第十一章 お茶会

第48話 無聊

 ナタリーは無聊をかこっていた。

 高位の家の者から順に皇弟殿下にお茶に招待されることになるが、ナタリーの順番はまだ先である。

 ならば暇つぶしに町を散策したいと申し出たがにべなく却下されていた。

 皇弟に拝謁する前に何かあったら困るということのようだ。ニコシア側の立場にしてみれば当然の反応だった。

 とはいえニカポリスの武器屋などを巡るのを楽しみにしていたナタリーにしてみれば不満でならない。

 ならば妹と話でもしようかと考えたが、お茶会が終わるまでは姫君同士が顔を合わせることは禁止されているという。私が一番と思っている姫同士が角突き合わせてつかみ合いでもされてはたまらないということらしい。

 カトリーヌが宿泊する棟の警備兵に追い返されたときは不機嫌さを隠そうともしなかった。

 実力で突破しようと思えばできなくもないのだが、カトリーヌが妃に選ばれる可能性を潰してもと我慢する。ナタリー自身にも仕官の口を探しているという思惑があった。

 それでもナタリーが不満を貯めているというのは周囲の者にはひしひしと感じられる。

「なんだか、お茶会も面倒になってきた気がする」

 こんなセリフが漏れるようになるに至り、これはまずいというので、ジェフリーがナタリーの代わりに武器屋の下調べをしてくることを申し出た。

「後ほど時間ができたときに効率よく回れるように場所を下調べしてまいります。姫様には遠く及びませんが、一緒に武器屋を回ったお陰である程度は目利きもできるでしょう。少なくとも誠実に商いをしているかどうか程度は見分けられると思います」

 それを聞いていたバッツも同行を希望する。

「弓とか矢なら俺の方が詳しいと思うよ」

 こうして二人は町中に出かけることとなった。

 いらいらと子育て期の熊のように歩き回るナタリーから離れたいという気持ちが無かったかと問われれば否定はできないだろう。

 町から戻ってきて、その日あったことを話して聞かせることでナタリーも多少は落ち着いた。

 二、三軒のめぼしい店とダムス産の鋼を使った剣の情報に満足する。

 ただ、その価格は目玉が飛び出すほど高いとも聞き金策に知恵を絞ることになった。やはり、それなりの地位に就いて稼がないことには手が出そうにない。

 直接品定めをするのは後の楽しみと満足することにした。

 また、しばらく顔を合わせていないカトリーヌの様子も日に一度回ってくる神官のズーラから聞くことができ平静を取り戻す。

 残りの時間は相変わらず暇なことは変わりがないので、剣の稽古をしたりシルバーアロウとピートの相手をしたりして過ごした。

 本当はグレイブや弓矢を使った鍛錬もしたいのだが仕方ない。最近はジェフリーが教えを乞うのでその相手をしつつ、自らの剣技も磨いた。

 普段はジェフリーが面倒を見ているが、ナタリーを見ると喜ぶ愛馬の存在はナタリーの心を癒したし、ピートに触れると心が落ち着く。

 それでもなお余る時間は聖プラウメラ騎士団に関する記録を取り寄せてもらい読むことにした。

 最初はその依頼に怪訝そうな顔をしたユータス侯爵も断りはしない。今後自分につくことになる護衛のことが気になるのだろうと想像した。

 それが勘違いであったことは、しばらく後に明らかになる。

 聖プラウメラ騎士団のことを調べれば調べるほど、ナタリーには魅力的だった。

 警護に当たるという職務の性質上、宮殿内でも武器の携行を許されている。今では体の一部のようになっているグレイブも預けなくてよくなるのだった。

 通常であれば屋内では使いにくい長柄武器であるが、この宮殿の建物の造りがゆったりしており、天井も高いので使用に問題は無さそうだ。

 皇弟に面会して聖プラウメラ騎士団の一員にしてもらえるよう頼む日を、ナタリーは心待ちにするようになった。

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