第81話

 この砦に来る途中ワッフルは何度も俺に話しかけてきた。


『好きな食べ物はありますの?』


『兄弟はいますの?』


『休日は何をしていますの?』


 分析されているようで怖いんですけど?


 俺は適当に話を切り上げつつ進軍した。





 砦には500を超える兵がいるらしい。

 砦を見ると周りには池が掘られ、跳ね橋で行き来する仕組みとなっていた。


「跳ね橋が厄介ですわね。アキは攻めるとしたらどういった手を取りますの?」


 また来た。

 隠れて後からついてくる事になっていたはずだけど?


「俺達がいる事はもうバレている。俺が飛び出してから1分後にダッシュドラゴン部隊で突撃する」


 500のダッシュドラゴンは目立つ。

 最初は少数だと思っていたけど、進軍する内に数が増えて今ではダッシュドラゴン部隊だけで500の軍団となった。

 参加できる者は全員参加している感じがする。



 砦に俺達の情報は伝わっているだろう。

 俺達が目立つことでワッフル達は目立たなくなるから隠れずに進んだ経緯もある。


 それにしてもワッフルの距離が近い。

 


「即決ですのね」

「いや、ここに来るまでにどう攻めればいいか考えてあっただけだ。門を開けて向こうから攻めて来てくれれば助かるがそううまくはいかないだろう」

「夜まで待ちますの?」


「いや?今攻める」





【砦の隊長視点】


 ものまねの英雄と500のダッシュドラゴン部隊が森に潜んでいる。

 敵国であるここまで深く斬りこみ、そして堂々と隠れることなくここまで進軍してきた。

 堂々と進軍した上で野営の為か森に隠れた。

 何をしたいんだ?

 やはりものまねの英雄は狂っている。




 アキは隠れる為というより姫騎士と連携を取る為に森に入ったのだが砦の隊長はその事を知らない。


「隊長!ダッシュドラゴン部隊が動きました!」

「分かった!弓兵!魔法兵!配置につけ!」


「「了解しました!」」


 何を考えている?

 砦を攻める為には3倍の兵力が必要だ。

 いや、英雄が1人いれば十分だと、そう判断したのか?

 だがこちらが跳ね橋を上げてしまえばダッシュドラゴン部隊の突破力は役に立たない。

 ダッシュドラゴン部隊は弓兵の攻撃範囲外ギリギリに陣を展開し、槍を構えている。

 何をしたいのか分からない……!


「ものまねの英雄はどこにいる!」

「防壁に敵が現れました!」


 その瞬間に防壁の位置辺りから轟音が響いた。

 防壁を見ると爆炎が発生し、兵士の悲鳴が聞こえてくる。


 ものまねの英雄!

 本当に何を考えている!?

 この砦に何の価値がある?

 ここより落とすべき城があるというのになぜここを狙った?

 意味が分からない!


 俺はものまねの英雄に恐怖を感じた。

 ああいう何をしてくるか読めないやつが一番怖い。

 

「ものまねの英雄が跳ね橋を上げるための鎖を破壊しました!」

「何だと!橋が落とされたのか!まずい!総員塔に立てこもれ!今すぐだ!」


 あっという間だった。

 跳ね橋を渡ったダッシュドラゴン部隊は裏にある階段を駆け上がり、防壁を一周して兵は倒され防壁を制圧された。


 大戦の影響で十分な兵は補充されず、俺のような小隊長がここの指揮権を任せられている。

 ここを守る多くの者が訓練中の新兵だ。

 大戦さえなければここまで一方的な戦いにはならなかったはずだ。


 それにあの爆炎は厄介だ。

 塔の門は確実に破壊される。


「塔の門が破壊されました!」


 破壊されたか。

 防壁を制圧された後は砦の門を突破された。

 次はダッシュドラゴンが突入してくるだろう。

 ダッシュドラゴン部隊の技量は高い。

 平然と騎乗したまま階段を駆け上がり戦闘力も高く、そして判断も早い。


「木箱と机、ベッドを積んでバリケードを作れ!1人を集中的に狙い確実に仕留めろ!矢を撃ちまくれ!間から槍で攻撃しろ!」


 俺は階段の途中にバリケードを作って何とか対抗した。

 だが、奴が後ろから現れた。


 後ろにいる兵が爆炎で吹き飛んだ。

 俺も爆炎ナイフで吹き飛ぶ。


「はははははははははは!男はみんな死ね!女は俺が貰ってやるよ!はははははははは!降参せず歯向かう奴は皆的だ!ぎゃはははははは!」


 ものまねの英雄が笑う。

 だがどこか演技のような違和感を覚えた。


「降参すれば命は助かるのか?」

「おいおい!本当に降参するのか?ま、王は虐殺を好まない。降参されたら兵士の命は助けるしかねえな!」


 降参した方がまだ、生存率は高い。

 俺は殺されるだろうが他の兵は助かるかもしれない。

 降参しても殺される可能性はある、が、このままではどのみち死ぬ。


「総員、武器を置け!」


 降参しようとするが兵士が怖がって武器を置かない。


「総員、武器を置け!」

「う、うああああ!殺されるうううぅ!」


 逃げ場を失った兵士がものまねの英雄に突撃する。


「やめろ!突っ込むな!」


 突撃した兵士が一瞬で斬り殺された。


「突撃するな!とまれ!総員、武器を置け!」


「チャンスをやろう!最後まで戦って死ぬか?降伏するか選べ!早く選べ!!」

「降伏だ!武器を置け!」


 あっさりと仲間が殺された兵士は武器を置いた。


「ダッシュドラゴン部隊!攻撃を中止して兵士を捕縛しろ!」

「「了解しました!!」」


 俺達は拘束され、そして遅れてワッフル様率いる姫騎士が入って来た。

 ものまねの英雄とワッフル様が協力している!?


 俺は姫騎士を牢屋にぶち込み監視する任務を受けている。

 俺はワッフル様の兄であるグリード王の命令で動いている。

 ……そうか、俺は、殺されるのか。


 俺はワッフル様とものまねの英雄の前に立たされるとものまねの英雄が言った。


「何か言いたいことはあるか?」


 どうせ死ぬなら、みんなを助けよう。

 死ぬのは俺一人にしよう。


「お、俺は、俺の命令で姫騎士を牢屋にぶち込んだ!ほ、他の奴らは俺の命令を受けてそうしただけだ!殺すなら、お、俺を殺せ!みんなは無理矢理連れてこられた新兵だ!悪くねえよ!」


 これから死ぬ事を想像して嘔吐した。

 爆炎を受けた傷とこれから殺される極限状態でめまいがして地面に座り込んだ。


「あなたは牢屋の女性を襲う事を固く禁止していましたわね?」

「俺は、わ、私はそう、です」

 

「助かりましたわ。所でわたくしは兵士が足りなくて困っていましたの。協力していただけませんか?」


「……ん?」


 殺されないのか?助かる、のか?

 降伏した俺達はその日グリードに対抗する勢力として生まれ変わった。


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