培った力③

「ツ・ヴァ・イ・く~~ん!!」


 天窓を突き破り、部屋の上空から現れた人物。それは俺の母親代わりをつとめてくれた竜人族の女性・ヒルダさんだった。


「ヒ、ヒルダさん!?」

「大丈夫ですか!ツヴァイ君!この母が来たからにはもうご安心を!」


 背中から生えた竜の翼で器用に空を飛びながら、ヒルダさんは俺に向かってブンブンと手を振る。


(竜人族の飛行能力。久しぶりに見たな。……俺の子供の時以来か?)


 呆気にとられ、上を見上げる俺達。すると、ヒルダさんの背から見慣れた顔が二つ、ピョコンと飛び出した。


「元気じゃったかのぉ~、我が息子よ」

「へへーん!大丈夫だった?ご主人!」

「アインス殿!?それに……ミア!無事だったのか!」


 四天王の一人にして俺の親代わり・アインス殿。彼はニコリと笑うと、ヒルダさんの背から地上に向かって次々に攻撃魔法を撃ち出した。


「ヌウゥゥゥ!アインス!それにヒルダ!貴様らまでも裏切るか!!」


 増殖を続ける魔王の影達。その半数ほどがアインス殿の魔法によって消し飛んだ。そして、空いた空間に三人は颯爽と降り立つ。


「裏切る……ですか。謀反者ツヴァイの縁者だとしてワシらに刺客を送ってきたのはそちらではないですかのぅ?魔王様」

「それに母は子の幸せを願うもの!ツヴァイ君が茨の道を進むというのなら!このヒルダもそれを後押しします!ええ!母なので!」


 魔王に啖呵をきる俺の両親達。少し気恥ずかしい気もするが、こんなに頼もしいこともあるまい。

 その時、アインス殿と一緒に降りてきたミアが俺の体にしがみついてきた。


「ご主人~。ボク頑張ったんだよ!」

「おお、ミア。良く頑張ったな。……しかし、どうしてあの二人と一緒に?」

「うん。おじいちゃん、僕らに鍵を渡した後もたまに千里眼の魔法でご主人の様子を見てたんだって」

「むぅ。なんと過保護な」

「それでね?ボク達が魔王城に乗り込んだことを知って急いで助けに来てくれたんだって。ボクもさっき助けてもらったんだ」

「そ、そうだったのか。なら、アインス殿達とラウロンの支援に向かってくれないか?いくらヤツが強くても一人では……」

「ああ。それなら大丈夫だよ。おじいちゃん、に声をかけたって言ってたし」

「何?」


 その時、玉座の間の巨大な扉が勢いよく蹴破られた。


「勇者殿ぉぉーー!!」


 その声の主。ラウロンは部屋に飛び込むなり、次々と魔王の影を蹴散らしていく。


「ラウロン!アンタも無事だったのね?」

「ええ!彼が手を貸してくれましたので」


 ラウロンが指差した先。部屋の出入口から、その人物はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。


「やあ、久しぶりだね。ツヴァイさんに勇者」


 ツルリとしたスキンヘッドに端整な顔立ち。特徴的な尖った耳のその人物は手にした弓を弄びながら爽やかに微笑んだ。


「アンタは……四天王のドライ!」

「ハハハ。僕もアインスさんに声をかけられてね。君達には見逃してもらった恩義もある」

「すまない。恩に着るぞ、ドライ!」

「気にしないでくれ。ただ、この戦いに勝利した暁には、勇者のキミから人間の王にエルフ族の地位向上をちょ~っと口添えしてもらえると助かるんだけどね」

「まったく!抜け目ないヤツね!いいわ!任せなさい!」


 ふぅっと溜め息を吐くと、イツキはその場の全員に檄を飛ばす。


「さあ!こっから反撃よ!アンタ達!」

「「「おう!!」」」


 再び増殖を始める魔王の影達。だが、その精製速度を俺達の手数が上回る。


「クソ!ドライまでもが。それに……影が、間に合わん!」


 圧倒的劣勢だった数分前とは違い、俺達は今、明確にあの魔王ヌルを押していた。その様子にイツキは少しだけ自嘲気味に笑った。


「四天王にたくさんの仲間。それらが揃ってようやく優位にたてた。改めて自分の力不足を痛感するわね。ホント、一人で魔王を倒すなんて息巻いてたあの頃が恥ずかしいわ」

「力不足……か。確かに旅にでる前のイツキだったらそうだったのかもな。だが、今のこの状況は紛れもないだ」

「え?」

「剣の腕や魔法だけではない。紡いだえにしというのも、お前がこの旅の中で培った力だと俺は思う。敵だからとむやみやたらに殺していたらこの状況は生まれなかったハズだからな」

「……ま、そういうことにしといたげる。じゃ、その培った力とやらでサクっと魔王討伐。終わらせちゃいましょうか!」


 あと少しでイツキの刃が魔王に届く。その直前、ヌルは手にした杖を振り上げると声を張り上げた。


「貴様らの仲間がどうなっても良いのか!!」

「なっ!」

「あの回復術士ヒーラーの女は今頃地下で我が魔獣と戯れておる。だが、我が一度合図を送ればあの程度の人間、一瞬で八つ裂きにできるのだ。……それでも我を切るというのか?ん?」


 たったそれだけの言葉で、魔王は再び優位に立つ。そして、手の止まったイツキに向かって邪悪な笑みを浮かべるのだった。

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