49 夜道を女の子だけで帰るのは危険です!
「はあ……何だかとんでもない目に遭いました」
一体あの密集状態は何だったのでしょう。
シャルもセシルさんもミミアちゃんも。
どこかいつも通りではなかったのです。
リアさんのお陰で解放されて何とか事なきを得ましたが……。
『別に何でもないから!あんた達がふざけてるのが見るに耐えなかっただけ!』
『はあ……』
助け船を出してくれたんだろうけど、最終的に一緒に揉みくちゃにされてしまったシャルは鼻を鳴らして戻って行き。
『ミミアはエメちゃんとセシルちゃんが何してるか気になっただけだし?生徒会室の話は冷静に考えたら解決してたからもういいや!また今度だねっ』
『あ、はい……』
ミミアちゃんは終始マイペースで退散。
『わたしは特別と分かったから、もういい』
『そうなんですか……?』
セシルさんも一人で何やら納得されて静かに席に着くのでした。
『エメさん、この学園は魔法を習う学び舎。遊ぶなとは言いませんが、節度は守るべきでしてよ?』
『え、あの……』
『言い訳は聞きたくありませんの』
『あ、ごめんなさい……』
そしてなぜかリアさんにわたしが若干怒られて終わるのでした。
そのおかげでこの一件は“ラピスの暴走をステラ全員で止めた”と言う扱いに……。
わたしは別に暴走してないんですけど……。ラピスの扱いはいつも寂しいものです。
◇◇◇
第三演習室。
放課後になってわたしは魔法を一人で練習するべくこの空間をお借りします。
「
――ボシュッ
以前より火として成立するくらいには燃えるようになりましたが、やはり微弱です。
これでは魔獣を倒すには至らないでしょう。
「
今度はフェンリルが使用していた闇魔法と呼ばれるものを詠唱してみます。
――ギィイイイイイイン
黒い閃光が一直線に照射、魔力を吸収する演習室の壁が今にも崩れ落ちそうな音を立てています。
「あわわ……壊して弁償するのは困るのです」
威力を弱めて魔法の展開を停止します。
やはり、どういうわけか通常の攻撃魔法は完全に使いこなせません。
それに比べると闇魔法は随分とすんなり扱えます。
魔眼で習得した影響なんでしょうかねぇ……。
魔法を使えるようになって喜んでいましたが、バリエーションとしては他の魔法も扱えなければ困るので現状に満足するわけにはいきません。
どうにかして他の魔法も習得できるようにしないとです。
その後もしばらく練習を続けましたが、成果は今一つに終わりました。
「遅くなっちゃいましたね」
冬に入り、陽が暮れるのも随分と早くなりました。
すっかり暗くなってしまった夜道を歩きます。
ちょうど公園の横を通ると、遮蔽物がなくなるので冷たい風がダイレクトに吹いてきます。
思わず肩をすくめますが、シャルからもらったマフラーのおかげで何とかこの寒さにも耐えることが出来そうです。
「でもやっぱり寒いのものは寒いですからね。早く帰りましょう」
シャルがご飯を作ってくれていることですし。
駆け足になろうと地面を蹴ったその時です。
「ん……?」
何やら不穏な気配を感じ取ります。
わたしが走り抜こうとしている前方に重たい空気が滞留しているような感覚があります。
直観的に足を止めました。
――バシュッ!!
足元に黒い弾丸のようなモノが道路を貫通します。
そのまま走っていればわたしに命中していたことは間違いないでしょう。
打たれた方角、公園の方に視線を向けます。
「マジ、これを察する学生とかいるの?」
公園の敷地内に据えられている枯れた木々の枝、その上に立つ小柄なシルエットがこちらに手をかざしていたのです。
真っ黒な装いでフードを被っている為、シルエットだけで外見的な特徴はほとんど分かりません。
分かるのは背が小さいという事と、声が妙に高い男性というだけです。
「ゲオルグが負けたってのもあながち嘘じゃないってことか……」
男はぶつぶつと一人で納得しながら話を進めています。
あの魔法、当たっていれば間違いなく大怪我をしています。油断して心臓を射抜かれていれば一瞬で絶命していたでしょう。
一瞬にしてわたしのスイッチが切り替わります。
「今、ゲオルグと言いました……?あなたもしかしてゲヘナの人ですか!?」
「さあ、どうだかね……?」
男は再びわたしに向けて手をかざします。
まずいです……!わたしに魔法で攻撃を仕掛ける気ですよねアレ!
