第9話:ミーア、見習い錬金術師になる

 クレイン様がうまく誘導してくれたこともあり、無事にポーションが作れた私は、感無量だった。


 手元のポーションを眺める限り、品質は良好。冒険者ギルドでも普通に買い取ってもらえるほどのポーションが完成している。


「見てください! 品質の良いポーションができましたよ!」

「そうだな。これくらいのポーションが作れるなら、錬金術師として活動できる……というより、していたと言うべきか――」

「ええっ! 私、錬金術師になれるんですか!?」


 突然、錬金術師として活動できる、という衝撃の事実を伝えられ、高鳴る気持ちが抑えられない。


 クレイン様のその言葉だけで、胸がいっぱいになっていた。


「ポーションの目利きができる人間を、助手の仕事だけで縛り付けておくのは、もったいない。見習い錬金術師として活動するべきだろう」

「嘘、じゃないですよね? クレイン様の下で見習い錬金術師になってもいいんですよね?」


 宮廷錬金術師の下で錬金術を学ぶ。それはもう、御意見番として採用された受付嬢ではなく、ちゃんとした錬金術師の卵として扱ってもらえるわけであって――。


「構わない。腕の錆びついた錬金術師なんて、みっともないだけだからな」


 夢にまで見た憧れの生活が始まろうとしている。


 宮廷錬金術師の助手、兼、見習い錬金術師として活動できるのだ。


「だが、俺は甘くないぞ。錬金術に関しては、厳しく接するつもりだ」

「お願いします! 何でもやりますから!」

「わかった。ミーアの実績にならないかもしれないが、簡単な仕事くらいは回そう。まずは錬金術に慣れる必要がある」


 やったー! 今日から毎日錬金術ができるー!


 仕事ができて、お金ももらえて、休日もある。こんなにも幸せな生活が待っているなら、早く正式に婚約破棄しないと。


 だって、絶対に手放したくないから。


「まあ、このポーションを納品するだけでもCランク依頼はこなせる……って、聞いているのか?」

「えっ? あ、はい。何でしょうか」

「いや、何でもない。それだけ錬金術に憧れていたのなら、何か作りたいものがあるのかと思ってな」


 クレイン様にそう言われて考えてみるが、何も思い浮かばなかった。


 私は錬金術が好きで、強い憧れを持っていただけにすぎない。


「特にありません。錬金術ができるだけで嬉しいです」

「ミーアみたいなタイプは、作りたいものを作った方が成長するだろう。まずは目標を決めるべきだな」

「わかりました。何か作りたいものを考えたいと思います」


 錬金術で作れるものには、様々なものがある。


 薬草から生成するポーションだったり、鉱物を形成して作るアクセサリーだったり、魔石の力を引き出す魔道具だったり。


 何が作ってみたいかと言われたら……控えめに言って、全部作ってみたい!


「まあ、まずは助手の仕事だ。工房内の清掃に薬草の在庫管理、機材の点検など、任せたい仕事は色々ある」

「任せてください。ジール様の下で働いていたときは全部やっていましたから、だいたいの要領はわかります」

「薬草や機材の置き場所を変えなければ、好きにしてくれて構わない。研究に必要な薬草の在庫表は作っておいたから、足りなくなりそうなら教えてくれ」


 クレイン様に一枚の紙を受け取ると、薬草の種類と目安の在庫量が記載されていた。幅広い研究をされているのは間違いなく、かなりの薬草を取り扱っている。


 さっきポーションを作るときに見た限り、すでに薬草の在庫が少なくなっているものもあるみたいだ。


「薬草の仕入れはどうされているんですか?」

「馴染みの店で購入している。本来なら、目利きのできるミーアに買い出しも任せたいところだが、店を経営しているオババがかなり偏屈なんだ。俺が顔を出さないと売ってくれそうにない」


 薬草を販売している偏屈なオババと言えば、広い王都でも一人しかいない。気に入らないと客を追い出し、すぐにぼったくろうとする問屋のお婆さん『バーバリル様』。通称、オババ様だ。


 幅広い種類の薬草を取り揃えていて、品質も良いものが多いし、宮廷錬金術師の馴染みの店と聞いても納得がいく。


「オババ様の店であれば、買ってきますよ。仲はいいので」

「ミーアは人当たりがいいかもしれないが、さすがにオババと仲良く……ん?」

「ユニークな方ですよね、オババ様。たまに手作りのよもぎ餅をお土産にくださるんですけど、それがとてもおいしいんですよ」

「ちょっと待て。情報量が過多で頭がパンクしそうだ。整理させてくれ」


 よもぎ餅をもらった話をしただけなのに、そんなに驚くことだろうか。情報量はかなり薄いはずなんだけど。


「西側の大通りから少し入ったところにある、薬草や鉱物を扱う問屋のオババの話をしているよな?」

「はい。ジール様の元で助手をしていた時、いつもそこへ買い出しに行っていました。数年ほど付き合いがあるので、買い出しは大丈夫だと思います」

「それなら薬草の在庫管理は一任しよう。ぼったくられないようにだけ注意してくれ」


 ……オババ様、クレイン様にもぼったくろうとしていたのかな。宮廷錬金術師は金払いがいいと思い、割り増しで請求していたのかもしれない。


「もう一つ。ついでになるが、さっき俺が作っていたポーションをオババに納品してほしい」

「わかりました。じゃあ、明日は在庫が少ない薬草を買ってきてから出勤しますね」

「頼む」


 クレイン様からポーションを受け取った私は、割れないように小さなケースに入れて持ち運ぶことにした。


 助手になったばかりで、ミスをするわけにはいかない。無事に納品を済ませて、買い出しを済ませよう。


 新生活を気持ちよくスタートさせるためにも。そして、錬金術の仕事をするためにも!

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