決着の時②
「なかなかに住み良い城だったからな。派手に壊さぬよう我が固有魔法でゴミ掃除を試みたが……些かゴミが増えすぎた」
ニヤリと笑う口元とは対象的な冷たい視線をこちらに向けると、魔王は杖を振り上げた。
「影達に割り振っていた魔力を全て回収した。貴様ら裏切り者どもは我が最大出力の魔法で粉微塵にしてくれる」
強がり……ではない。膨れ上がる魔王の魔力を肌で感じつつ、俺達は改めて彼の底知れなさに生唾を飲み込んだ。
「元部下達に贈るせめてもの手向けだ。恐怖を抱く間もなく滅してやろう」
「くっ!」
「食らうが良い!我が全力!」
杖を振りかざし魔王が放ったのは、とても『技』と呼べる代物ではなかった。ただただ巨大な魔力の塊。それを圧縮し、無造作に打ち出す。それだけの攻撃だ。だが、それ故に我々は呆気にとられてしまった。
(防壁の展開を……)
一瞬遅れて、思考が追い付く。だが、それよりも早く動きだした人物が一人。それは、勇者イツキだった。
「うおりゃあああ!『
イツキの持つありったけの魔力が混ざりあい、衝撃波となって魔王の放った魔法球に飛んでいく。そして、俺達のチーム最大の破壊力を誇るその技は、真正面から魔王の攻撃を迎え撃った。しかし。
「効かぬわぁ!」
両者の攻撃が拮抗したかに見えた。だが、それもほんの一時。次の瞬間には、イツキの混沌の衝撃は押し潰され、文字通りチリとなって消え失せた。
「ウッソ!?」
「伏せろ!イツキ!……お前らもだ!」
俺の怒号に仲間達はその場に身を屈めた。そして、イツキの攻撃によってほんの少しだけ軌道の逸れた魔王の一撃は、俺達の頭上を通り抜け魔王城の壁を木っ端微塵に破壊した。
「……ほぉ。よくかわしたな。やるではないか」
かわしたのではない。運良く軌道が逸れただけだ。だが、それすら評価の対象になるほど、魔王は俺達の実力を下に見ていた。そして、実際にヤツとイツキの技の威力は、それほどまでに差があったのだ。
「流石は魔王……といったところですな。魔力に疎いワシでさえ背筋が凍りそうですわい」
ラウロンの言葉にミアも頷く。
「うん。それに、あの人まだまだあの攻撃できそうだよ。嫌な感じをピリピリ感じるもん」
鼻や耳をピクピクとさせるミアを見て、カタリナは体を大きく震わせた。
「ほ、本当ですか!?あの、勇者様ぁ。勇者様の魔力って……」
「スッカラカンよ。残念ながらね」
「ええ!?」
あっけらかんと言い放つ勇者。だがそんなことはお構い無しとばかりに魔王の魔力が再び増大し始める。
「ならば、我等が時を稼ぎます!その間に勇者様達は何か策を!」
「任せたよ!ご主人!」
「わ、私も!何かその……魔王城に来てから良いところ全然なかったので!!」
その言葉と同時にラウロンが魔王に飛びかかった。そして、それをミアとカタリナが後方から支援する。
「チッ!小蝿どもが!」
集中の途切れた魔王は、魔力球の発動をやめ接近戦に切り替える。だが、それもいつまでもつかはわからない。
「戻れ!お前たち!止めれるかはわからんが、ヤツの攻撃は俺が受ける!その間に……」
そう言いかけた瞬間。俺の体は大きく後ろに引っ張られた。
「そうじゃねぇっしょ。パイセン」
俺の体を引っ張った張本人。フュンフはケタケタと笑いながら一歩前に進み出た。
「守ってばっかじゃ結局ジリ貧だぜぇ?これだから年寄りは保守的で良くねえ。ケケケ」
「おや?それはワシの事を言っとるんかの?」
「いやいや、滅相もねぇ。大賢者アインス様」
「ほほほ。じゃが、こやつの言うことももっともじゃ。勝算なき後退は相手を勢いづかせるだけ。時には無理をしてでも前に出ることは必要じゃぞ?」
「しかしアインス殿。すでにイツキの魔力はカラ。反撃の手立てが……」
「僕達がいるじゃないか。ツヴァイさん!」
絶望的な状況に似つかわしくない、爽やかな声。その声に振り替えると、スキンヘッドのエルフ……。ドライが自身の胸をトントンと叩いていた。
「彼女の代わりに僕達が剣に魔力を乗せよう。なぁに、僕の一撃必殺の弓と原理は同じだろう。なんとかなるさ」
ドライの提案にフィーアも頷く。
「それにオレ達は途中参戦だったからな。魔力が余ってしょうがねーんだよ」
「だが……」
言い淀む俺の目の前を、ラウロンの体が高速で横切っていく。
「よっと」
フィーアはそんな彼の足を難なく掴むと、雑に床に転がり落とす。
「大丈夫か?ジーさん」
「いやぁ。かたじけない。魔王の一撃でこのザマです。……歳はとりたくないですなぁ」
魔王の攻撃をまともに受けたのだろう。軽口は叩いているものの、彼の顔色は明らかに良くない。
「おじいちゃーーん!」
「ラウロン様ぁーー!」
吹き飛ばされたラウロンを追って、カタリナとミアも俺達の元に帰ってきた。それを見た魔王は邪悪な笑みを浮かべる。
「ふぅ。やはりゴミはまとめて片付けるに限る。わかっていると思うが……もう『次』はないぞ?」
そう言うと、魔王は三度魔力を増幅させていく。
「もう議論の余地はねーんじゃねぇの?なぁ?クソ勇者にパイセン」
「そのようだな。……いけるか?イツキ!」
「どんとこいよ!……さぁ!頼んだわ!」
イツキの言葉に、四天王の面々はこくりと頷いた。そして、彼女の構えた剣に魔力を込めていく。
「……揺るぎない大地の力を、クソ勇者に」
「……奔放な風の力を、彼女に」
「……聡明な水の力を、お嬢ちゃんに」
「……荒ぶる炎の力を、勇者のヤローに」
火、水、地、風。4つの属性が同時に黒剣を包み込む。それらは混ざりあい、また反発しあい、その激しさを増していく。まさしく、剣の形に圧縮された混沌とも呼べるその力は、四天王の強大な魔力によって、更に上のステージへと引き上げられる。
「……ありがとう、みんな。それから、ツヴァイ?」
「なんだ?」
膨大な魔力を纏った剣を構えながら、イツキは言う。
「こうしてみるとわかるわ。次の一撃、きっとトンでもない衝撃がおこるハズ。それから皆を守るのは……」
「俺の役目だろう?」
彼女の横に、俺は進み出た。
「任せておけ。それから……これで決めろよ?」
「言われなくても、そのつもりよ!!」
イツキは剣を振りかぶると、全力を持ってそれを叩きつける。それに対抗するように、魔王も桁外れの魔力を集約した魔法球を射出した。
「くらいなさい!真・
「我は負けん!故に魔王なのだ!!」
二つの超巨大な魔力が衝突する。その際に発生するエネルギーは、俺達の想像を遥かに越えるものだった。
『奴は四天王でも最弱』。魔王様の一言でリストラされた俺は、その場の流れで勇者パーティに加入することになりました 矢魂 @YAKON
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