決着の時①

「ちょっ、ちょっと!どうすんのよ!?ツヴァイ!」

「どうするも何も……カタリナの命が懸かっておるのだ!言うことを聞くしかあるまい」


 言い争う俺とイツキ。その間にトコトコと割って入ったのは、アインス殿だった。


「まあまあ、落ち着きなさい二人とも。あのお嬢さんは大丈夫じゃよ」

「しかし、アインス殿!」

「そうよ!一体なにを根拠に……」


 イツキの言葉を遮るように彼は笑うと、自らの目を指差してみせた。


「根拠はワシのじゃ」

「……なるほど!アインス殿の固有魔法・千里眼を使えばカタリナの安否を確認できるということか!」

「でも見えるだけでしょう?あの子カタリナを直接助けれる訳じゃないじゃない」

「むぅ……。ならば、フュンフの瞬間移動で」

「おっとぅ。そいつはムリだぜぇ、パイセン」


 必死に絞り出した俺の案を、フュンフは即座に否定した。そして、全身の骨をカタカタと鳴らしながらその理由について話始める。


「俺っちの魔法は長距離を一瞬では跳べねぇ。ここから地下室まで行くとなるとどーしても多少のタイムラグが発生すんだよ。だが、俺っちがそんな素振り見せた瞬間、魔王はあの娘を殺しちまう。確実にな」

「まあ、そうじゃろう」

「つーワケよ。残念だったなぁ。クカカカ!」


 楽しそうに嗤うフュンフと、焦る素振りを見せないアインス殿。そんな二人の様子にイツキは声を荒げた。


「何でそんな落ち着いてんのよ!まさかカタリナを見殺しにするつもりじゃないでしょうね!?」

「ったく。勇者ってのは話を聞かねー生き物かぁ?」


 ハンッ、と鼻を鳴らすとフュンフはあの水晶玉をチラリとこちらに見せる。


「俺っちもジーさんも、この目で見たから大丈夫だっつってんだよ」

「うむ。言ったじゃろう。ここに来る際、頼りになるに声をかけたと」

(奴等?アインス殿。まさかまだ増援を……)


 その時、魔王が声をあげた。


「何を話している?娘を救う算段か?それとも命乞いの相談か?どちらにしてももう遅い!」


 魔王が手を振り上げると、再生した影達がその包囲をジリジリと狭め始める。


「おっと、抵抗は許さん。指一本動かせばあの娘は我が魔獣の餌だ。……さて、まずはツヴァイ。裏切り者の貴様からだ」


 ヤツの冷たい視線がヌルリとこちらを捉える。


「折ろうか?裂こうか?千切ろうか?抉ろうか?……クク。ここは景気よく貴様を爆殺してやろう」


 魔王がそう言うと、正面に立つ影達の手元に火属性の魔法エネルギーが集中する。


「なに、苦しいのは一瞬だ。ドカンと景気よくいこうではないか。ソレ、ドッカー……」


 その瞬間。耳をつんざくような爆音と共に、魔王の影達の立つ床が木っ端微塵に弾けとんだ。


『ドカァァーーーン!!』


「…………はぁ?」


 あまりの出来事に、魔王も俺達もポカンと口を開け、動きが停止する。


 そんな静寂の中、吹き飛んだ床下から黒煙を掻き分けながら一人の女性がひょっこりと姿を現した。

 真っ赤な短髪に立派な一本角。その人物とは、最後にして最強の四天王・フィーアに他ならなかった。


「よっ!ツヴァイにイツキ!久しぶり……てほどでもねーか」

「フィーア!お前、何故ここに?」

「何故って、こいつに借りを返すためだよ」


 そう言うと、フィーアは肩に担いでいたをドサリと床に放った。


「わぷっ!」

「カ、カタリナ!アンタ、大丈夫だった?ケガとかしてない?魔王の部下に変なこととかされなかった?イヤらしいこととか……イヤらしいこととか!?」

「落ち着けイツキ。……大丈夫か?カタリナよ」

「はい!ツヴァイさま!あの方……フィーア様が助けてくださいましたので」


 チラリとフィーアに視線を向けると、彼女は屈託のない笑顔をニッと浮かべる。


「へへっ。アインスのジーさんにオメーらが魔王城に向かったって聞いてよ。借りを返すチャンスだと思ってさ。その子にゃあポヘが世話になったからな。それともう一つ」


 その手に握られた頑強な金棒・金剛砕の先端を、彼女は魔王に突き付ける。


「オレの可愛い相棒を黒焦げにした報い。魔王サマに受けてもらおうと思ってさ」


 言ったかと思うと、フィーアは勢いよく金棒を振り抜いた。彼女の固有魔法『爆炎エクスプロージョン』により、大気との衝突で発生した爆風が、たちまち魔王の影を飲み込んでいく。


「おお!影達が!」

「消えてくわ!」

「へへん!ま、こんなもんよ」


 部屋を埋め尽くしていた魔王の影達が一つ残らず姿を消した。だが、ヌルは焦る素振りすら見せず、肩を震わせながらクスクスと笑い出す。


「ク、ククク。まさか貴様ら、勘違いしてはおらぬだろうな?『影が消えた』『魔王の魔力が尽きた』……とな」

「はぁ?強がってんじゃないわよ!」

「ふん。強がりではない。それがわからぬほど勇者というのは無能ではなかろう」

「…………チッ」


 勇者イツキでなくともわかる魔王の本気。彼の全身から漂う魔力は、この戦いが最終局面を迎えたことを指し示しているのだった。

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