけに過ぎない。

 どんな状況でも臨機応変に使えるのが固有スキルの向こう側だ。


 セバスは臨機応変にスキルを使っていた。

 今やっと気づいた。

 すべてを知り、その上で自由に攻撃する、それがカタナシだ。


『カタナシが進化しました』


餓狼がろう!」

「カタナシ!」


 黒い狼のように前傾姿勢のままセバスの刃が近づく。

 定石の槍は使わず、スライムウエポンを斧に変形させて両腕の爆炎紋章を発動させる。


 質量と爆炎でセバスの動きを超える1撃を放つ。

 セバスの短剣攻撃と斧が打ち合う。

 力が相殺されて、セバスの動きが一瞬止まった。


 その瞬間に武器を手放して両腰の短剣に手をかけて紋章を発動させて振った。

 短剣が砕ける。

 爆炎攻撃でセバスの両腕が後ろに弾かれた。


 スライムウエポンをガントレットに変えて左腕で殴る。

 セバスのあばらが折れる感触が伝わって来た。


 セバスが吹き飛ばされる瞬間に右腕の正拳突きを放とうとするが、セバスを殺すイメージが頭をよぎり、拳を止めた。

 スライムウエポンが強制解除され、スライムガントレットが腕に巻き付く。


 セバスは壁に叩きつけられて轟音が鳴り響き、地面に倒れた。


 セバスが立ち上がる。


「……参った」


 そしてセバスが倒れた。


「勝った、のか?」


 勝負は一瞬だった。

 観客には何をしているのか分からなかっただろう。

 陣を奪い合うような一瞬の攻防だった。

 

「勝者アキ選手!」


「「……うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」


「なになに?見えなかったわ!」

「いつリングの中央に移動したんだ?」

「なんか光がきれいだった」


 チョコが俺の手を上げて叫んだ。

 ミルクさんがセバスに回復魔法をかける。


 MPがほとんど残っていない。

 後先を何も考えず、紋章も使い切り、装備しているナイフさえも時には使う。

 僅か数度の撃ち合いにすべてを圧縮した。

 

 使った瞬間に弱ってしまう。

 諸刃の剣か。


 俺とセバスはその日寝て過ごした。

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