第50話 俺の返事は決まっている
「こ、皇帝陛下がカイザル様をお呼びのようです……」
そう告げるのは俺の父親であるエドワード・フォン・クヴィスである。
その表情は俺に仕える事に対する屈辱と怒り、憎悪の色が見て取れるのだが、普段のようにそれだけではなく不安という色が今回は混じっているのがその表情から見て取れる。
皇帝から直々に俺が呼び出されたのである。
それも親しい者に対するような手紙でもなければ敬意を払った内容ででもない。
ただ、今すぐに城へ来いという相手の都合も何も考えていないような内容だからであろう。
もしかしたら皇帝陛下が俺の悪行に気付きエドワードを含めたクヴィスト家の救出であるのであれば事前に俺にばれないように連絡をしあい、俺の隙を狙って行動に移すであろう。
そんな事などは裏で起こっていないという事が父親であるエドワードの焦った態度から丸わかりである。
皇帝陛下が我々クヴィスト家に対して敵まではいかないまでもそれなりの警戒をされ始めているのではないか、と。
この場合俺だけではなく、表向きにはまだクヴィスト家の当主であるエドワードもただでは済まない可能性が非常に高い可能性がある。
そして俺は一応父親から渡された手紙へ目を通すと、そのまま無詠唱で炎魔術を行使して燃やし、同じく無詠唱で風魔術を行使して灰を家の外へと飛ばす。
確かに今の俺は皇帝陛下よりも位は低いため、本来であればこの手紙を貰った段階で飛んで皇帝がいる城まで早馬を飛ばしてでも向かうべきであろう。
しかしながそれを俺が行う場合は皇帝の権力が絶対のものであり、尚且つ俺と皇帝陛下との間には埋めることのできない格差、または俺と皇帝陛下との間にそれだけの信頼関係がある場合ぐらいであろう。
そして基本的には最初に告げたように皇帝陛下には絶対的な権力を持ち、埋めることのできない格差がある為皇帝陛下からの命令を聞くというのが一般的であろうが、今の俺はその限りではないし、皇帝陛下と信頼関係を築けているわけでもなければ築こうとも思っていない。
なんなら、これほど相手の事を考えていないような呼び出しから見ても俺の事を見下している事が透けて見えて来る相手な上にこちら側にはメリットどころかデメリットしかない相手と友好な関係を築きたいと思う人がいるのならば連れてきてほしいところである。
なので俺の返事は決まっている。
礼には礼を、失礼な対応には失礼な対応を。
そして俺は皇帝陛下へ『そのような礼を欠いた呼び出しには応じるつもりはないので拒否する』という内容を書いた手紙を父親に渡すのであった。
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