第37話

「時間が無い。街のみんなを連れてすぐに王都まで出発するぜえ」


 思ったより急ぎなのか?

 両親に会いに行こうと思っていたが難しいようだ。


「父さんと母さんが徴兵されてるか分かるか?」

「お前が徴兵に応じれば免除だそうだ。まあ、徴兵を断る事は出来ねえけどな」

「いや、十分だ」

「アキ君!」


 ミルクさんが走って俺にダイブする。


「おふ!」

「元気だったあ?大きくなってカッコよくなったねえ。これからよろしくう」


 ミルクさんも徴兵されたか。


「ふぉっふぉ、窒息プレイか。羨ましいのお」

「変態仙人も徴兵されたのか!?」

「そうじゃ」


「アキ、多くの冒険者が一緒に徴兵されるぜ。王都に集結してから国境を目指すぜ」


 話を聞くと、今敵国のフレイム王国が魔石が取れる山岳を占領しているらしい。

 魔石は元の世界で言うと石油のようなもので、エネルギーと素材両方に使う事が出来る。

 国境付近の魔石を押さえる事が出来なければ長期的にフレイム王国に差を付けられる。

 そうなれば結果この国は滅ぼされると言われている。


 俺は人を殺す。

 迷って情けをかければ逆に殺される可能性がある。

 俺は死にたくないのだ。


「がははははは!難しい顔は無しだぜえ!」


 俺はミルクさんに抱きつかれたまま背中をマッチョに叩かれる。

 そして他の冒険者も集まって来た。


「アキ君だよね?面影があるわ」

「おっきくなったじゃねえか!はっはっは」


 冒険者が集まって来る。


「ダンジョンで生活できるくらいだ。アキ、期待してるぜ!」


 男冒険者が俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「……おし!名簿の名前は全部集まったか。出発だ!」

「「おー!!!」」


 戦争に行くのにノリがいいな。

 元気な方が、いいか。

 俺達は王都に向かった。




 ◇




 王都にたどり着き王城内の敷地に整列すると王城の上から王が姿を現し、皆自己紹介をしていた。


 そしてその右側にはアーチェリー・グラディウスさん・ライダー。

 そしてクラフト・ワーク公爵が並ぶ。

 クラフト=アルケミストの事だったのか。

 だから本名を言わなかった?

 いや、アルケミストはああいう性格だ。

 気にしたら負けだ。


 王の左側には側近や近衛と思われる兵士、それにエースクラスの強さを持つ者も並んでいる。


 王の激励が終わると、王が俺を呼ぶ。

 俺は徴兵された兵の列を抜けて前に出た。

 この事は事前に話し合いをして言うべき事も決まっておりセリフは暗記してある。


「ものまね士、アキよ。数年前奈落のダンジョンでお前が王女プリンを奈落に突き落としたとライダー公爵が証言してる。それは誠か?」

「いえ!突き落としたのはライダー公爵率いるダッシュドラゴン部隊です!」


 ライダーが焦りながら大声を上げる。


「お待ちください!王よ!このような平民の申し出など当てになりません!あいつは言い逃れをしているのです!」


 言い逃れをする事も予想済みだ。


「そうか、プリン!チョコ!出てくるのだ!」


 プリンとチョコが出てくるとライダーの顔色が更に変わった。


「こ、これは、あ、アキが悪いのです!」

「ライダー、黙るのだ」


「プリン、あの時の事を証言するのだ!」

「私はライダー公爵の率いるダッシュドラゴン部隊によって奈落に突き落とされました」


「チョコ、お前も証言するのだ!」

「2人と同じで私もライダー公爵率いるダッシュドラゴンによって奈落に突き落とされました!」


 ライダーがダラダラと汗を掻きながら喚くが王が黙らせるようする。




 それでもライダーは聞かずに最後は近衛に取り押さえられ口を塞がれる。


「ん、ん~~~~!!」

「もしもライダー公爵に原因があった場合罰を与えると言った。契約まで結んでいる。読み上げるのだ!」


 側近の男が紙を広げて罰を読み上げる。


「契約1!ライダー公爵はダッシュドラゴン騎兵2000を王の所属として受け渡す事!

 契約2!1000憶ゴールドを王に献上する事!

 契約3!大戦中は自らが最前線に立ち戦う事!

 契約を破った場合爵位を引き下げる!」


 王に兵と金を渡して自ら最前線に立て、か。

 権力の強い公爵相手にかなりいい条件を引き出せたようだ。


 それにみんなが集まり、見物人も大勢見守るこのタイミングは明らかに狙ってやっている。

 出陣式が終わると、ライダー公爵は押さえつけられながら悔しそうに震える。

 そして行き場のない怒りを俺にぶつけるように睨んでいた。



 強くなっておいてよかった。

 俺は簡単には暗殺されないぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る