第64話

【ウエポン・アーツ視点】


 ものまねの英雄アキか。

 我のスキルを吸収するように強くなり、大きな手傷を負わされた。

 傷は治したが失った血が戻るのはまだ先だ。


 会議室には3人しかいない。

 我とワッフル様、そしてセバスだ。


「具合はどうですの?」

「うむ、血を流しすぎた。軍の疲労も、相当なものだろう」

「はい、軍全体が疲弊しております。今日は多くの命が失われましたが、皆の不調も影響しております」


 斥候が慌てて入って来る。


「大変です!敵陣に城が建てられました!」

「……建設中ではなく、すでに完成しているのだな?」

「はい、斥候の報告では、少なくとも見た目は完全に完成しているようです」


「セバス、このまま攻めて、勝てると思うか?」

「勝てたとしても、厳しい戦いとなるでしょう。どうしても突破力に欠ける展開になると、そう予想いたします」


 城攻めには3倍の兵力が必要となる。

 そしてそれを覆す英雄はどちらも不調だ。

 セバスには無理をさせ続け、我は疲労が蓄積した上で血を流しすぎた。


「我も同じ考えだ……魔石の洞窟に本陣を移す」


 この闘いは魔石の利権争いが引き金になっている。

 後退して魔石の利権を押さえてしまえばいい。


 攻めるのではない。

 相手が攻めるしかないように誘い込む。

 そうせざるおえないように仕向けるのだ。

 敵を城から引きずり出す。






 その頃、フレイム王国の王城で王は玉座にながら座り笑う。


 王座に座るこの男、グリード・フレイムはワッフルの兄である。

 ワッフルと同じ桃色の髪と瞳を持ち見た目は良いが、表情がどこか歪んでいた。


 昼からワインを水のように飲み、チーズとベーコンを常にそばに置き、周りの貴族には金を催促し続け、贅の限りを尽くしていた。

 美女を1000人以上囲い込み、異を唱える者はすべて殺す。

 

 グリードが行った残虐な行為として挙げられるのが、祭りの惨殺である。

 若い男女が祭りを行っていると近衛1000人を連れたグリードが見物に来た。

 頭を下げる男女の内、男をすべて殺した。

 残った女は見た目の気に入らない者はすべて殺した。

 気に入った女は自分の物とした。


 そして殺した男女の首は近衛がぶら下げて王城へと行進した。

 その為取り巻きの貴族にはグリードの言う事を聞くものしか残っていない。

 




 貴族が王に金を献上する。


「うむ、ご苦労だった」

「いえいえ、王の為ならばこの程度当然のことです」


 貴族は笑顔で王に頭を下げる。


「所で、武器の英雄が戦線を離脱して魔石の洞窟に逃げ帰ったようですな」

「む?敵が城を築き上げた為魔石の洞窟を押さえ、向こうに攻めさせる為だと聞いたが?」


「何でも、逃げ帰る為の口実と聞いています」

「そうだったか、ご苦労だった。他の者にも行き取りを行う」


 嘘であることは分かっている。

 だが武器の英雄は口やかましく目障りだ。

 魔石の洞窟を押さえた今の状況を考えると、そろそろ殺してもいい頃合いだ。


「おお、寛大な王の行動に感謝します。それと武器の英雄は民への税を安くするよう訴え、我らの邪魔をして来るのです。まるで王のお力を削ごうとするように」


「言いたいことはよく分かった」

「今日は美女を10名用意しております。野に咲く野花ではありますが、ぜひ一見していただきたいのです」


 貴族は平民の女を攫い、王に献上し続けている。


「すぐに連れてくるのだ」


 10人の女性が王の前に連れてこられる。


「服を脱げ!」


 貴族の命令で4人が服を脱ぐが、6人がきょろきょろと周りを見渡す。

 すかさず貴族が鞭を打つ。


「貴様!平民の分際で何を考えている!脱げと言われたらすぐに脱がんか!」

「ああ!ひぎい!脱ぎます!許してください!」

「行動で示せ!」


 全員が服を脱いだ。


「姿勢が悪い!胸と尻を突き出せ!」


 女性たちは泣きながら従った。


「手を後ろに組め!」


 女性が震えながら手を後ろに組んだ。


「申し訳ありません、躾がまだなのです」


「良い、躾けるのも込みで楽しむ!こいつとこいつ、それと、こいつを貰う」

「かしこまりました。所でワッフル様ですが、無事に戦場を生き延びたようですな」


「くっくっく、お前はワッフルの事を気に入っていたな。……気が変わった。奴隷としてくれてやろう」

「奴隷!ワッフル様を!!よろしいのですか!?」

「構わん、ただし時間はかかる。それと」

「分かっております。今度は100人、いえ、それ以上連れてまいります。それと、出来る限りの金品も用意いたします」





 フレイム王国の王、グリードは腐っていた。

 そしてそれに従う貴族も腐っていた。


 更に民にやさしい武器の英雄とワッフルには危機が迫り、まともな人間は皆殺されるか奴隷にされていく。






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