35 誕生日を祝いましょう!


「シャル……?なんでこんな所に?」


「それはわたしの台詞、あんたの方こそ何してんの?」


「なにって……それはプレ……」


 っと、それは言ってはいけないサプライズ……!


「プレ……?」


「……プ、プレッシャーを感じてて困ってた所かなぁ?」


「なんのプレッシャーよ」


「え、ええと……店員さんの……」


 わたしは白々しく顔を背けます。もう直視することは出来ません。


「大変申し訳ございません!お客様ぁ!!」


 深々と頭を下げて、『どうぞごゆっくりご覧ください!』と言って立ち去る店員さん。


 わたしの方こそ申し訳ないのですっ……!


 結局どう足掻いてもわたしの心が重くなる展開に……!


「気持ちは分かるけど、それを目の前で言うあんたも凄い度胸ね……」


「は、はは……」


 全然度胸ではないのですが……。


 隠すのに必死になっていたら起こしてしまったミスです。ああ、もっとコミュニケーションが上手になりたい。


「それで、シャルの方こそ何してるの?」


「えっ、わたしはマフラーと手袋買いに来ただけよ」


「うそっ、なんでっ!?」


「いや、あんたが誕生日誕生日うるさいから何か買った方がいいのかなって……」


 もうっ、シャルったら!


 何だかんだ言いながら用意してくれるなんて優しいねっ!


「わたしと一緒だねっ!さすが姉妹考えることは同じだっ!」


「え、やっぱりプレゼントだったの?」


「……あ」


 まずいです、思わず嬉しさで口走ってしまいました。


 わたしともあろう者が何という不覚。


「いや……プレゼントではないかなぁ……」


「今、姉妹で考えること同じって言ったわよね?」


 何言ってんの?みたいな顔をされています。


「いや、わたしはシャルと違ってサプライズにするつもりだったから考えも違うね」


「それも言ったらサプライズにならないと思うけど……」


「……今のなし」


「……いや、ムリだから」


 一瞬で自滅するわたし、嘘で誤魔化すというのはムリなようです。


「うん、それじゃお揃いだね。そうだね、そうしよう」


 こうなったら開き直るしかありません。


 同じ物を手に取ったことだし、お揃いコーデでもしちゃいましょうか。


「はっ?プレゼントはするけど、一緒は嫌よ」


「なんで?姉妹だからいいじゃん」


「姉妹だから嫌なのよ。周りにどう見られるのか考えなさいよ」


「いや、ダメだよ。同じお店で同じ商品を手に取るとか運命なのに」


「う、運命……!?」


「カップルもビックリだよ!」


「かかっ、カップ……ぶふっ!?」


「シャル!?」


 どうしてシャルはそこでいきなり空気を暴発させてうずくまるの!?


「シャル大丈夫?どうしたの?」


「な、なんでもない……!ちょっと過呼吸になっただけ……!」


「それってなんでもあるよね!?」


「あんたと一緒にいたらよくあるから気にしないで!」


「ウソでしょ!?なんでっ!?」


「気持ちは抑えようとしてるんだけど、体が勝手に反応するのよ!」


「そんなにわたしのこと拒絶してるの!?」


 しょ、ショック……。


 そんな体でなぜわたしにプレゼントを贈る気になるのでしょうか……。


「わかった……なら、こうしましょう。わたしはマフラーをあげるから、あんたはわたしに手袋をちょうだい。それなら目立たないでしょ」


「う、うん……まあ、いいけど……」


 わたしとシャルが手にした赤チェックのマフラーは同じデザインの手袋もあったので、それをお互いに買ってあげればいいでしょう。


「でも、そんなにお揃いにするの嫌なの……?」


「ムリよ、そんなことしたら今みたいにわたしの体がおかしくなるわ」


「そっかぁ……まあ、そこまで言うなら仕方ないね」


 シャルに毎回暴発されては困るのです。


 結局サプライズということにはなりませんでしたが、お互いの誕生日プレゼントを買い合うのでした。


        ◇◇◇


 迎えた翌日の夜。


「シャルお誕生日おめでとうっ!」


「おめでとー」


 喜びを表現するわたしと、何だか気だるそうなシャル。


「どうしたの!?こんなおめでたい日なのにっ!」


「いや、そんな大した物じゃないから……」


 クールなシャルはそう言いつつ、ご飯を運んでくれます。


 サンドイッチ、チキン、サラダ、コーンスープ、ケーキ。


 凄いフルセットですねっ!


「あ、いけないまだあったんだ」


「ん?」


 するとシャルは更にお皿に盛りつけた料理を運んできます。


 ローストビーフ、サーモンのグリル、アップルパイ、トマトのスープ、フルーツの盛り合わせ……。


 ん?多くない?


 テーブルは既に料理で一杯です。


 これ、わたしたち二人で食べるんだよね?


「あ、わたしとしたことが、まだ作ってないヤツあるじゃん……」


「ちょっとシャル、待ってくれるかな!?」


 いそいそとキッチンに戻ろうとするシャルを止めます。


「ん?心配しないで、ほんとすぐに出来るから」


「違う違う!そっちの心配はしてないよ!?もうこれ以上は食べきれないかなと思ってさ!」


「そう……?いつも誕生日はこれくらい食べてなかったっけ?」


「食べてない食べてない!」


 はて?と首を傾げるシャルですが明らかに多すぎます。


 謎の気合いを見せちゃっています。


「あ、そう……ならいいけど」


 何故か若干納得していないシャルを止めて、わたしたちはお料理を頂くのでした。


「うん!やっぱりシャルの料理はおいしいねっ!」


「……何も出ないわよ」


「ふへへ、わたしからは出るんだなー。はいっ、お誕生日おめでとう!」


 包装紙に包まれたプレゼントをシャルに渡します。


 もう中身は知られていますけど。


「なるほどね。じゃあわたしも……誕生日おめでとう」


「うん!ありがとうシャル!」


 シャルには手袋、わたしにはマフラーを。


 今年の寒い季節はこれで乗り越えられそうです。


「ねえねえシャル」


「なによ」


「来年もこうして一緒に誕生日祝おうね」


「……当たり前でしょ」


 双子の姉妹の誕生日はこうして仲良く過ごすのでした。

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