いざ、魔王城へ②
「カタリナ!」
「ツヴァイ様!」
トカゲの怪物からカタリナを取り戻そうと手を伸ばす。彼女もまた、ソイツから逃れようと俺の手を掴もうとした。だが。
「キャッ!」
それよりも遥かに速い動きでトカゲの怪物はカタリナを担ぎ上げると、再び俺達の包囲を抜けて魔王城の中へと消えていった。
「フハハハ!奴は我の飼っている魔獣の一匹だ。これで厄介な回復役はいなくなった。……さて、勇者よ。早く仲間を助けに行かねばどうなるかわからんぞ?」
魔王はトカゲの怪物とカタリナが走り去っていった方を指差すと、心底楽しそうに笑う。
「ご主人!お姉ちゃんが!」
「わかってる!イツキ、追うぞ……って、ん?」
振り向いた俺の目に飛び込んできたもの。それは、黒剣を構え魔力を込めるイツキの姿だった。
「おい、お前何を」
「城内にトラップとか仕掛けられてたら厄介だわ!だから!外から丸ごとぶっ潰す!」
言うなり、イツキは魔力を纏った斬撃を魔王城に向かって振り抜いた。
「オラァ!
「いや、まだ中にカタリナが……」
「あら?……ヤバ!?」
カタリナに対する安全性の確保を完全に失念していたイツキは、全身全霊の一撃を放った直後に冷や汗を流す。しかし、そんな彼女の心情とは裏腹に、黒い衝撃波は魔王城を破壊すべく一直線に飛んでいく。だが、次の瞬間。
「グォオオー!!」
黒く巨大な影が、魔王城の前に立ちはだかる。そして、イツキの放った必殺の一撃を軽々と消し飛ばしたのだった。
「何、アイツ?アタシの
「いや。今のは耐えたというより、そもそも効いていないような反応だ」
俺はその巨大な影を見上げた。
「グォオオ!」
全身に鎧を纏った一つ目の巨人は、唸り声をあげながら逆に俺達を見下ろす。その様子を更に高い位置から眺めていた魔王は、下卑た笑いを漏らした。
「ククク。ソヤツの名は『サイクロプス』我が手駒の一匹だ」
(サイクロプス?聞いたことがある。怪力自慢の一つ目の巨人だ。……だが、あの鎧はなんだ?アレがイツキの魔法を無力化したように見えたが……)
まるで俺の心でも読んでいたかのように、魔王は疑問に答えた。
「フハハ。ソヤツの鎧は特別製でな。技術開発局の……、名は何と言ったか?まあいい。とにかく、魔王軍に所属する技術者に造らせたその鎧はあらゆる魔法を無効化するのだ」
技術開発局。恐らくはフロイデのことだろう。つまり、サイクロプスの鎧はあの巨大ロボ『シャーデンフロイデ』の装甲と同じと見て間違いないハズだ。
「厄介な相手だ」
「では勇者よ、せいぜい急ぐがよい。さもないとあの
魔王は一際大きな声で高笑いをすると、フワリと闇に消えていった。
「おい、イツキ。カタリナが心配だ。急いで片付けるぞ」
「仕方ないわね。みんな!いくわよ!?」
「グォオオ!」
俺は
「ホアチャアー!」
ラウロンの飛び蹴りがサイクロプスの側頭部に突き刺さる。
「グァアアアーー!」
苦しげな叫びをあげながら、鎧を着た巨人の体が吹き飛んだ。それとは対象的に華麗な着地を決めたラウロンがこちらを振り向く。
「ここはワシに任せて勇者殿は先に行ってくだされ」
「何言ってんのよ!こんな奴、さっさとみんなで……」
「カタリナ殿が心配じゃ。早急に誰かが救助に向かった方が賢明ですわい。それに」
イツキの顔をチラリと見ると、ラウロンはハッと鼻で笑う。
「ワシは魔法とか使わないんで問題ないんですが……。ぶっちゃけ魔法の無い勇者殿って、その。……アレですからのう」
「アレってなによ!アレって!無能とでも言いたいの!?」
怒るイツキの首根っこを掴むと、俺とミアは魔王城の入り口に向かって駆け出した。きっとラウロンの煽りも、俺達を先に行かせる為の方便なのだろう。
「すまない、ラウロン!ここは任せた!」
「ええ。任されたぞい」
パチリとウインクをするラウロンに一瞥をくれると、トカゲの怪物を追って魔王城に突入する。その背後では、ラウロンとサイクロプスの一騎討ちが始まった音が、激しく鳴り響いていた。
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