いざ、魔王城へ①

 翌朝。魔王城へと乗り込む為、俺達は人通りのない広場へと移動した。


「よし。これより魔王城に向かう。各々準備はいいな?」

「それはいいんだけどさ。……こんな場所から魔王城に行けんの?」


 イツキがその場を仕切る俺に、視線を向ける。


「大丈夫だ。四つの鍵はいわばこちらの世界から魔王城前へと転移するための装置のような物。どこで使おうが魔王城には行けるさ」

「あっそ。ならいいわよ」

「そんなことより勇者殿。ようやく辿り着いた魔王の居城ですぞ?何か皆に一言ありませんか?」


 ラウロンに促され、イツキは少しだけ悩んだような素振りを見せる。だが、ふぅっと息を吐くとすぐに口を開いた。


「うーん。なんだかんだアタシらいつも全力だったじゃない?だから今さら特別気合い入れ直す必要も無いって言うか……。ま、アレよ。皆いつも通りやりなさい。その結果どうなるかは未来のアタシらに任せましょ?」

「フッ、フハハ」


 つい、笑いが溢れる。それにつられ、皆も肩を震わせた。


「うふふふ」

「アハハ!」

「ホホホ」


 各々の笑いに、イツキは頬を膨らませる。


「な、何よ!」

「ハハハ!いや、イツキらしいと思ってな」

「そうですよ。ふふ、とても勇者様らしくて素敵です」

「なら、いいんだけど……」


 納得したのか、一瞬で頬を萎ませたイツキ。そんな彼女を確認すると俺は小さく頷いた。


「良し!では、行くぞ!」


 今一度手のひらを強く握ると、その中にある四つの鍵に魔力を込める。すると、それぞれの鍵は眩い光を放ち始めた。そして、ゆっくりと開かれた俺の手から、勢いよく飛び出すと四つの鍵は俺達の周囲をぐるぐると回り始める。

 土・風・水・火。それらの鍵は等間隔に回りながら徐々に眩しさを増していく。そして、より一層強烈な光を放ったかと思うと、次の瞬間俺達は見知らぬ空間に立っていた。


「ここが異次元の世界ですか?」

「なんと面妖な……」


 暗いはずなのに、何故か周囲が見える。なんとも不思議な感覚だった。辺りには草木や岩などの自然物は一切なく、ただただ無限の空間が広がるばかりだ。……を除いて。


「ふーん。で、あれが魔王城ってワケ?」

「そうだ。まあ、俺も新年の挨拶くらいでしか来たことはないのだが」

「はあ?何よソレ?じゃあ、会議とかはどうしてんのよ?」

「それはお前……。魔王の魔法でこう……リモートな会議をだな。あと、細かい指示や調整なんかはアインス殿が仕切っていたぞ」

「……案外あのお爺ちゃんも苦労してんのね」


 肩を落としたイツキは再び目の前にそびえる魔王城を見上げた。

 均整のとれた、近代的な造りの立派な城。不気味さを放つ異次元の世界観とは些か不釣り合いなその建物に、彼女は悪態をつく。


「それにしても、随分立派なお城に住んでるのねぇ。呼ぶ友達もいないくせに。あ~あ、ああいう奴に限って見栄ばっかで中身が伴いのよね。価値もわからないクセに売値だけみて芸術品とか集めてそう」


 イツキの罵倒が止まらない。


「ちょ、ちょっと勇者様。やめましょうよ」

「ああん!?何よカタリナ!アタシは正直な感想を言っただけよ!」

「で、ですが」

「オイ!勇者!カタリナお姉ちゃんをいじめるとボクが許さないぞ!」

「上等じゃない!アタシの恐ろしさ、教えてあげようかしら?そして、アタシのこともお姉ちゃんと呼びなさい!」

「イーッだ!」


 イツキとミアがいつものように揉め始める。だがその時、俺達の頭上からまたあの声が降ってきた。


「よく来たな、ツヴァイ。それに勇者とその仲間よ」


 声の主。魔王ヌルは俺達を再び上空から見下ろしながら登場した。


「貴様達の動きは読んでいた。そろそろ来る頃だと……」

「何よ!毎回上からエラソーに!大体アンタ登場の仕方がワンパターンすぎんのよ!」

「あっ!それボクも思ってた!」

「…………」


 魔王の台詞を遮り、イツキが吠える。そして、すかさずミアも追い討ちをかける。こういう時ばかり息が合うのも普段通りだ。


「オラァ!何とか言ったらどうなのよ!どうせ城ん中には価値も把握できてない物だらけのコレクションルームとかあるんでしょ!」

「やめておけ、イツキ。確かに新年の挨拶に来たときによくわからん壺とか皿とかを自慢されたが、趣味というのは人それぞれだ。幾ら目利きができなかろうが、本人が満足ならそれで良いではないか」

「…………」


 イツキの口撃を止めようと口を挟んだ俺の肩を、ラウロンが叩く。


「いや、ツヴァイ殿。アンタも大概酷いですぞ?」

「え?……あっ!」


 自らの失言に気付き、魔王を見上げる。そこには、いつも以上にローブを目深にかぶり、体を震わせる元上司の姿があった。


「…………」

「…………」

「……勇者よ。我は貴様らの戦いを今日まで見てきた」

(まさか!このまま続けるつもりか!?)


 俺の予想通り、魔王は勇者の暴言などなかったように話を続ける。


「貴様達のパーティにおける核は誰なのか?どいつがいなくなれば貴様らは瓦解するのか?……そして気付いたのだ。勇者パーティにおける戦いの核。それは、貴様だ!!」


 その瞬間、魔王城の入り口が開け放たれた。そしてそれと同時に、城の中から人型の何かが素早くおどりでる。


(あれは……トカゲ?)


 正確に視認することはできず、あくまでトカゲのような何かとしか形容が出来ない。それほどまでにその『何か』のスピードは凄まじかった。


「皆気をつけろ!何かが……」


 そう言った頃には遅かった。そのトカゲのような何かは、俺達の脇をするりと抜けると、魔王が指差した人物。つまりは勇者パーティの核だと言われた回復術士・カタリナの体をガッチリと掴んでいた。

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