16 リアさんと二人は緊張します!
「ええっと……、リアさんがわたしと一緒に行動するんですか?」
正直、その提案には驚きました。
「問題ありませんわよね?今回は行動の制限はないはずです」
「それはそうですけど……いいんですか?」
「なんのことです?」
「わたし、ラピスですよ?」
なぜ、わたしと行動しようとするのか理由が分かりません。
「構いません、一緒に探した効率的でしょう?」
「は、はあ……」
いえ、わたしとしては一人の方が効率いいんですけどね……。
人前ではあの眼の力は使えないので……って、ん?
そう言えば、シャルと模擬戦の話をしている時にリアさんの話が出てきたような……。
『あ、そう言えばリアの奴、あんたの魔術に何か違和感を覚えてたわよ』
『えっ、どういうこと?』
『“双子の姉妹なのに、あれだけ能力差があるのはおかしい”って』
『うわあ……怪しまれてるね』
『一応、気を付けておきなさいよ。あんたの体のことはあまり知られない方がいいって師匠も言ってたんだし』
『……そうだね、気を付ける』
という会話をしていたのでしたっ!
もしかして、わたしに探りを入れるつもりで……?
いえ、そうと決まったわけではありません。
リアさんの様子を見て、判断を……。
「ちょっと。歩くのが早いですわ、そんな先を急がないで下さります?」
「あっ、ごめんなさい!」
先を歩くわたしにぴたりと付いて来るリアさん。
え、わたしに付いて来る……?
あのリアさんが?
絶対おかしい……。
何か企んでいる気がしてなりません。
「ちなみに魔石には心当たりはございますの?」
「いえ、今は特に……」
「そうですか。何か方法があるといいのですけれど」
かと思えばリアさんは周りをキョロキョロ見るだけで、自分では特に行動を起こそうとしていません。
あのリアさんが魔石を見つける方法をわたしに尋ねてくるなんておかしいです。
……これは、わたしに能力を使わせて秘密を暴こうとしているのでは!?
そうだ、そうに決まっています。
こ、こうなったら……!
「これはひたすら歩き回って魔石を見つけるしかありませんねっ!」
魔術は一切使わず、肉眼で見つけるしかありません!気合でっ!
「ええ……見つかるといいですわね」
リアさんの思い通りにはさせませんよっ!
◇◇◇
「リアさん」
「なんですの、エメさん」
「陽が暮れましたよ」
「え、ええ……分かっていますわ」
そうです。
結局、根気強く探そうという場当たり的な対応で魔石が見つかるわけもなかったのです。
そして執念深いのがリアさん。
あくまで自分で探そうとはせず、わたしに寄り添って状況を伺うばかり。
明らかにわたしの出方を見張っている感じです。
そう来れば、こちらも負けじと魔術は封印しますので尚見つからなくなるという負のループ。
気付けば時間だけが過ぎてしまい、かなり奥まで来てしまうのでした。
「じゃ、じゃあ……帰りましょう。リアさん」
まさかリアさんが補習を受ける覚悟をしてまで、わたしの能力を暴こうとするは……驚きを隠せません。
「ええ、そうしましょう」
案外すんなりと受け入れるリアさん。
何か手を打ってくるのではと身構えましたが、何もないようです。
……って、あれ。リアさん?
まだわたしの後ろに付いて来るんですか?もう帰るだけですから、それ必要ないですよ?
「エメさん、足取りが重くてよ?」
「あの、その、リアさんが先に行って欲しいかなぁ……なんて思いまして」
「それは出来ません。私はエメさんに付いて行きます」
え、まだですか……?
この状況下でわたしが能力を使うタイミングなんてもうありませんよ?
「さあ、急ぎますわよ」
背中を押されますが、足は進みません。
「あ、いや、その……」
わたしは先に行けない理由があるんです。
「どうしたのです?帰ると仰ったのはエメさんですよ?」
「道が分かりません」
「……はい?」
目を瞬かせるリアさん。
「帰り道が分かりません、ここがどこか全く把握していません」
正直ですね、リアさんと一緒に行動するだなんてそれだけで緊張するんです。
しかも、疑われているという状況下はかなり精神的に負担なんです。注意が散漫になるんです。
おかげさまで道のことなんてさっぱり考えていませんでした。
リアさん。ここは申し訳ありませんが企みを捨てて、道を教えてください。
「……な、なんてことですの」
――バタッ
地面に突っ伏してしまうリアさん。
あれ、なんだかご様子が……?
「ど、どうかしたんですか?具合でも悪いんですか?」
「これは由々しき事態ですわ……!」
「ど、どういうことです……?」
リアさんの鋭い眼光がわたしを射抜きます。
「私も道が分かりませんの」
……へ?
「あ、あはは……。もう、冗談やめて下さいよ。あのリアさんがそんなワケないじゃないですか」
「これは冗談ではありませんわ」
あれ、本当にリアさんの表情が険しいままです。
もしかして、もしかするんですか……?
