53 情報収集をしましょう!
「セシルさんおはようございます」
「おはよう……、エメ」
挨拶から始まる学園の朝。
なんと素敵なことでしょう。
少しずつですが話せる人が増えてきて、とっても嬉しいのです。
「昨日のお菓子ありがとうございました。とっても美味しかったです」
「本当……?それなら良かった」
口元を緩ませるセシルさん。
セシルさんも最初の頃と比べると、随分と様々な表情を出してくれるようになってきました。
お互いに心の距離が近づいてきている証拠です。
すぐに授業の時間になり、ヘルマン先生が教壇に立ちます。
「皆、一ケ月後には進級試験が迫って来てるけど準備は出来ているかい?」
ピリッ、と教室に緊張が走ります。
一年間の総決算であり、二年生に上がれるかどうかを決定する大事な試験。
ついこの間、中間試験が終わったような気もするのですが。時間の流れは早いものです。
ヘルマン先生は、試験に向けて皆を鼓舞させるために仰ってくれているのでしょう。
けれど、わたしはどこかそれを上の空で聞いてしまっています。
ラピスのわたしが最も瀬戸際なのは重々承知です。頑張らないといけないと分かっています。
けれど、今のわたしは魔王とゲヘナの関係性に頭がいっぱいなのです。
どうにかしてゲヘナについて知りたいのですが、情報源がありません。
誰か知っている人がいればいいのですが……。
昨日の夜、あのローブで全身を隠した男の人達を逃してしまったことが大いに悔やまれます。
「……また襲ってきませんかね」
今度こそ身柄を拘束して情報を聞き出してやりたいのです。
「ッ!?」
――ガタン!
隣のセシルさんの机が揺れます。
音に驚いて隣を見るとセシルさんが口をパクパクさせていました。
「エメ、また襲われたいの!?」
「え、いや、あの……」
あれ、またというのは何のことでしょうか……?
ゲヘナの人に襲われた話は、セシルさんにはしていないはずですが……。
「シャルロッテとは何でもないんじゃなかったの?」
「ああ……」
なるほど。昨日の話に繋げてしまったのですね。
誤解をまねく発言をしてしまいました。
「いえ、シャルのことではありません。あれは本当に事故ですから」
「他の人に襲われたいの?」
「ああ……いやぁ……」
我ながら変なことを口走ってしまいました。
ですがセシルさんはセシルさんで、どうしてわたしの発言をそこまで気にするのかも不思議です……。
本当なら説明したい所ですが、ゲヘナの話は他言無用ですしねぇ……。当事者のミミアちゃんと居合わせたシャルしか知らないことなのです。
「怪しい男の人に襲われたら好都合だと思っただけの話です!大したことじゃないので安心して下さい!」
「全然大丈夫じゃないと思う!」
火に油を注いだだけでした。
その後、疑心暗鬼に駆られるセシルさんをわたしは必死に説得するのでした。
◇◇◇
「え、ゲヘナについて知ってること?」
休み時間。
わたしは事情を知っているミミアちゃんに話を聞いてみることにしました。
「はい、何かあれば教えて頂きたいのですが」
「この前一緒にセリーヌ様に聞いたこと以外には、ミミアも特に知らないよ?」
「そうでしたか……」
やはり手掛かりが掴めません。
「きっとセリーヌ様もあれ以上のことは分かってないだろうしね。知っていれば何かしらアクションを起こしているはずだもん」
「そうですよね」
完全に八方塞がりです。
「エメちゃん、自分から厄介事に首を突っ込もうとしてない?せっかくゲオルグの一件が済んだのに」
ミミアちゃんの疑いの視線を向けられます。
「いえ、用心するに越したことはないと思いまして」
「知りたくなる気持ちも分かるけどね。でもミミア……カステルの家はそういった情報には疎くて分からないの、ごめんね?」
「いえ、とんでもありません」
こうなったら昨日の公園に張り込みでもしてみましょうか。
犯人は現場に戻る、とも言いますし……。
「でも、そういうことならリアちゃんが詳しいかもしれないよ?」
「そうなのですか?」
「うん。御三家なんて言われ方はしているけど、一番潤沢な資金があるのはリアちゃんのお家だからね。そういった情報にも明るいって聞いた事あるよ」
「なるほど。いいことを教えてもらいました、ありがとうございますっ」
「でも、リアちゃん本人が知っているかどうか分からないし。知っていたとしても教えてくれるかは分からないけどね?」
それでもヒントが増えただけでありたがいです。
わたしはミミアちゃんに頭を下げると、今度はリアさんの元に足を運びます。
「リアさん、今お時間いいですか?」
「あらエメさん。どうかなさいました?」
相変わらず優雅なリアさんは余裕な物腰で対応してくれます。
「単刀直入にお聞きしたいのですが、反魔法士組織のゲヘナについて知っている事は何かありませんか?」
「ええ、ありますよ」
ええ……!?本当に知ってるんですか!?
「よかったら、わたしに教えて欲しいのですが……」
「それは出来ません」
「え……」
リアさんに眼を真っすぐ見据えられて、しっかりとお断りされるのでした。
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