第2話 (その2)
今から思えば、当時の担任教師はクラスに双子の姉妹がいるというだけの理由で、その演目を決めたのに違いなかった。その双子というのが、言うまでもなく私とメアリーアンのことだったわけだけど。
父の死以降ずっとふさぎ込んでいた私とは違って、メアリーアンはとても明るい、皆に愛される良い子だった。彼女は主役であるイゼルキュロス王子を堂々と演じきって見せて、発表会に参列した父兄たちの喝采を浴びたものだった。
一方の私はと言えば、霧の怪物が王子に化けるわずかな一幕に少し顔を出して、棒読みの台詞を一言二言読み上げただけだったけれど、それでも観客の反応が一番よかったのは、愛くるしい《メアリーアン》がステージの上で二人並んで見せたからで、その片方が私だったせいでは多分無かったと思う。
舞台は大盛況に終わり、後日それを祝うという名目でもって、叔父は自宅でささやかなパーティを催した。ささやかとは言っても一応は裕福な人々の集まりだったから、色々面倒ごとの多い――と少なくとも私は思っていた――いわゆる社交界の集まりに類されるものだった。その晩の主役はもちろん「主演女優」であるメアリーアンで、私もそんな妹に華を添えるために隣に並ばざるを得なかったわけだけど、気分がすぐれないと言って早々に退出して、あとは屋敷の二階にある父の書庫に隠れるように潜んでいた。
書架に並んでいる古びた書物の数々は、いずれも父が遺したものだった。父はそのまた父親が残した資産を受け継いで、事業家としてそれなりの成功を収めたけれど、当人は若かりし頃は王都の大学に進み、学問の道を志していたのだという。私の記憶に残る父の姿も、裕福なお金持ちの紳士というよりは、優しい学校の先生といった風だった。
ともあれ、幼かった私は何かあると一人でその書庫に逃げ込んで、じっと息を潜めていることが少なくなかったのだ。
薄暗い書庫の片隅にじっとうずくまっていると、階下で人々がいかにも楽しそうに語らっている声がうっすらと漏れ聞こえてきた。きっとメアリーアンはその席で、間違いなく今日一番に輝いているに違いなかった。書庫は居心地こそ良かったけれど、誰も私がここにいることすら知らなかっただろうし、そもそも居場所すら気に留めてはいなかっただろう。つまり私と妹の違いはそこにあった。私たちは、そういう姉妹だったのだ。
(第3話につづく)
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