新たな刺客
俺は近くにギュンターがいる状態で話すことにした。
今のところは信頼関係が築けたとは言えず、ミズキとひそひそ話をしようものなら、疑念を抱かせると予想したからだ。
「この人の話では、カールさんはモリウッド氏の隠し財産を盗んだそうです」
「ウソっ、そんなふうには見えなかったけど!?」
ミズキは戸惑いを露わにした。
彼女の言うようにカールさんがそんなことをするとは信じがたい。
見たままの印象であれば、ギュンターたちの方が悪人に見える。
「お嬢ちゃん、見た目にだまされちゃいけない。あいつは人のよさそうな顔をして、モリウッドさんの金を盗んだんだ」
ミズキは一介の町娘ではない――いずれゼントクの後継者になる人物である。
ギュンターの話しぶりを見て、それがたわ言ではないと悟ったようだ。
「うーん、どっちが正しいのか分からなくなりそう」
「モリウッド氏に会えば、何か分かるかもしれません」
「そうだね。目的地はそのままで、何かあれば返り討ちにすればいいだけだし」
さらりと言ってのけたミズキを見て、ギュンターの表情が固まった。
「頼むから、あの黒髪の女が暴れないようにしてくれよ」
「アカネはあたしの家臣だから、そうならないようにするね」
ミズキは落ちついた様子で言葉を返した。
ここまでの状況を見る限りでは、アカネの戦力を上回る存在はいないのかもしれない。
仮に地元の冒険者や実力者が出てきたとしても、彼女だけでなく魔法が得意なアデルもいるため、後手に回る可能性は低いことが予想できる。
「……これでハンクもいたら、最強の布陣だな」
「どうした、何か言ったか?」
「いえ、独り言です」
ギュンターにハンクのことを説明したら、俺たちがモリウッド氏を狙う殺し屋だと誤解されてもおかしくない。適当にはぐらかしておいた。
「ところで、モリウッド氏には会えるんですか? 大物となれば忙しいでしょうし、顔を合わせるのは難しそうですけど」
「それなら問題ない。オレはモリウッドさんから指示を受けて動いているから、ギュンターが戻ったとなれば、どこかで時間を作ってくださる」
「それなら大丈夫ですね」
外壁を通過して通りを歩いているのだが、牛車が珍しいようで通行人の目が集まっている気がした。
ギュンターもすでに気づいているようで、周囲の視線を気にするようになっていた。
「モリウッドさんのところへ行くのに、この車は一緒というわけにはいかない。馬が預けられるところがあるから、先にそこで置いてもらうからな」
「全然いいけど、ここから近いの?」
「……ちょうどその方向へ向かっているところだ」
ギュンターはぶっきらぼうなままだが、牛車のことを気にかけてくれたようだ。
やがて外壁に沿うように続く道を歩いた後、馬の姿がちらほら見えた。
街の中心を外れているものの、どの馬も逃げないようにつながれている。
「あそこが厩舎だ。話を通してくる」
ギュンターはそれだけ言って、厩舎の方に向かっていった。
そのまま少し待つと彼がゆっくりした足取りで戻ってきた。
「話はついた。馬の邪魔にならなければ問題ないそうだ。端の空いたところを使ってくれ」
「ありがとう!」
ミズキは牛車に乗ったままのアカネに声をかけに向かった。
ひとまず、この件は解決したようだ。
「牛車が一緒では街を歩けませんからね。助かりました」
「オレたちは出会ったばかりだ。貸し借りはなしだ」
「ああっ、分かりました」
ギュンターはドライな性格のようで、あくまで距離を取ろうとしている。
おそらく、俺たちがカールさんに協力しようとしたことも関係しているだろう。
厩舎の脇で話をしていると、アデルに続いてカールさんがやってきた。
彼はギュンターの存在に気づき、怯えた様子で足を止めた。
「ギュンターにはあなたに手を出さないように伝えてあります。安心してください」
我ながら白々しい台詞だが、カールさんの潔白が分かるまではギュンターの言い分も無視できない。
「それはありがとう。あの男は何をするか分からないから、本当に助かります」
「いえ、お気になさらず」
ギュンターとの距離は少し離れているため、会話の内容は聞こえていないはずだ。
彼は険しい表情でこちらを見ているが、必要以上に近づこうとはしていない。
「マルクくん、モリウッドって人のところに向かうんだよね?」
「はい、そうです」
ミズキが確認するようにたずねてきた。
カールさんが嘘をついている可能性があり、彼女もいくらか混乱しているようだ。
その後は全員で集まり、モリウッド氏のところへ向かうことを伝えた。
相変わらずアデルは興味なさそうな態度を維持しており、アカネはミズキの意向に従うという感じで主体性が見られなかった。
説明を終えたところで、厩舎の近くを離れて移動を再開した。
ギュンターは不服そうな姿勢を崩さないが、カールさんをモリウッド氏の元へ行かせることができるため、最初よりは態度を軟化させたように見える。
「これでようやくモリウッドさんのところへ戻れる」
歩き始めてすぐにギュンターが疲れた様子で言った。
「俺は早く真相が知りたいです」
「ふんっ、真相か」
彼は何か言いたげだったが、続く言葉はなかった。
「――お前さんたち、ちょいと待ちな」
厩舎近くの路地から街中に入ろうかというところで、唐突に呼び止められた。
声の主に目を向けると、テンガロンハットを被ったひげ面の男が立っていた。
「デックス……。お前、何の用だ」
ギュンターはその男に対して、警戒心を露わにした。
危険な人物なのだろうか。
「……誰なんです?」
「レイランドのごろつきだ」
彼はさも不愉快そうに答えた。
周囲に緊迫した空気を感じるが、カールさんだけは薄い笑みを浮かべていることが気にかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます