第18話

 朝日と共に目を覚まし伸びをする。


「う~ん、よく寝た」


 部屋を出ると良い匂いがする。

 食堂に行くとバイキングが用意されていた。

 パン・オレンジジュース・ベーコンと野菜のスープ・ベーコンエッグを盛り付けて食事を摂る。


 旨い。

 プリンとチョコは寝てるのかな?

 起こしに行こうとしたけどエチエチイベントを発生させてしまうかもしれない。

 俺の行動は紳士!

 ジェントルマンなのだ!


 食事を済ませてギルドに向かうと受付嬢が1人しかいない。


「え?もう来たんですか?」

「そう、ですね。早すぎましたか?」

「早すぎです、よ?」


「おう、アキか!今すぐ訓練を始めるか?」


 マッチョは朝から元気だ。


「お願いします」


 俺は朝から訓練場で組手を行う。

 もっと体術のレベルを上げたい!

 レベルが上がった瞬間のあの感覚が癖になる!

 自分が自分じゃなくなるような、生まれ変わるような感覚が最高だ。




 俺は地面に寝転がる。


「はあ、はあ、はあ、はあ、お疲れさまでした」

「いいぜ!楽しそうに訓練をする奴は珍しい。俺も気分がいいぜ!がははははははははは!ん?そろそろ時間か」


 マッチョが俺を担いで移動する。

 そしてギルド内にいる魔導士と思われるお姉さんの隣に俺を座らせた。


「ミルク、こいつが昨日言っていたものまね士のアキだ。後は頼むぜ」

「よ、よろしくねえ」

「よろしくお願いします!」


 大きな声で挨拶をするとミルクさんがビクンと反応した。

 驚かせてしまったか。


 ミルクさんを見る。

 話し方がゆっくりでおっとりしているように見える。

 胸が、とても立派だ。

 大きな声を出さないようにしよう。


「な、なに?どうしたの?」


 あまり見つめるのも良くないか。


「い、いえ、大きな声を出し過ぎたと考えていました。ものまね士のアキです。よろしくお願いします」

「う、うん」


 早速お客さんが来たようだ。


「昨日太ももを噛まれちゃって、治療をお願いするわ」

「ヒール!」


 俺はミルクさんのヒールをものまねする。

 

「ヒール!」


 不発か。

 不発だとMPだけを消費する。


 光魔法は習得もレベルアップも難しい。

 今日から何度もものまねをしよう!


「君がミルクのものまねをするアキ君かな?」

「そうです。よろしくお願いします」



「よろしくね。ミルク、今度カフェに行きましょう」

「でもお、毎日回復魔法をしなきゃみんなが困るからあ」


「アキ君が回復魔法を覚えてからでいいよ」

「それなら、一緒に行こうねえ」


 お互いに手を振って別れる。


 後ろに並ぶ次のお客さんが前に座った。

 今度はおばあちゃんか。


「最近、腰が痛くてねぇ。年には勝てないよ」

「気休めにしかならないですけど治療しますねえ」

「ミルクちゃんの治療はよく効くからねえ、いつも助かっているのよ」

「ありがとう。それでは治療しますねヒール!」


「ヒール!」


 俺もものまねを発動させてヒールを使う。

 うん、失敗だ。


「ありがとう」


 おばあちゃんは笑顔で料金を手渡す。

 そして飴を手渡して俺にも飴を手渡す。

 ほんわかするな。


 次のお客さんが来た。

 態度が大きい男冒険者だ。


「おい!早く治療しろ!こっちは痛い目に合って魔物を狩ってやってるんだ!街の中で守られているだけのお前らとは違うんだよ!」


 ミルクさんが怯えて俺の腕を掴んだ。

 注意が必要だな。


「怒鳴るのはやめてください」

「ああ!てめえ!喧嘩売ってんのか!おいミルク、早く治せよ!」

「は、はい!ひ、ヒール!」


「ヒール!」


 よし、失敗だ。


「おい!ちび!てめえ喧嘩うってんのかごらあ!」


 傷が治った瞬間にまた蒸し返して怒って来た。


「いえ、ミルクさんに失礼な態度を取ったので注意しただけです」


「なんだとごらあ!訓練場までこいや!力の差を教えてやんよ!」

「今ものまねの練習中です」

「逃げてんじゃねえぞ!」


 後ろからマッチョの気配がする。

 奴が大声を出した時点でギルド員がマッチョを呼びに行ったのだ。


「何を怒鳴っている?」

「ひい!ギ、ギルド長!こ、これは、こ、このちびが、け、喧嘩を売って来たので、ど、怒鳴っただけです」


「アキ、何があった?」

「この冒険者がミルクさんを怒鳴ったので注意したら更に怒り出しました」


「てめえ!調子に乗ってんじゃねえ!」


 マッチョが冒険者の男をぎろりと睨みつけるとシュンとして黙る。

 マッチョが口角を釣り上げて笑った。

 何か企んでる!


「そうかそうか。アキ、ヤンキ、お前ら2人で試合しろ」


 ヤンキが笑った。


「ぎゃはははははは!俺の力を見せつけてやるよ!」

「ええ!今までの流れだとギルド長が止めて終わると思ってたのに!」

「がははははは、期待してるぜえ!」


 マッチョが親指を立てる。

 周りで見ていたギャラリーが騒ぐ。


「いいぞ!やれ!」

「次の賭けは俺が勝つぜ!」


 やめろ、煽るな!

 ミルクさんが俺に耳打ちした。


「ギルド長は試合を見るのも戦うのも賭けも好きなのよお」


 なん、だと!


 魔道具による放送が流れる。


『ただいまよりギルド訓練場にて、ものまね士アキ選手対格闘家ヤンキ選手の試合が開始されます。繰り返します。ただいまよりギルド訓練場にて、ものまね士アキ選手対格闘家ヤンキ選手の試合が開始されます。観戦希望の方は500ゴールドの入場料を持参の上訓練場にお集まりください。なお、賭けの開催も決定しております。皆さま奮ってご参加ください』


 なん、だと!

 市街地全部に放送してないか?




 俺は、訓練場に立っていた。

 まるで逃げ場を潰されるように放送と周りからの煽り、極めつけはマッチョの悪ふざけにより俺は今ここに立っている。


 観客席にはプリンとチョコがいた。


「アキ、何してるの?」

「マッチョが俺を陥れたんだ!」


 俺はマッチョを指差して叫んだ。


「がっはっはっはっは!楽しみだぜ!」

「まあ、アキ君はもうギルド長と仲良くなったんですね」


 チョコがずれた事を言うが、そう言う問題じゃない!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る