第16話 想像力は大切らしい

『魔法の原理』『基本の魔法をマスターしよう!』『幼児からの魔法教育』

私が、本棚に置かれた本のタイトルを見ているとそんなタイトルの本が多く置かれているコーナーにたどり着いた。

魔法、魔法、魔法・・・大量の魔法に関する本が置かれている。


実は、私は前々からこの世界には魔法があるのではないかと考えていた。

異世界転生の定番というのもあるけれど、邸に置かれているトイレやお風呂がとにかく不思議だったからだ。


トイレはボタンを押すと水で流れるのではなく中のものが一瞬で消え、お風呂はボタンを押すとバスタブが一瞬でお湯で一杯になる。見るからに科学で出来る範囲ではないと思った私の出した結果が魔法だったのだ。


管理している人がオカルト好きなだけの可能性が無くもないが、こんなに魔法の本があるのならほぼ確定でここは魔法が存在する世界なのだろう。そう結論付けた私は一冊それっぽいタイトルの本を取る。それは『基本の五大魔法』という本だった。



「おお・・・」



本を開くと物凄くファンタジー感のある内容に私は興奮を隠せなかった。

実を言えば私は前世から魔法やら魔物やらのファンタジー世界に憧れがあった。


だから魔法の存在する世界に来たなんて嬉しすぎると、とんでもなく興奮し感動している。今すぐに飛んで喜びたいほどだけれどここは図書館。静かにするのがマナーだと必死に自分に言い聞かせる。



「・・・五大魔法とは様々な魔法の基本となる魔法で水、火、地、風、無がそれに当たる・・・」



五大魔法以外の魔法は五大魔法の組み合わせで使う事が出来ると書いてあった。

載っていた例では水+風=氷などと書かれておりとても面白い。

魔法に関する色々な事が簡単に、分かりやすく載せられており、読みやすく仕上げられている。


読んでいると魔力と想像があれば使えると書いており、自分も魔法が使えるかもしれないと思い試してみたくなった私は試してみることにした。



「ウォーター。」



ぽつりと小さめの声で呟くと私の手から大量に水が溢れ出す。それはもう大量に蛇口を捻ったような勢いで出てくる水に私は興奮8割焦り1割恐怖1割だった。ここは大量の本があり水に濡らしてはいけない。だけど止め方のわからない私はパニックになりかけながら、とりあえず何か言ってみることにした。



「す、ストップ!」



そう叫ぶと水がぴたりと止まる。想像さえ出来れば呪文なんかは何でもいいらしい。

とりあえず止まったのはいいが水浸しの床をどうしようかと見つめる。

せっかくだし風魔法で乾かそうと私は再び呪文を唱えた。



「ウィンド。」



そう唱えた瞬間強風が吹き始める。台風が来た時のような強い風の音が聞こえ急いで乾かそうと私は手を床に向ける。音は大きかったが、床は綺麗に乾いていて安心すると風を止めようと私は「ストップ」と言う。


加減の仕方は分からないが魔法が使えた事に言いようのない強い喜びを感じていると、ふとどこからか視線を感じ後ろを見ると呆然として立っているルカと目が合った。気まずい。なんとも言えない気まずさから数秒間沈黙が続く。



「えっと・・・うるさい水の音が聞こえたから来てみたんだけど、」

「あっ、私の魔法なのでお気になさらず・・・」



そう言うとルカはあり得ないものを見たかのような顔をした。

私は何かやらかしてしまったのかもしれない。そう思った私はとりあえず謝ってみる事にした。



「えっと、ごめんなさい?」



疑問形になってしまったけど今はそんな事を気にせるほど私に余裕はなく、そっとルカを見る。

ルカはと言うと何故か呆れた様な顔をしていた。どこに呆れる要素があったのか。全く心当たりなんてない。



「いや悪い事じゃなくて・・・魔法って僕達の年齢じゃ使えるの珍しいから驚いただけ。」



私はルカの言葉を一瞬疑ってしまった。

私なんてちょこっと呟いただけで魔法が使えちゃったのに何故使えないのか不思議に思った私はルカに聞いてみることにした。



「どうして使えないの?」

「確か、想像力不足が理由の説が一番有名だったはず。」



想像力不足・・・私は前世では現実から逃げたくて妄想の世界や本の世界にのめり込んでいた。

その成果として簡単に魔法が使える・・・見た目は完全に変わってしまったけど、前世の私のしていた事がこの世界で意味があった事で今の私と前世の私が繋がっている様な気がして少しだけ嬉しくなった。


それにしても、この世界の子供達はそんなに想像力が無いのだろうか。

むしろ子供のほうがありそうなものだけど・・・


そして私はふとルカも魔法が使えるかもと思い聞いてみることにした。



「そうなんだ!ルカは使える?」

「うん、水魔法が得意。」



ルカも魔法が使えるらしく私はどことなく安心する。

自分だけ違う訳でなく周りに同じ人がいると落ち着くと言うのは前世の日本人らしさが出ているのかもしれない。

そして私はルカの使える魔法に興味を持った。見てみたい。自分の中の好奇心が刺激された。



「あの、私ルカの魔法見てみたい!」

「えっ、うん。まぁいいけど・・・」



興奮しながら言う私をルカはどことなく引いた様子で見ていた。何故だ。



「じゃあ使うね。『偉大なる賢者より伝わる水の魔法よ、我が手に舞い降りたまえ』」



私の時に比べて随分と長い詠唱をするとルカの周りにぷかぷかと6つほどの水の塊が浮く。

私の蛇口捻ったような感じとは違い綺麗にコントロールされ全部の塊が本にギリギリつかない位置に浮いている。


思わず触りたくなり水に触ると普通にそれは水で宇宙に居るわけでもないのに普通の水が浮いていると言うファンタジックな状況に私は興奮してしまった。


というか詠唱が随分と私とは違い長かったけれど何か意味があるのだろうか。



「あの詠唱長かったけど何か意味があるの?」

「水魔法の詠唱と言ったらあれでしょ?他にあるの?」



どうやら魔法の詠唱は決まっているらしい。

思いっきり普通に「ウォーター」とか言って出してしまって居たのだけど間違いだったのか。

違う詠唱で水魔法を出している所を見られていたらアウトだけど多分見られてない筈・・・



「ところで君が出してた風魔法の詠唱、『ウィンド』だっけ?聞いた事ないんだけどどこで知ったの?」



水はセーフだった。水は。風は思いっきり見られてたけど。

どう言い訳しようかと私は考え込むけれど思いつかない。


どうしよう、もし私がこの世界の人じゃないなんて知られたら、どうなってしまうのだろう。

何か言おうにも声が出ない。雨の降る音だけが聞こえるこの静寂が私を追い詰めてくるように感じた。

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