27 魔法の手掛かりを得たのです!
「はあ……」
授業も終わり、後は帰るだけだというのに足取りが重いです。
うじうじと廊下を少し歩いては停止して、溜め息をつくという不毛な行為を繰り返しています。
魔術の限界、そして今のままでは魔法士として一人前になれないという事実。
分かっているつもりでしたが、こうして改めてはっきりと先生に提示されると傷つくものです。
この学園に入学してから半年が経ち、それでも尚、成果が見えないことに対する焦りもあるのでした。
「エメさん、その異様に遅い歩みは何か意味がありますの?」
「へ……?」
声のする方を振り返ると、そこにいたのは怪訝そうな表情でわたしを眺めているリアさんでした。
「浮かぬ顔をしていますね。ヘルマン先生に何かご指摘を受けたのですか?」
リアさんにはお見通しです。
「いえ、分かっていたことではあるのですが。魔法を使えないと魔法士としては戦えないとヘルマン先生に言われて、ちょっと凹んでいるんです」
「……本当に今更ですわね」
「ですよね……」
分かってはいたのです。
ただ、ここ最近は魔眼と魔術によって皆さんと同等の結果を得られているのもあって、少しだけ驕りがあったのかもしれません。
「魔法はまだ使えませんの?」
「……練習はしているのですが、魔法を展開しようとすると魔力と五大元素に戻っちゃうみたいなんです」
この前、セシルさんとミミアさんに教えていただいた事です。
「なるほど、それは難儀ですわね……」
リアさんはうーん、と顔を伏せて考え込みます。
「“魔法工程書”を読んだことありますか?」
「……魔法を展開するにあたっての工程を記されている本ですよね?ちゃんと読んでいます」
魔法士の中には口頭や実演で魔法を展開できるようになる人も多いので、この手の基礎的な書物は読まない人も多いとは聞いたことがあります。
勿論、わたしはその例に含まれないので、そういった教科書類にはちゃんと手をつけています。それで効果がなくて今に至るのです。
「最近のものではなく、昔のものは?」
「あ、いえ……最新のものしか読んでいません」
「近代の魔法工程は古くからある魔法基礎の無駄を削ぎ落し、簡略化したものと言われています。ですがその分、難易度が高くなっているとは聞いたことがあります」
「そうなんですか?」
「ええ、近代では魔法士として素養のあるものしかその手の書物は読みませんから。より効力を発揮するように行程書もデザインされ直しているそうです。ですから、効率は悪くなるでしょうが、昔のものを学べなエメさんでもあるいは……」
「魔法が使えるようになるってことですか……!?」
これは目から鱗の新情報です!
「あくまで仮説ですわよ。確実に使えるようになる保証はありません」
「いえ、少しの可能性があるだけでも今のわたしには十分です!」
「そうですか、それでは頑張ってくださいな」
ふっ、と満足そうな笑みを浮かべて横を通り過ぎようとするリアさん。
ですが、わたしはその手を掴んで止めます。
「え、ちょっと……なんですの?」
「いえ、まだ聞きたいことがあるんです。その工程書はどれくらい昔のものを読めばいいのでしょう?」
「さぁ……。最も古い初版に手を付ければ良いのではなくて?」
「なるほど。それってどこにあるんでしょうか?図書室にありますか?」
「図書室にはないでしょうね。魔法に関連する本はコレクターも多く、昔の物であればあるほど価値が高くなっていますから。古書店でお探しになれば良いのではなくて?」
「古書店……って、どこにありますか?」
それを聞くとリアさんは、うんざりしたような表情に変わります
「それくらい自分でお探しなさいな……子供じゃあるまいし」
「それが、まだこっちの地理がよく分かっていなくてですね……一緒に探してくれませんか?」
帝都クラルヴァインにはこの学園を入学をきっかけに引っ越しただけで、土地勘は元々ありません。住んでからも家と学園の往復ばかりだったので、お店の場所も把握していないのです。
「なるほど、地方出身の悩みということですわね」
「あ、まあ……はい」
そんな大層なものではないですけど、リアさんがそれで納得してくれるならそれでいいです。
「ですが、それとこれとは話は別。分からないのならご自身の足を動かしてお調べになればいいだけのこと。私が同行する理由にはなりませんわ」
