最終話:フレネミーの微笑み

 ある日、私はテレビでこんな単語に触れた。


 ────フレネミー。


 Friend(友)とenemy(敵)を使った造語で、友を装った敵、という意味の言葉だった。私は気が付いた。絵美は、もしやフレネミーだったのではないかと。


 絵美に恨まれるような事をいつしたのか? 私は良く考えた。そして、答えはひとつだった。


 あの時、私が藤田をかっさらって行った事。それが絵美の中に黒いおりを貯め込ませていたのではないかと。年若い私がした無神経な行動が、絵美を友から敵に変えたのではないかと。そして絵美は、微笑みをたたえた敵になり、いつも私に甘い毒を囁き、じわりじわりと私を追い詰めて行ったのではないかと。


 そして、回復してこれから人生をリスタートさせようとしている私の姿を、絵美は良しとしなかった。絵美は、苦しんでいる私を見ていたかったのだ。幸せを掴もうと行動する私の事など見たくも無かったのだろう。


 私は、絵美の連絡先をそっと携帯電話から消した。


 この事を、確認しない方が良い。あえて、その闇に足を突っ込む事はない。


 絵美は、地方で夫と暮らしている。平凡で退屈な毎日だと言ったが、それは贅沢すぎる悩みなのではないかと思った。


 もしも絵美が藤田と結ばれていたら、エリートの妻としてどんな人生を送っていただろうか? もしくは、絵美が藤田と結ばれていたら、私より上手く彼と付き合えていただろうか?


 それは、もう私の知る由ではない事だ。


 絵美がフレネミーかもしれない、という事を、私は他の友達には打ち明けていない。この事は、墓場まで持っていく秘密にしておこうと思う。それが、唯一私が絵美にしてあげられる事なのだと思っている。


 あの楽しかった高校生活を、絵美との思い出を汚さないためにも、この事は生涯秘密にしていこう。そう私は誓ったのだ。


 私は、江田島と結婚し新たなスタートを切る。今は、江田島の事だけ見ていよう。そして、自分の道を確実に進むのだ。


 今なら分かる。敵は────微笑みをたたえて甘い毒を吐く。



────完

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フレネミーの微笑 無雲律人 @moonlit_fables

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