13 噂されちゃってるみたいです!
【シャルロッテ視点】
「あーあ……やってるわねえ」
模擬戦を眺めていると、魔術で身体強化をしたお姉ちゃんが宙を舞う姿が目に飛び込んできた。
並みの魔法士見習いでは彼女には歯が立たないだろう。
「おい、嘘だろ。ラピスがヨハンとマルコの魔石奪っちまったぞ」
「動き速すぎだろ」
「でも、あれ。セシル様の防御魔法ありきだろ」
「そりゃな。そうじゃなきゃラピスにやられるわけないから」
だが、残念。
せっかくの能力も、隣にいる強大な存在によってその認識は掻き消されてしまった。
あーいう残念なところが、実に姉らしいと言えばらしいのだが……。
なぜ、セシルと組んだのだろう……謎だ。
「――どうしてエメさんは、あんなに魔術に特化していますの?」
妙に耳につく、お嬢様口調の人物はわたしに声を掛けてきた。
「……それ、聞く必要ある?」
「お姉様のことでしょ?詳しいんじゃなくて?」
緋色の髪を揺らし、やけに自信に満ちた表情浮かべるのはリア・バルシュミューデだ。
「魔法が使えないから、その分魔術を鍛えた結果よ」
「それが分かりませんの。あれだけの魔術、相当の鍛錬とセンスがなければ到達できません。それなのに魔法だけが使えない、というのは違和感が残りますわ」
「それこそセンスがなかったのよ、あれがあいつの限界」
「それが腑に落ちませんの」
なんだ、やけにリアはお姉ちゃんのことを気にするわね……。
「魔法士としての能力は後天的に育てられる部分は多くあれど、その根幹となる部分は生まれながらにして決まっていると言われています」
リアの言う通り、魔法士には先天的な才能に左右される要素がいくつかある。
例えば魔力量、これは生まれながらにして許容量が決まっておりそう簡単には増えない。
魔法分類【攻撃・防御・回復】や、属性【雷・風・火・水・土】も個人によって得手・不得手がある。
魔力量は大きければ大きいほど、魔法分類・属性は多ければ多いほど優秀とされる。
「目の前の結果が全てでしょ。使えないものは使えないの」
「ええ、貴女がいなければ私もそう考えましたのにね」
「……どういう意味よ」
「姉妹、それも双子で生まれ育ったあなた達がそんなに能力差があるのはおかしいと考えるのが普通ではなくて?」
「……片っぽが優秀または無能なんて、よくある話だと思うけど」
「魔法・魔力とは生命の根幹に宿す力。遺伝子が似通っているのなら、必ず同じ能力を有しているはずなのです。それが双子の姉妹でここまで差が開くなんて聞いたことがありませんの」
「それが事実だと仮定して、結局何が言いたいのよ」
饒舌に語るリアは笑みを浮かべる。
「ですから、エメさんに理由があって魔法の能力が落ちたのか、またはシャルロッテさんに理由があって魔法の能力が向上したのか?この二通りの疑問が浮かびます」
「あんたもヒマね。どっちでも良くないそんなこと?」
「いえいえ、大変気になりますわ。どちらにしてもそんな話は聞いたことがありませんから」
「ふーん、あっそ。気になるならご自分でどうぞ考えたいだけ考えてください」
わたしはこれ以上リアと話す必要性を感じず、踵を返して離れることにした。
結果として、わたしが上であればそれで良い。
わたしは絶対に誰にも負けない。
遥か上、お姉ちゃんが見上げるような場所にわたしは立ち続けなければいけないのだから。
それ以外は、些末なことだ。
◇◇◇
「あれ、早いな」
帰宅すると、リビングのソファの上には制服があった。
お姉ちゃんは決まって学園で居残り練習をしていたから、いつもわたしが先に帰宅していたのに。
珍しく先を越された。
「シワになるでしょうが……」
ていうか、なんで制服を出しっぱなしにするんだ。しまいなさいよ。
ハンガーに掛けといて、リビングに来たら部屋に持って行かせよう。
お姉ちゃんは放っておくと極限までだらしなくなるから、わたしが厳しくしないといけない。
「ほんと、わたしがいないとダメなんだから」
ため息を吐きつつ、乱雑に置かれたブレザーとスカートを手に取った。
まだほんのりと温かい。
……脱いだばかりなんだ。
キョロキョロと辺りを見る。
少なくともリビングにお姉ちゃんの姿はない。
「どんな匂い、するんだろう」
ふと、そんなことを思ってしまった。
気になったことは確かめたい、わたしはそういう性格。
そう、性格なのだから仕方ない。
決してやましい気持ちはない。た……ただの疑問だ、これは。
だから、手にとった制服を鼻に近づける。
すう、と息を吸った。
「あつ!シャル帰って来てたんだね!……ってうえええっ!何してるの!?」
「うえっ!?なっ……なにっ!?」
突然、どこからともなくお姉ちゃんがっ!
み、見られた……!?
「それはこっちの台詞!なんでわたしの制服持ってるの?ていうか匂い確かめてなかった!?」
あわわわ……まずい、まずいっ。
変な子だと思われてしまうっ!!
「あ、あんたが制服出しっぱなしだからハンガーに掛けようとしてたの!シワになったらアイロン掛けるの誰だと思ってんの!」
「うえーん……ごめんなさあい……。お家に着くとすぐに脱ぎたくなっちゃってぇ……」
気持ちは分かるけど……。
「だらしない、しっかりしなさいよね」
「はあい……。でもそれと匂いは関係する……?」
「そっ、それは……」
どうする、どうする、どうする……?
「なんか部屋から変な匂いがするなと思ったから、どれかなって確かめてたの!!」
「えっ、ウソっ!そんなにわたしクサい!?」
「……いや、どうやらこれではなかったわ」
「あ、ほんと?それなら、よかったよ」
ほっと胸を撫でおろすお姉ちゃん。
本当にそうしたいのは、わたしの方だけれど。
「びっくり、びっくり。シャルにクサいって思われるのは嫌だからねえ」
「そんなの誰だってそうでしょ」
わたしは制服をお姉ちゃんに押し付ける。
少しだけ名残惜しい気がするのは……秘密だ。
「でもヤだよぉ。シャルに嫌われたらわたし生きていけないもん」
「はぐっ!」
「え、シャル?どうしたのいきなりそっぽ向いて?」
どうしていつも、突然そういうこと言うかなぁ……。
そういう意味じゃないって分かっているけれど……。
「あ!やっぱりホントはクサくて鼻もげちゃった!?」
そして、どうしていつもそういう結論に至る……。
「大丈夫だって。ていうか、別に関係ないから……」
「ん、なにが?」
「わたしはそんなこと気にしないからっ!!」
「あっ……うん。なら安心だね」
お姉ちゃんはやんわりとした笑みを浮かべる。
そう、わたしにとってそんなのは問題じゃない。
どんなことでも受け入れる覚悟はあるから。
「あれ?でも聞きようによっては、“クサいのは事実だけど、それ言ったら傷つくから我慢してあげる!”と気を遣われているような……?」
ううん……。
伝わらないよねえ。
「それで?なんで今日はこんなに帰るの早いのよ」
「あっ、それ!今日の模擬戦みてくれた?それを話したくて早く帰ってきたの!」
「ああ、見た見た。またバカみたいに飛んでたね」
「ええー……セシルさんとの相性もいい感じだったし、仲良くなれそうな気がしたんだけどなあ」
ま、いいか。
それもきっと、些末なことだ。
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