改めて拒否して、その場を去ろうとするリアさん。
――ガシッ
ですが、わたしは掴んだ手を離しません。
「……エメさん、放してくださる?」
「リアさん、次のお休みの日は何か予定はありますか?」
「特にありませんが……。あの、それはともかく放してくださる?」
「リアさんが一緒に行ってくれるのなら放します」
「……め、珍しく強気ですのね」
「はい。わたしにとって魔法士になれるかどうかの瀬戸際です。なりふり構ってなんていられませんっ」
ギリギリッ、と力づくで引き離そうとするリアさんですが、生憎その程度でわたしから離れることは出来ません。
「ず、ずるいですわよ……こんな時まで魔術をお使いになるだなんて……」
「え?使ってませんよ?」
「う、うそ……怪力ですの貴女……」
あんまり嬉しくないことを驚かれました。
「お願いです!わたしを連れて行ってください!仮に古書店に行けたとしても、わたしの知識じゃどれがその本か分からないんです!」
「い、嫌ですわ……!なぜステラである私がラピスである貴女と休日をご一緒しなければなりませんのっ……!」
「休日にステラもラピスも関係ないですよ!学園を離れたらお互いただの一般人じゃないですかっ!」
「それならそれでもっと意味が分かりません……!一般人同士であれば貴女と一緒に行動する理由なんて何一つないではありませんか!」
ぐぬぬ……全然一緒に行ってくれる気配がありません。
「わたしたち、一緒に森を彷徨って苦楽を共にした中じゃないですかっ!こんな深い関係なかなかないですよっ!」
「貴女もしつこいですわね……!わかりました、そこまで言うならいいでしょう!」
「え、いいんですか!?」
「ええ、ただし……この場に這いつくばり私を見上げ“卑しいこのわたしにリア様の叡智をお与えくださいニャー!”と猫のように鳴いて懇願して下さい!それなら考えてあげてもいいですわよ!?」
「分かりました!」
「そうでしょう、さすがにそんな人間の尊厳を踏みにじられるような行為は……って!?今、なんと仰いました?!」
――ビタッ!
わたしは即座に四つ這いをとり、リアさんを見上げます。
「卑しいこのわたしにリア様の叡智をお与えくださいニャー!」
ちゃんとはっきり言い切りました!
「お、おい……アレ見ろよ。ラピスがリア様に何か怪しい行動をとってるぞ」
「ペットか……?ペットとして飼い始めたのか……?」
周りにいた生徒さんたちがその様子を見て騒ぎ始めています。
ですが、今のわたしにはそんなの関係ありません。そんな体裁など二の次です。
「は、早くお立ちなさい!」
今度はリアさんの方からわたしの両肩を掴んで引き上げます。
「え、だってリアさんがやれって……」
「貴女にはプライドという物がありませんの!?」
「この学園に残ること以上に守るべきプライドなんてあるんですか!?」
「そ、それはその通りだと思いますが……腑に落ちません……」
リアさんはしきりに首を傾げていますが、それよりも、です。
「いいんですよね!?これで一緒に行ってくれるんですよね!?」
「……い、いえ。これは冗談のつもりで……まさか本当にやるなんて……」
「嘘をついたんですか!?ヒドイですっ!!」
聡明なリアさんが真剣なわたしにそんな仕打ちをするなんて思いませんでした……ショックです。
「おい……リア様が困ってラピスを立たせたかと思ったら、今度はラピスの方が泣きそうな顔になって喚いてるぞ」
「一体どういう関係なんだ……?ラピスが一方的に迫っているのかと思ったが、案外リア様が懲らしめてるのか?」
その声を聞いてリアさんは更に慌てふためきます。
「と、言うのも冗談ですわ!そこまで懇願されては私も断るわけにはいきませんわね!いいでしょう、一緒に古書店へ参りましょう!」
「本当ですか!?良かったです!」
「ですから、もういいですわね?私はもう行きますわよ!?」
「あ、まだ集合場所と時間を決めてませんが……」
「また後日連絡致しますわ!おほほほ!それではご機嫌よう!」
リアさんは疾風のようにその場から消え去るのでした。
何はともあれこれで一歩、魔法へと近づけた気がします……!
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