「じゃ、じゃあ……わたしたち、遭難したってことですか?」
「そうなりますわね」
えーーーーーーーーっ!!
ウソですよねっ!?
「どうしてエメさんは道が分からないのに奥へと進んで行ったのですか?」
エメさんの監視が気になって道なんて見てなかったから……とは言えません。
「わたしは魔石を探すのに集中していただけですっ!リアさんの方こそ、どうして道が分からなくなっちゃったんですか!?途中で教えてくださいよっ!」
「何を仰っていますの?私は最初から道など把握しておりませんでしたよ」
「……はい?」
「それを見つけてくれたのが、エメさんではないですか」
「ええっと、ちょっと待ってくださいね……?」
つまりそれって……。
「最初からリアさんは迷子だったってことですか?」
「迷子だなんて……そんな子供みたいな扱いはやめて下さらない?」
ぽっ、と頬を染めるリアさん。
分かりません。どうしてそこで恥じらいでいるのか、さっぱり分かりません。
「聡明なリアさんが、なぜ迷子なんかになるんですか!?」
「方向音痴だからですわ」
あ、そうなんですか……。
意外すぎてそんな発想一切なかったです。
「それならそうと言ってくださいよ!」
「そんな恥ずかしいこと、素直に言えるとお思い?」
今、とても素直に打ち明けてくれてますけどね……。
「でも、それならリアさんは誰かと一緒に動けば良かったんじゃないですか?」
「群れるのはあまり好きじゃありませんの」
おおう……ちょっとカッコいいです。
わたしもそんなこと堂々と言ってみたいです。
わたしの場合は、馴染めず一人なだけですので意味が全然違いますが。
「でも、いつも男の子が周りにいますよね?」
「ああ。あの鬱陶しい方々?アレには正直迷惑していますの」
「あ、そうなんですね……。そんな風に思っているとは知らなかったです……」
てっきり、ああいう女王様スタイルがお好みなのかと思っていたのですが。
「私、男は嫌いですから」
その時のリアさんは苦虫を潰すような、苦々しい表情を浮かべていました。
なんだか、憎悪のようなモノを感じました……怖いです。
話を変えましょう。
「とにかく……これ以上、現状を嘆いても仕方のないことですもんね。今は無事に脱出することを考えましょう」
「そうですわね」
そうして迷子のわたし達は森を彷徨うことになったのです……。
「えっとですね、リアさん?」
「なんですの、エメさん」
迷子という新事実が発覚してから30分程歩いたでしょうか。
現状、成果は全くないのですが、それとは別に気になることがあります。
「どうしてわたしにそんなピッタリくっ付くんですか?」
そうなのです。リアさんはずっとわたしに体を寄せてくるのです。
「いけませんの?」
「いけないって事はないですけど……ずっと周囲をキョロキョロ見てますし……どうしたのかなと思いまして」
正直、ガーデンのリアさんはずっと挙動不審です。
そんなわたしの疑問が伝わったのか、リアさんは一呼吸を置くと話し始めました。
「エメさんは、このガーデンと呼ばれる場所の逸話をご存じ?」
「いえ、特には……」
「このアルマン魔法学園が建つ以前、この地は魔族との争いが絶えなかった戦場だったそうです。ゆえに数多の魔法士が無念の想いで散っていったそうです」
「それは……悲しいお話ですね」
「ええ。そして死んでも死に切れぬ魔法士たちの想いは残留思念となり、まだこの地に囚われていると……聞いたことがあるのです」
それは確かに身につまされるようなお話です。
ですが、それとは別にリアさんの今の状況って……。
「つまり、リアさん森が怖いってことですか?」
「……とっても、怖いですわ」
つまりリアさんは方向音痴だからわたしについてきて、そして森が怖いからずっと周囲をキョロキョロと見ていたようです。
「魔石探しに集中しなかったのもそれが理由ですか?」
「……そうです。恐ろしくて魔石探しなんて全く身が入りませんわ」
気付けば、リアさんの手は小刻みに震えていました。
リアさんにもこんな一面があったんですね……。
そうと分かっていれば、最初からわたしもあんなに警戒しないで済んだのですが。
「大丈夫ですよ、リアさん。わたしがいますから――」
――ガサガサッ!!
わたしの話を遮るように、草が揺れる音がしました。
「え、エメさん!?どこからか物音がしましてよっ!!」
「動物とかじゃ……?」
「きっと魔法士の魂ですわっ!私達の体を求めているんじゃなくて!?」
リアさん……意外にオカルトなこと言うんですね……。
「そんなワケないですって、落ち着いてくだ……」
――ガシッ!
リアさんはわたしの腕を強く絡めとります。
「ここにいたら駄目です!先を急ぎますわよ!!」
「ええっ!?ちょっとリアさんっ!?」
全速力で駆け出すリアさんに、わたしは成す術なく連れて行かれるのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます