第49話:オババ様と錬金術2

 オババ様が物騒な話ばかりするため、私は少しナイーブになっていた。


「そう言った話を聞くと、魔装具なんて代物が存在してもいいのか、疑問に思いますね」

「さっきも言ったろうに。使う者によって変わるとね。そんなの気にしてちゃ、いつまで経っても何もできやしないよ」

「おっしゃりたいことはわかるんですけどね。危険なものだと思うと、ちょっと作る気力が……」


 実際に作れるかどうかは別にして、自分が作ったものを人殺しの道具に使われるのには、大きな抵抗がある。


 仮に私の作ったアイテムで力を振る舞わなければならないのなら、あくまで人を守るための道具として使ってほしい。


 ……変な婚約を寄せ付けないように力の腕輪が欲しい、と思っている私が言える立場ではないかもしれないが。


「呆れたねえ、あんた。見習い錬金術師なのに、仕事を選ぼうって言うのかい?」

「お言葉ですが、薬草の品薄が解消されれば、見習い錬金術師にしては忙しい身ですので。仕事を選べるのであれば、やりたいものだけに専念したいですね」


 私は宮廷錬金術師になりたいとか、Sランク錬金術師を目指すとか、大きな野望がない。のんびりと錬金術を楽しめれば、それでいい。


 だから、無理して魔装具作りに挑戦する必要は――。


「もったいないねえ。あんたが欲しそうな魔装具なんて、世の中にはいっぱいあるっていうのに。たとえば、そうだねえ。体を浮遊させ、空が飛べるようになる風の指輪はどうだい?」


 えっ! 空が飛べるようになるの⁉ それは、欲しい……。


「異空間を作り出して、見た目よりも遥かに収納できるマジックポーチも便利だねえ」


 最近は買い出しで重たいものを持ち運ぶ機会が増えたし、オシャレなポーチをデザインして身に付けたいなー。


「体の異常を検知し、ありとあらゆる状態異常を防ぐ破邪のネックレスもいいかもしれないねえ。腐ったものを食べても勝手に解毒してくれるよ」


 さすがに腐ったものを食べる趣味はないけど、いつまでも健康でいられるという意味では、とても有用なものだと思う。


 せっかく錬金術師の勉強をしているんだから、やっぱり魔装具作りに挑戦してみるのもいいかもしれない。


「それで、オババ様が今おっしゃった魔装具は、どうやって作るんですか?」

「自分で考えな。そこまで甘くないよ」


 うぐっ。変なところで飴と鞭がある。魔装具を作りたい欲求だけ高めて、突き放してくるなんて。


 こうなったら少しでも早く上達するように、多めに素材を買い込んで付与の練習を頑張ろうかな……と、心が動かされるあたり、オババ様の思うツボだと思った。


「ところで、あんた。そのネックレスはどうしたんだい? 今まで付けていなかっただろうに」


 やっぱりオババ様レベルの錬金術師になれば、パッと見ただけで高価なネックレスだと見抜いてしまうんだろう。


 珍しく神妙な面持ちをしたオババ様が、ヴァネッサさんの作ったネックレスを眺めていた。


「知り合いからいただいたんですよ。とても綺麗なネックレスですよね」

「イーッヒッヒッヒ。本当に良いネックレスをもらったもんだねえ」

「えっ! ま、まさかオババ様が躊躇なく褒めることがあるなんて……」

「いつでも素直な気持ちを言っているだけさ。そんなにひねくれちゃいないよ」


 世界で一番ひねくれていると思いますけど、と思いつつも、私は口には出さなかった。


 万が一、いや、億が一の可能性で、一人くらいはオババ様の上がいるかもしれない。


 ただ、最近はひねくれるだけではないのも、また事実である。ネックレスを見たオババ様が上機嫌になり、席を立って、一枚の紙切れを持って戻ってきた。


「オーガスタのせがれと、これに行ってきな」


 そう言って手渡してくれたのは、力の腕輪を見せに来ていた男の子がオババ様に渡していたものだ。


「力の腕輪の試作会……の招待状ですか。えっ! 場所は、王城の騎士団訓練場⁉ いったいあの子は、何者……」


 オババ様に気に入られている時点で怪しいとは思っていた。でも、国が関わるほどの案件をこなしている子だったなんて。


「あの子はあんたと同じで、宮廷錬金術師の助手をしている子だよ。魔装具に関わりたいなら、知り合っておいて損はないよ。もっと現実を見て、錬金術の世界を広げてきな」

「い、いいんですか? オババ様の代わりに、私が行っても」

「構いやしないよ。行く気なんてこれっぽっちもありゃしないからね」


 確かに、オババ様が素直に参加するとは思えない。だから、男の子も力の腕輪を持ち込み、わざわざ見せに来ていたんだろう。


「じゃあ、お言葉に甘えたいと思います」

「そうだよ。人の厚意は受け取っておくもんだ。あんたには期待しているんだからねえ、イーッヒッヒッヒ」


 随分と上機嫌なオババ様を見て、また何か面白いことが見つかったなんだろうなーと、私はどこか他人事のように思うのだった。



―――――――――――――


『あとがき』


新しく登場した男の子と接点ができたところで、第八章は終わりになります。


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