「
魔眼と
「ここで消える君には関係ないことだよ――
――バシュッ
再び黒い弾丸が飛んできます。
ですが魔眼を通せば、その方向はすぐに見通せます。
魔術で加速したわたしはそれを避け、その勢いのまま飛び上がります。
木の上だろうと、この距離ならすぐに詰められます。
「嘘だろ、なにそれっ……!?」
魔術を使うと思っていたのか、男は口を開けたまま驚いている様子。
後手に回った男より先に、わたしの拳を叩き込めるでしょう。
「
右腕を振り抜きます。
「
ですが男が展開した漆黒の壁に阻まれます。
――ダンッ!!
わたしの拳はその壁にヒビを入れますが、打ち抜くには至りません。
体は重力に従い降下して木の下へと着地します。
「あっぶね……!なんだよその小技!魔法じゃないのかよ!」
頭の上から何か言われていますが、それを聞いている余裕はありません。
ゲヘナの人ならここで捕まえてお話を聞かねばなりませんから……!
わたしは目の前にある木の幹を見据えます。
「うりゃっ!!」
思い切り腕を振り抜き木の幹を粉砕、折れた木は横倒れしていきます。
「ま、マジかよこいつっ!!」
バランスを崩す男。
木が倒れていくのと同時に再び距離を詰めます。
「くそっ……
またその壁ですかっ……!
確かにわたしの魔術ではそれは破壊できませんけど。
それならばこちらにも方法があります!
「
「はあ!?」
わたしの詠唱で何か男は察したのか、素っとん狂な声を上げています。
ですがその反応は既に遅く、黒い閃光は男の障壁を容易く貫きます。
――バキンッ!!
消失した壁に無防備な男。
わたしはそのまま男の肩を握って地面へ押し付けます。
「ぐあっ!くそっ……!」
男は空いたもう片方の腕をかざします。
さっきの
けれど、この眼はその経路を可視化します。
腕を通っている魔力に狙いを定めて踏みつけます。
「ぬあっ……?!くそ、魔法が出ねえぇ!?」
経路を障害されては魔法は展開することはできません。
どれだけ強力な魔法を持とうと、この距離になればわたしの前で魔法を使うことは出来ません。
「観念して下さい。あなた、ゲヘナの人ですよね?なにが目的ですか?」
「は……?なんのこと……?ゲヘナなんて俺しらねえけど」
「とぼけても無駄ですよ。
――ダンッ!ダンッ!
「ひいいいっ!?」
男の顔の左右真横に魔法を打ち込みます。
もちろん当てたりはしません。
「これ闇魔法ですよね?わたしが魔法の過程を可視化して再現できるってことはそういうことです」
「て、てめぇ……何かデタラメだと思っていたら魔眼使い……お前も魔族の技を使うのかよ!?」
むむっ……久々に嫌な言葉を言われましたね。
「仮にそうだとしたら何ですか?」
「ははっ!なんだゲオルグを倒したと聞いて完全に邪魔者が現れたと思ったが、同業者だったんじゃねえか。悪かったな、謝るからここは強力して……」
ギリギリッ、と男を踏む足の力が強まります。
「あだっ……!」
「冗談はやめて下さい。わたしは魔法士見習いで人間です、あなた達とは違います」
「ふざけんなっ……!お前は完全に化け物じゃねえか……!」
「違うと言ってますよね?」
「それなら何で、お前は
「……」
どうやらゲヘナの人たちは、かなり魔族との繋がりを持っているようです。
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