第49話 不審な積荷
ニコシア帝国の首都ニカポリスの外港にあたるキーネ港に到着したアロンゾは、現地の部下から情報を聞いた。
相変わらず皇弟が何を考えているかが分からないという報告に顔をしかめる。
「七人のお姫さんが宮殿に到着したというところまでは確認できているんですがね。中のことはさっぱり分からねえんでさ。毎日豪勢なお茶会を開いて歓待してるらしいってことは噂になってます」
「まあ、仕方ねえな。ここじゃ俺たちは他所者だ。鼻薬をかがせるにしても一朝一夕というわけにもいかねえ。しかし、皇弟殿下は本気で姉御を娶るつもりなのか……」
「ところでお頭。今回の東部での戦いの殊勲者は間違いなく、その皇弟殿下という話ですぜ。ベルティアも盛んに皇弟殿下の身辺を探っているという話です」
「作戦を練るだけならともかく、見事な指揮ぶりを見せつけられたんじゃ、ベルティアもそろそろ本気で殿下の暗殺を考えてくるかもしれないな」
「皇弟殿下の巻き添えになったりするかもしれませんぜ。姉御は大丈夫なんですかね?」
「暗殺団の連中も化け物のように強いって話だからな。なんでも普通の剣では斬りつけてもかすり傷程度にしかならねえってことだ。まあ、俺もそっちは直接見たことがあるわけじゃねえからなんとも言えん」
「いくら強いといっても姉御は一人じゃないですか。暗殺者は数十人はいるって聞きましたぜ」
「暗殺者は厳しい修行の結果、肌が死人のようになるらしい。そんな目立つ外見じゃあ、この国に入ってくるのも容易じゃねえだろう。さすがに幽霊みたいに現れたり消えたりは出来ねえだろうからな」
「幽霊といやあ、変な話があります。バクーア港から運んできた箱の中身が消えて無くなったって話でさあ。ニカポリスへの船に積み替えるってんで、役人が検分したら五箱ほど中身が入ってなくて。その前日までは異常が無かったって船員が言ってるんでさ。幽霊の仕業じゃねえかって」
ヨタ話と適当に聞き流していたアロンゾが顔色を変える。
「その箱ってどんな大きさだ」
部下が両手を広げてみせる。
「これよりかもうちょっと大きいぐらいです。象牙が入っていたとかで、誰か目端の利いた奴が盗んだんですかね? 受取主が現れないってんで今のところ放置されてますが、のんびりとした野郎でさ。大損こいた……」
「いつの話だ?」
「なんすか。急に怖い顔して。三日ぐらい前のことっすよ」
「おめえ、役人の検分前に中身が無くなるってのは見せられない品ってことだ。この稼業についてるのにこんなことも分からねえのか。それで出航地がベルティアのバクーア港、棺桶みてえな箱とくれば、中身はベルティアの暗殺者だよ」
「え?」
「東部で剣を交えていたんだ。陸路でそんな目立つ連中が見とがめられずに侵入してくるのは難しいだろ。ここまでくればニカポリスまでは船で遡るだけだ。で、皇帝陛下はまだ都に戻ってないな?」
「へえ。まだ各地で戦勝記念の歓待を受けてるってことです。まだ数日はかかるって噂で」
「とすると狙いは皇弟殿下だ。まずいな。姉御が巻き込まれちまう。宮殿の中にいるんじゃ武器は取り上げられてるに違いねえ。あの業物のグレイブでもありゃ別だろうが、並の剣じゃ暗殺者に歯が立たねえだろうよ。急いで知らせねえと」
「そんなこと言ったってニコシアの宮殿にゃ知り合いなんて誰も居ませんぜ。中の様子だって分からねえってのに」
「そんな悠長なこと言ってられるか。とりあえず俺が行く。ニカポリスへの一番速い連絡船押さえろ。急げ」
アロンゾは急いで身支度を始めながら、間に合うように海神に祈るのだった。
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