第72話

 俺はワッフルが兵士に言った言葉を聞いて驚いた。


『ウエポンは反乱の容疑で王都に向かいます。わたくし達姫騎士部隊も王から招集を受けましたわ!』


 この言葉が本当だとすれば王は馬鹿なのか?

 英雄やエースのいない軍なんて、時間さえかければ俺一人で潰せる。

 いや、罠の可能性もある。


 ……今日は情報収集を行おう。



 俺は隠れて敵陣の話を聞く。

 敵の話し声に耳を傾けた。


「おい、聞いたか?」

「ウエポン様とワッフル様の事だよな?王都に招集されたらしいぜ」

「ウエポン様は貴族に税を下げるように言っていたからな」

「殺されるかもな」

「王派の貴族が今力を握っている。王は自分の首を絞めているぜ」


「ワッフル様も何をされるんだろうな?」

「貴族がワッフル様を奴隷として欲しがっていたぜ。毎日貴族の使いがワッフル様が生きているか確認しに来てたもんな」


「ワッフル様の言葉、どう思う?」

「俺には逃げろと言っているように聞こえた」

「俺もだ」


「やばい!隊長が来るぞ!」

「皆、元気そうだな」


「い、いえ、な、何の用です?」

「ただ、世間話をしにな。どうやら集団で斥候に出る兵士が多いらしい。私も参加するが、皆も参加しないか?当然2度とここには戻ってこられないかもしれない。2度と戻ってこれないかもしれないが、価値はあると思う」


「え?斥候、そんな予定は」

「馬鹿!一緒に逃げようって事だよ!」

「げふんげふん、おほん、声が大きい」


「「し、失礼しました」」

「出発は明日の早朝だ。家族がいる者もいるかもしれん。だが、目的地はアクア共和国だ。一旦力をつけてから取り戻した方が勝率の高い賭けになる。私はそう思うのだ」


「「行きます!」」

「うむ、静かにな。後、今日だけは黙っていてくれ。騒ぐのは明日出発して落ち着いてからだ」


「「了解です」」





 う~ん、判断できない。

 王に報告しよう。


 俺は攻撃せずに戻った。




「……という事があった」


 王を含めた重鎮が俺の話を聞く。


「アキ、お前はどう思う?」

「分からなかった。分からないから攻撃せず帰って来たんだ」


 正直ウエポンなら情報戦を仕掛けてくる可能性もある。

 だがセバスとウエポンは明らかにフレイム王国の王都に向かって行った。

 奇策にしては不自然に思う。


 だが、俺達にばれないように動く可能性もある。

 ウエポンなら敵に攻めさせた上でここを襲撃するくらいの事はやって来る。


 分からない。


「いいかな?」

「グラディウス、言ってみよ」


「確かにどっちか分からない。でもねえ、本当だった場合に備えておくことはできるねえ」

「どうするのだ?」


「矢文」


 グラディウスは短く言った。




【次の日の夜、敵陣】


 俺は矢に手紙を巻き付けて飛ばす。

 わざと兵士の近くにだ。

 これを100回繰り返す。

 100回やるのは識字率が100%じゃないのと指揮官に紙を燃やされて噂を潰される可能性があるからだ。





 やぶみにはこう書かれている。




 今ワザと外した。

 何が言いたいかわかるか?殺そうと思えばお前を簡単に殺せた。

 お前たちに時間をやろう。

 明日は100人殺す。その次の日は200人だ、その次は400人と殺す数を増やしていく。

 怖ければアクア共和国に亡命しろ。

 そうしない場合、俺が殺してやる。


 爆炎の英雄、アキより




 ちなみにこの文章を考えたのはグラディウスだ。

 名前が俺だと!


 グラディウスの案はこうだ。


 敵の策による奇襲の可能性もあるから自陣に城を作って籠城する。

 その上で敵の情報が本当だった場合に備えて俺1人で脅しをかける。

 俺はセバス相手に逃げ切ったから一人で大丈夫らしい。


 そして、脅しを聞かない場合、本当に100人殺し、次は更に倍殺す訳だ。


 要するに、心理戦だ。

 敵には出来るだけ亡命してもらう。

 敵を殺さずして戦力を削ぐ狙いなのだ。


 俺はその後、敵陣を一周して大体の敵数を数えて戻った。




【次の日の夜、敵陣】


 俺はうるさく兵士を怒鳴りつけている指揮官を優先して100人を弓で殺した。

 そして矢文を放つ。

 矢に巻き付けた文章は次のようになる。




 うるさく怒鳴りつける邪魔者を100人殺してやった。

 昨日の夜は4000人ちょっとの兵がいたな。

 気が変わった、明日は400人殺してやろう。

 何で400人にしたか分かるか?

 10人に1人を殺す為だ。


 朝逃げる奴が多くなれば、次の夜はそれだけ多く死ぬ。

 楽しみだ。


 爆炎の英雄、アキより




 グラディウスの仕掛けた心理戦は相手にとってきついだろう。

 10人に一人は自分が殺されてもおかしくないと実感できる数字だ。

 しかも今日の朝に逃げる者が多ければ死ぬ確率は上がっていく。

 朝人が逃げる人間が多くなるほど死ぬ確率が高くなる。


 そして明日は200人殺すよと書いておいて「やっぱ400殺すわ」とか書かれたら怖いわ。

 朝逃げれば命は助かるが、自分が残る側に回れば殺される可能性が高くなる。

 これにより亡命を促す狙いがある。


 俺は自陣に帰った。





【更に次の日の夜、敵陣】


 俺は400人を射殺した。

 そして矢文を放つ。




 グラディウスの書いた文はこうだ。


 昨日の夜は3400人の兵がいた。

 今日400人殺して3000人の計算だ。

 明日は600人殺す。

 10人の内2人は死ぬ、おっと、逃げた分を引けばもっと死ぬな。

 爆炎の英雄、アキより




 俺は同じことを繰り返し、次の日は600人殺した。



 そして矢文を放つ。




 グラディウスが書いた文章を思い出す。


 


 おいおい!慈悲深い俺を裏切ってまだ残っているのか!?

 明日は、楽しみにしてな!

 明日が最後のチャンスになるぜ!


 爆炎の英雄、アキより



 

 相手の心理を揺さぶる為に何をするか書かない。

 これで皆逃げてくれれば楽でいいし殺さなくて済む。




 俺は次の日、ダッシュドラゴン部隊とプリン・チョコ・マッチョ・変態仙人を連れて敵陣に迫った。


 俺・プリン・チョコ・マッチョ・変態仙人で敵に奇襲をかけ、裏からダッシュドラゴン部隊が突撃した。


 俺達は敵陣を全滅させ、物資を奪って帰還した。

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