7章 魔王城へと至る道
四つの鍵
「オレはしばらくここを離れるよ。回復してもらったとはいえ、ポヘの体が心配だからな。どこか静かな場所でのんびり療養するさ」
フィーアはポヘの頭をグリグリと撫でると、俺達にそう告げた。
「そうか。……気を付けろよ」
「ハッ!オメーが言うかよ、ツヴァイ。魔王討伐なんか考えてるソッチの方がよっぽど危険なんだからな?」
「フフ。違いない」
「笑い事じゃねーよ、ったく。……それから」
彼女は突然人差し指を、俺の隣に立つカタリナへと突き付けた。
「おい!カタリナ!」
「はっ、はい!」
「改めて礼を言う。ポヘのこと、ありがとな。そんでオレは、受けた恩は倍にして。受けた怨みは三倍にして返すタイプだ。だからよ、この恩は絶対に返すぜ。……じゃあな!」
それだけ言い残すと、フィーアは隣の毛玉に跨がるとゴツゴツとした岩肌を颯爽と飛び越えて行ったのだった。
「……で、魔王城の鍵は集まった訳だけど」
火山地帯を一旦抜け、近場の町へと戻った俺達は宿屋にて今後の方針を決めることにした。
「ホントにこんな鍵で魔王城は開くのかしら?ってかぶっちゃけアタシ、魔王城の場所とか知らないんだけど」
手元に並べた四つの鍵を指でいじくりながら、イツキは呟く。
「そうですな。実はワシも知らんのじゃよ。城と言うからにはそれなりに巨大な建造物のハズ。遠目から見えてもいいと思うんじゃが……」
イツキの言葉に、ラウロンも賛同する。俺はそんな二人の思い違いを正した。
「お前達。これは『魔王城を開く』鍵ではないぞ?」
「はあ?じゃあどうやって使うのよ?通行証代わりに門番に見せるわけじゃああるまいし」
ズイと顔を寄せるイツキの顔面を押し退けると、俺は無造作に散らばった四つの鍵を指差す。
「これは『魔王城に至る道を開く』鍵なんだよ」
「何よソレ?とんち?……こっちはこの鍵集めるのに散々苦労したのよ!?下らない言葉遊びなんかして……ぴゃっ!」
すごむイツキの脇腹を、ラウロンが人差し指でつついた。その拍子に奇声を発した彼女は、宿屋のベッドに倒れこむ。
「勇者殿。話の腰を折らんでください。……さ、ツヴァイ殿。続きを」
「あ、ああ。すまんな」
俺は小さく咳払いをすると、鍵の用途と魔王城の秘密を皆に話して聞かせた。
「実はな、魔王城はこの世には無いのだ」
「ど、どういうことですか?ツヴァイ様」
「正確にはこの次元には無い、と言った方が正しいか。魔王はとても用心深い人物でな。いつ襲撃されるかもわからん場所を居城にすることを酷く嫌ったのだ」
「まあ、鍵を四つに分けて四天王に守らせていたんじゃ。そんな性格なのも頷けるのう」
「うむ。そして奴は、古代の魔法を応用しこことは別の次元。つまりは異次元に拠点を構えることに成功したのだ」
そこまで聞くと、ベッドにへたりこんでいたイツキがムクリと体を起こした。
「つまりこの鍵はその異次元とやらに行くために必要ってことね?……っとにエラソーな見た目のわりには臆病なヤツ」
「だが、その警戒心の強さ故に人間をここまで一方的に追い詰めたとも言える。悔しいが、慢心のないその姿勢は見習うべき点でもあるな」
「ちょっと。アンタ人間と魔王、どっちの味方よ」
「……決まっている。俺は
一瞬戸惑ったような表情を見せたイツキ。だが、すぐにいつものような下衆な笑いを浮かべると、俺の背中をガンガンと叩いた。
「なーに恥ずかしいこと言っちゃってんのよ」
「何?俺は恥ずかしいことを言ったのか?」
「いえいえ。ツヴァイ殿、ワシらにとってはありがたい言葉ですわい」
「そうですよ!私、ツヴァイ様が味方になってくれて、本当に心強いです!」
「あっ!ご主人!僕はご主人の味方だからね!ホントだからね!」
ワイワイと騒ぐ仲間達を見て、俺は少しだけ感慨深い気持ちになっていた。
魔族である俺やアインス殿。獣人のミアや竜人のヒルダさん。そしてオーガ族の血を引くフィーア。そんな様々な種族とも、彼女らは信頼関係を築いてきた。ならば、魔王のように侵略などせずとも、魔族に未来はきっとあるハズだ。多種族が手を取り合って生きる未来が。
魔王との一戦は、そんな考えを示す第一歩になる。仲睦まじく笑うパーティメンバーを見つめ、俺はそんな大それたことを考えていた。
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