第17話:ポーション作り2
日が暮れる頃。ポーションの下準備を終えた私は、それの作成に着手していた。
クレイン様の補佐もなく、一人でポーションが作れるか不安だったけど、意外に難しくはない。調合スキルで魔力領域を展開するコツもつかみ始め、スムーズに作業ができていた。
慣れ親しんだ作業でもないため、油断するわけにはいかないが……やっぱり錬金術は楽しい。
自分の魔力で錬金反応を起こして、魔力水の色が変わるところを見ると、自然と作ったポーションにも愛着が湧く。
「二百本のポーションを何日で作るつもりだ?」
よって、休憩も取らずにポンポンと作っていた。
クレイン様が呆れるような眼差しで見つめてくる気持ちもわかる。でも、楽しいのだから仕方ない。
「早く納品した方がいいのかな、と思いまして」
「限度があるだろう。早くも俺が作るペースに近づきつつあるぞ」
「そう言われましても、調合作業は時間がかかりませんし、薬草の下準備は元々やっていた作業です。今は冒険者ギルドの仕事を兼任しているわけではないので、このくらいのペースが妥当かと」
ジール様の下で働いていたときと違い、今は錬金術の仕事に専念することができている。婚約という縛りも消えて、精神的に落ち着いた影響も大きいだろう。
単調になりやすいポーション作りを長時間していても、心に余裕を持って作業に取り組めていた。
「なるほどな。単純に考えれば、理解できることだった。冒険者ギルドの休日を利用して、薬草の下処理をやっていたのか」
「ジール様が平日に錬金術を行なう分を、私が休日に下処理をしておく。それが助手の仕事でしたから」
依頼と契約が被った場合は、多い日で四百本の薬草を下処理したこともある。
貴族令嬢が夜遅く出歩くわけには行かないため、早朝に出勤して、日が暮れるまでに作業を終わらせて、帰らなければならなかった。
そういった意味では、仕事の作業効率を求めるようになったのも、自然のことだったのかもしれない。
「率直に聞くが、錬金術師になって、どう思う?」
「まだ私は見習いですが」
「細かいことは気にするな。すでに錬金術師として活動しているんだ。ポーション作りについて、思うところも出てくるだろう」
実際に、今日一日ポーションを作り続けてみたところ、機材の使い勝手が違うとはいえ、かなりやりやすさを感じた。
広々とした工房で作業ができるし、物をいっぱい置ける机がある。下準備がやりやすくなっただけで、ポーションの質が向上しているのは、大きな収穫だと言えるだろう。
「まだ普通の回復ポーションしか作っていませんが、だいぶ調合作業に慣れてきました」
「では、ポーション作りにかかる時間配分の計算くらいはできるな」
「そうですね。思っていた以上に時間はかからない印象です。時間配分だけで言えば、下準備が九割・調合作業が一割、といったところでしょうか」
下準備の時間の方が圧倒的に長い、その事実を口に出した瞬間、猛烈な違和感に襲われた。
私は今まで、ジール様が作るポーションの下準備をやってきた。貴重な休日を使って、ポーションを作るための下準備を
九割の負担を請け負い、たった一割の仕事をジール様のために残していたのだとしたら……。
「あれ? 騙されてた?」
助手の仕事と負担が大きすぎると言える。ましてや、ジール様が行なう調合作業は、とても簡単なものだった。
いつもジール様が苦痛に満ちた表情で錬金術をしていたから、まったく気づかなかった。いや、これから本気を出すと言っていたし、あれは演技だったのかもしれない。
私に仕事を押し付け、浮気するための時間を作っていたのだとしたら!
「もしかして、ジール様はサボりすぎでは?」
「ようやく気づいたか」
やはり錬金術に苦戦していた姿は、演技だったのか! まんまと騙されていた……!
クレイン様も『これくらいの調合は錬金術の基礎だぞ。Cランク錬金術師で手間取るなんて、聞いたこともないが』と言っていったし、ジール様も本気の錬金術がどうのこうの言っていたから、間違いない。
「じゃあ、今までどれだけ夜遊びをしていたんですか!」
「俺に言うなよ」
それはそうだ。クレイン様が悪いわけではないし、怒りの矛先を向ける相手が違う。
悔しい気持ちはあるけど、無事に婚約破棄が成立して、もうジール様とは無関係だ。問題を掘り起こしたとしても、自分のためにはならない。
逆に言えば、理不尽な助手の仕事をしていたから、クレイン様に引き抜いてもらえたとも言い換えられる。
よし、ここは前向きに考えよう。錬金術師になるために必要なことだった、そう思った方が精神的に落ち着くはず。
「早くポーションを作り終えて、次のステップに進みましょう。目標は、今週中にポーションを納品することです!」
対抗意識を燃やすわけではないが、ジール様が本気を出すのなら、私も全力で錬金術に挑むべきである。
悪者扱いされていたから『今までミーアが足を引っ張っていたから、本気が出せなかったぜ』などと、悪い噂を流しかねない。これ以上の悪評を避けるためにも、早く一人前の錬金術師にならないと。
気合を入れてポーション作りを再開すると、完全にクレイン様がドン引きしていた。
「参考までに言っておくが、一週間で二百本ものポーションを作るなら、一般的に四人の錬金術師が必要になる。魔力の消費量の問題もあるが、集中力が持たないからな」
「ん? この工房は、見習い錬金術師の私を含めて、二人しか錬金術師がいませんが……?」
「二日で終わらせようとしている人間が何を言っているんだ」
「いや、だって……私に全部押し付けようとしていましたよね?」
「俺は甘くないと言ったはずだぞ。いや、今では甘かったのではないかと反省している」
「お、鬼だ。これが噂の、ブラック上司というものでは……!」
「オーバースペックの見習い錬金術師には言われたくないな」
私は下処理ができるだけで低スペックのはずなんだけどな、と思いつつも、ポーションを作るために手だけは動かし続けるのだった。
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