第73話

「簡単に占領出来たねえ」


 グラディウスがほほ笑んだ。


「本当に英雄が王城に行ったのか」

「多分そうだろうね」

「何か仕掛けてこないかな?」


「心配ならいい方法があるよ」

「守るより攻めろ、敵の物資を奪って貴族の城を攻めて、王城を襲撃すれば相手は防戦一方だよ」


「グラディウスの言っている事は冗談なのか本気なのか分からなくなる」

「本気だよ」


 結局会議では満場一致で決まった。

 俺は1人で敵国の遊撃に行く。



 会議が終わるとグラディウスが話しかけてきた。


「あ、そうそう、出来れば民に嫌われている貴族を狙ってね。民からの反感は避けたいんだよ」

「それより気になったんだけど、クラフトの顔色が悪かった。倒れないか?」

「大丈夫じゃないねえ。でも、頑張ってここに城を作って貰わないと困るんだよ」


 ここに城を建てる事が出来れば一気に有利になる。

 今が頑張りどころなのだ。


「俺も城を建てるのを手伝おうか?」

「いや、遊撃を頼む。今攻められたくないんだよ」

「分かった」


 俺はまず、貴族の城に向かった。

 みんなは魔石の洞窟を守る事で守りにも力を入れている。

 俺は遊撃や奇襲なんかの攻めの方が合っている。

 グラディウスは俺の性格も考慮に入れているんだろう。


 俺はそんな事を考えながら敵国の領土を走った。



 問題無く貴族の城にたどり着いた。

 大戦でどちらも消耗した。

 広い国を十分に守る力は無いと思う。


 となれば、小細工はあまりしなくていいか。 

 表から貴族の城に入ろうとするが、衛兵が俺を止めた。


「貴様!何の用だ!」


 その瞬間に俺は爆炎ナイフを投げ入れた。


 衛兵が2人池に落ちる。


 そして上にいた弓兵にも爆炎ナイフを投げた。


「敵襲!敵襲だ!」


 その瞬間に俺は裏に回り込む。

 裏にいる衛兵を殺して、宝物庫と穀物庫にある品をストレージに入れた。


 そして領主部屋を守る衛兵をナイフで殺し、領主の部屋と思われる場所に侵入した。


 太った領主が6人の美女をはべらせていた。

 美女の叫び声が聞こえる。


「き、貴様!何者だ!衛兵!早く来い!」

「俺は爆炎の英雄、アキだ」


 そう言って領主を殺した。

 目立って暴れるのが俺の役目だ。

 だからいちいち言わなくてもいい正体をばらして派手に暴れる。


「もし逃げたい奴は裏から逃げられる。俺はもう少し暴れてから脱出する。焼き殺されたくなければすぐに逃げるんだな」


 そう言って部屋から出た。


 俺は殺到する護衛に爆炎ナイフを投げつけ、腕の立ちそうな男をダブルナックルで瞬殺して城を脱出した。


 次の日もその次の日も奇襲を繰り返すと城には誰もいなくなった。

 戦争の影響なのか、護衛が少なすぎる。


 俺は街にいる貧しそうな民に小麦の袋を配って街を出た。


 他に3人の領主を殺し、貧しい者に小麦の袋を配って進む。


 

「やばい4貴族は殺したか。次は物資の強奪をしつつ砦を落とす、か」




 ダッシュドラゴンと馬の引く馬車5台を発見して隠れる。

 斥候スキルで確認すると、馬車には多くの人が詰め込まれていた。

 奴隷か。


 俺は馬車を襲撃した。

 正面から突撃し、ダッシュドラゴンを操る人相の悪い男を殺し、ダッシュドラゴンの引く縄を解いた。


 そして次の馬車も同じように潰す。


 すると馬車が止まり、10人の男に囲まれた。


「おいおいおいおい!たった一人で何やってくれてんだ!!ああああああ!!」

「奴隷に分からせる為に目の前で殺してやろうぜ!」


 俺は無言で前にいる弓を持った男をナイフで斬り殺し、そして追って来て団子状態になった集団に爆炎ナイフを投げ入れた。


 10人の男は全滅した。

 俺は無言で奴隷の縄をほどく。

 数は50人ほどでみんな若い女性だ。


「あ、ありがとうございます!」

「いや、いいんだ。皆故郷に帰れるか?」

「皆、別々に連れてこられました」

「安全な場所に連れて行ってください!」

「う~ん、実は俺、シルフィ王国の人間なんだ」


「「連れて行ってください!」」

「そ、そうか。出来るだけのことはしよう。でも、俺一人だけでどこまで守れるか分からない。安全な場所はここから7日歩く必要がある」


「大丈夫です!私ダッシュドラゴンと馬の馬車なら運転出来ます!歩いて7日ならもっと早くたどり着けます!」

「私も出来ると思います!」


「わ、分かった」


 俺は50人の若い女性を送りつつ魔石の洞窟を目指した。


「パン、食べるか?」

「「貰います!」」


「水は飲むか?」

「「貰います!」」


 みんなロクな物を食べさせてもらえなかったんだろうな。

 痩せている人が多いけど、食べれば美人になるだろう。

 だから、奴隷になったのか。

 フレイム王国の平民は貴族に犬っころのように殺されたり攫われたりするらしい。

 で、そういうのに反対していた武器の英雄やワッフル達は不遇な目に合っている。


 

 野営をすると、1人の女性が俺の隣に座る。


「助けて頂いてありがとうございます」

「いやいいよ」

「お礼を出来るとしたら体で払うくらいしか出来る事はありません。どうか受け取ってください」


「なあ、お前強いよな?お前だけは強いよな?」

「え~?そんな事ないですよ~」

「何で汗を掻いているんだ?お前、姫騎士にいた人間だろ?」


「な、なんのことでしょう」

「顔に見覚えがあるんだ。いや、いい。殺さないから。でも、理由だけは聞かせてくれ」

「実は、貴族を始末するために潜入するつもりでした」

「誰を始末するつもりだったんだ?答えてくれ」

「グラトニー公爵です。ワッフル様を奴隷にしようとしていました」


「……俺が殺した」

「え?」

「俺が殺したんだ。もうお前がいればみんなは大丈夫だろ?食料は置いていく。俺は次に向かう」


「ど、どこに行くんですか?」

「敵国のお前には言えない。ちゃんと皆を送れよ!!」



 俺はストレージから食料を出すと、その場から離れる。


「あ、待ってください!あなたは英雄アキですよね!?答えてください!待ってください!」



 俺は無言で立ち去った。

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