いざ、魔王城へ④
「ご主人!右へ!……そっちに行ったよ!勇者!」
聴覚と嗅覚を駆使し、ミアが指示を送る。それに従い俺達は見えない何かからの攻撃を何とかかわしていた。
「んもうっ!何なのよ、コイツ!」
「以前聞いたことがある。魔王の従えている魔獣の中には、自身の姿を周囲と同化させる能力を持つものがいると」
「じゃあ、何よ?コイツは見えにくいだけで、実際に消えてる訳じゃないのね?」
「ああ。だが、その能力に加えてこのスピードだ。肉眼で捉えることは不可能とみていい」
その間にも、ミアは敵の位置を慎重に探っている。
「でも、
「獣人の五感は伊達じゃない。まあ、彼女は特別その能力が高いみたいだがな」
その直後、周囲に集中していたミアが声を張り上げた。
「ご主人!危ない!うし……」
「フンッ!」
俺は咄嗟に
「そこか!」
反射的に固有魔法を解除すると、俺は後方の空間を
「……チッ。逃がしたか」
「ごめん、ご主人。指示が遅れちゃった」
「いや、大丈夫だ。こっちに来たことがわかっただけでも助かった」
「…………」
頭を下げるミアに俺は答えた。だが彼女は、依然として申し訳なさそうに顔をしかめている。そして、何かを決心したように唇をギュッと噛み締めた。
「ちょっとちょっと。やるじゃない、ツヴァイ。でもそうやって全方位守ってれば、見えなくても大丈夫なんじゃないの?」
「魔力だって無限じゃない。ピンポイントで使わねば、あっという間に底を尽きてしまう。そんなことより集中しろ、イツキ。またいつ攻撃が来るか……」
「ねえ、ご主人。勇者」
「ん?」
不意にミアが口を開いた。見えない敵の襲撃に備え、耳で周囲を警戒しつつも真剣な眼差しをこちらに送っている。
「どうした?ミア」
「……このままじゃジリ貧だ。ご主人達は先に行って?ここはボクが受持つよ」
「ちょ、ちょっと!どういうつもり!?」
驚くイツキにミアが答えた。
「相手の姿が見えない以上どうやっても攻略に手間取っちゃう。そしたらせっかくおじいちゃんが稼いでくれた時間が無駄になっちゃうよ」
「だ、だったら三人でさっさと逃げればいいじゃない」
「見えない敵に背後をとられるのは危険だ。誰かが足止めをしなくちゃ」
「なら、三人でパパッと倒しちゃいましょうよ!それなら……」
「イツキ」
俺は彼女の肩に手を置くと、首を左右に振る。
「俺達が奴の姿を捕捉できていない以上、ミアは三人分の回避に専念しなければならなくなる。つまり、だ。ここに居てはミアの足手まといになってしまう。……あの子は優しいから、口には出さんがな」
「……そう、よね」
神妙な面持ちのミアに、イツキは視線を送る。そして小さく頷いた後、彼女は自らの両頬をパチンと叩いた。
「よし!……わかったわ。ミア、ここはアンタに任せる。カタリナはアタシ達が絶対に助けるから、安心しなさい!」
「うん、任されたよ。勇者」
「気をつけろよ、ミア」
「えへへ。ボク、頑張るから。期待しててね?ご主人」
「ああ。期待してるぞ」
ニコリと笑うと、ミアは叫ぶ。
「さあ!行って!奴は逃がさないから!」
「わかったわ!行くわよ!ツヴァイ!」
「おう!」
イツキの合図で、俺達は入り口とは反対方向にある扉に向かって走り出す。そして、扉を勢いよく開くと、素早くソレをくぐり抜けた。
次の瞬間。俺達の背後、扉の向こうから爆発音と共に獣の様な咆哮が響いてきた。
「ちょっ、何!?」
「ミアの攻撃があの魔獣に当たったのだろう。フフ、アイツ。俺達のことを囮に使ったな?」
「囮?」
「あの広い部屋で縦横無尽に動き回る敵を捉えることは至難の技。だが、移動した先の予想がつくなら話は別だ。ミアの腕をもってすればな?」
そこまで聞くと、イツキはハッと顔を上げた。
「まさか、あの子……。あの魔獣がアタシ達を追って入り口に向かった所を……」
「フハハ。中々に
「釈然としないわね。……でも、それならあの魔獣はやっつけたってコト?」
「いや。魔王城の防衛を任されている魔獣が一撃で沈むほど貧弱とは考えられん」
俺は扉の先に続く廊下を顎でさすと、イツキに言う。
「だからここは、予定通りミアに任せて先に進むしかない」
「そう……みたいね」
「心配はいらんさ。何せアイツはこの俺の右腕だった子だ。だから……行くぞ!イツキ!」
「ええ!」
お互いに頷くとカタリナ救出の為、俺達は魔王城の長い廊下を、二人並んで走り始めた。
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