第48話

 皆がショックを受ける。


「そんな!」

「言いにくいが負けだ。明日の陣を見れば分かると思う。俺は王と話をして来る」



 自陣の森に戻ると俺は王の元に向かった。


 すると部屋に通される。

 ライダーが叱責を受けていた。


「ふう、もうよい。ライダー。意地でも指揮を明け渡す気が無いか!恥を知れ!下がれ!」

「……はい」


「下がって次の準備をするのだ!」


 ライダーは無言で部屋を出て行こうとするが俺を見て「どけよ!」と言って突き飛ばそうとした。

 俺はひらりと躱して部屋の中に入るがライダーが怒鳴る。


「アキの無礼者が!」

「ライダー!今は会議中だ!」


 ライダーは俺を睨んだ後去って行った。


「アキ、ご苦労だった。唯一右翼だけが大勝したおかげで何とか敗戦は防ぐことが出来た」

「その事で相談があるんだ」

「何だ?」

「夜更けと共に本陣に帰った敵部隊に襲撃を加えたい」






【ワッフル視点】


 テーブルにわたくしを含めた4人が座り、後ろにセバスが控える。


 武器の英雄にして総司令を務めるウエポン・アーツ、そして拳の英雄と闇の英雄が座る。


 武器の英雄、ウエポンが話を始めた。


「まずは我らの勝利だ。ご苦労だった」


 ウエポンは30代ほどの男で重そうな鉄の鎧をまとっている。


「フハハハハハ!まだ暴れ足りんが作戦会議なら結果だけ知らせてくれればよい」

「拳の英雄殿は会議には興味が無いと見える」

「僕も眠いよ。僕と拳はどっちも作戦に興味がないんだ」

「うむ、その通りだ!」

「では2人はすぐに休息を取って貰おう」


 2人の男が出て行く。


「さて、本題だ」


 ウエポンはわたくしではなく後ろにいるセバスに視線を合わせながら独り言のように言った。


「王は大戦の勝利、そしてワッフル様の死を望んでおられるが、両方を天秤にかけるまでもなく勝利が優先される、だが我は王の命を無下にできる立場でもない」

「何が言いたいのか分かりませんわ」


「うむ、失礼した。これから我が話す事はただの独り言として聞いて欲しいのだ」

「ワッフル様、聞きましょう」

「分かりましたわ」


「王はワッフル様には過酷な斥候を命じ、更に初戦の最前線を命じた。そして後2度の過酷な戦いが終わればもう、我はワッフル様を殺す為役目を果たしたと言えるだろう。セバス、意味は分かったか?」

「はい、分かりました。後2回の戦闘は過酷、しかしその2戦を生き延びたのちはひとまず安心です」


「そう言う事ですのね」


 私はやっと理解した。

 大戦が進めば戦況は乱れ、思いもよらない事態は常に起こる。

 そうなれば勝利を盤石にする為、勝利の為わたくしを殺す暇が無くなる。

 兄から何か言われても序盤さえ乗り切れば武器の英雄ならば何とでも言い逃れが出来る。


「次の議題に移る。初戦でライダーの弱さと、ボマーの強さが浮き彫りになった。後の2戦はどちらを攻めるかで作戦が大きく変わって来る。強者を潰すか、弱者を潰すかだ。セバス、次の戦いをどう考える?夜更けと共に奇襲する事は決まっている。その上で考えが聞きたいのだ」


「私なら、ライダーをつつき、恐怖を与え続け、逃げるように誘導いたします」

「弱者を潰さず、無能を生かしたまま毒を撒くか」

「はい。軍の配置や動きを見る限り、恐らく敵はライダーに死んでほしいと思っているのでしょう。敵の思惑に乗る必要はないと考えます」


「面白い。ライダーは闇の英雄と影の英雄に攻めて貰おう。姫騎士も一緒にだ。なんせライダーは闇の英雄と影の英雄、そして姫騎士を恐れている。私としてはおとりになってさえもらえれば多少手を抜いても構わん。要はワッフル様が前線で戦い、命を危険に晒したと報告出来ればいいのだ」


 武器の英雄も苦労が絶えないようだ。

 勝利は絶対譲れない中で兄の言う事をある程度飲む必要がある。

 その上でわたくしやセバスに道を与える配慮もしている。

 

 総司令にして英雄、そして先を見る目を持つ偉大な男、それがウエポン・アーツだ。

 セバスが最強だとすればウエポンは万能と言える。



「わたくしとセバス、そして闇の英雄が陽動で、本体は拳の英雄と武器の英雄ですわね」

「うむ、その通りだ。森を迂回して本陣に奇襲をかける!わずかな時間でも休んでおくのだ」



 この会議は夜襲の会議のみで終わった。

 夜襲の結果次第で明日の動きが変わって来る。


 アキは単独で敵陣の夜襲を進め、ウエポンは軍を持っての夜襲を進める。

 戦いの初日はまだ終わっていないのだ。






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