いざ、魔王城へ③

「大丈夫かなぁ?お爺ちゃん……」


 魔王城へと足を踏み入れると同時に、ミアは一人で残ったラウロンの身を案じる。


「大丈夫よ。あのジジイが簡単にくたばるもんですか!」

「そうだぞ、ミア。残ったラウロンの為にも、今は一刻も早くカタリナを救出せねばならん」

「う、うん!そうだよね!……待ってて、お姉ちゃん!」


 力強く頷くと、ミアは視線を前方へと移す。それにつられるように、俺も魔王城の内部を見渡した。


「……しかし、一体どこを捜せばいいのだ?」


 広く、豪華な装飾に溢れる城内。そんな中から魔王とカタリナをどうやって見つけるのか。俺がそんなことを悩んでいると、イツキが先頭を走り出した。


「きっとこっちよ!ついてきなさい!」


 突然のことに、俺とミアも反射的に走り出す。


「何かアテがあるのか?」

「上よ!とにかく上を目指すの!」


 イツキは前方の階段を指差しながらそう言った。


「……根拠は?」

「勘よ、勘。アタシの勘はよく当たるの。それに昔から、バカと偉い奴は高いところが好きって言うじゃない?」

「お前、もっとマシな理由をだな……」

「あら?悩んで足を止めるよりかはよっぽど建設的だと思うけど?」

「むぅ」


 予想外の正論に言い負かされると、俺は渋々イツキの後に続いた。

 俺達は、イツキの先導のもと二階に駆け上がると更に上層へ続く階段を探した。そして、とある部屋の扉に手をかけた時。


「ちょっと待って!」


 ミアが大声でイツキを制止した。


「どうしたのよ?ミア」

「この部屋、何か変な感じがする」

「変な感じ?」


 獣人であるミアは、俺達魔族や人間よりも非常に優れた五感を持っている。その並外れた嗅覚や聴覚は、隠れた罠や敵の感知などを可能にするのだ。


「この先に罠がある、ということか?」


 俺の質問に、ミアは首を横にふる。


「罠、ではないんだけど……」

「ならいいじゃない!どのみち入ればわかるわよ!」


 猪突猛進。いつもの調子でイツキは目の前の扉を開いた。


「……って、広!」


 そこで俺達を待っていたのは、とても城の一室とは思えないだだっ広い部屋だった。


「いやー、何よ。この無駄にデカい部屋」

「わからん。だが、これはまるで戦闘を想定されたような……」


 そう言いかけた俺の体を、ミアが突然突き飛ばした。


「危ない!ご主人!」

「なっ!?」


 いきなりの出来事に、俺は思わず倒れ込んだ。だが、次の瞬間。俺がもといた場所の床が、スッパリと切断された。


(これは?まるで巨大な爪で引き裂かれた様な……)


 状況を飲み込めずにいる俺とは対象的に、ミアは全身の毛を逆立てながら、マジックダーツを取り出した。


「ご主人から離れろ!」


 怒号と共に、ミアはダーツを投げ付ける。だがその先には何もない空間があるばかりだ。


「ミア、何を……」


 そう言いかけて、俺は口をつぐむ。

 第一投に続いて、二の矢三の矢を放つミア。彼女の狙いうつ先に、微かだが何かの気配を感じたからだ。


(足音、息遣い、殺気……。目に見えない何かがそこにいる。まさか!)


 俺と同様に、何かに気付いたらしいイツキに目配せをすると、再びミアへと視線を戻す。


「なあ、ミア。もしかして」

「うん。こいつ、姿を消せる魔獣だ。きっと魔王が飼ってるって言ってた内の一匹だよ」


 つまり、だ。この広い部屋の中。姿が見えず、縦横無尽に動き回る敵を相手にしなくてはならないということだ。おまけに奴は床をバターの様に抉りとる爪まで持っている。

 彼女の言葉を聞いた瞬間。俺は自身の血の気が一気に引いていくのがわかった。

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