昨日の敵は今日の友

「でも、本当に良かったぁ……」


 元気になったポヘの姿を見て、フィーアは再びその場に倒れ込んだ。かと思えば、意を決したように飛び起きた彼女は、カタリナの元に向かってズンズンと歩き始めた。


「おい、オメー」

「ひっ!ひゃい!」


 泣き腫らした顔で睨みをきかせるフィーアに、カタリナはびくびくと縮みあがる。だが、彼女は少しだけばつが悪そうにモジモジすると、ペコリと頭を下げた。


「あの……ポヘのこと、助けてくれてありがとう。アイツはオレの唯一の家族なんだ。オメーは仮にも敵である俺の家族を……」

「大丈夫ですよ」


 言葉に詰まるフィーアの手を握ると、カタリナは彼女に優しく笑いかける。


「怪我をされた方を治療するのが我々の責務です。それに、フィーア様だって敵である私達を一晩泊めてくださったではないですか。気にしないでください」

「オ、オメー……」


 フィーアはカタリナの手を力強く握り返すと、勢いよく俺の方を向いた。


「オイ!ツヴァイ!コイツ、良いだぞ!」

「知ってるよ」

「あんだぁ?その淡白な反応は?こんな良い奴と旅しといて、オメーはその有り難みをわかってねぇ!」

「良い娘だなんて、そんな……」


 頬を赤らめ、体をくねらせるカタリナ。それを見たフィーアは、折れていない方の手で彼女の肩を掴むと、そのまま俺の前に突きだす。


「ひゃっ!」

「ほら見ろ!このいじらしい反応を!良い娘なだけじゃなくて可愛らしいじゃねえか」

「おい、やめてやれ。怖がっているだろう」

「なーにが『やめてやれ。怖がっているだろう』……だ。クールぶってんじゃねえぞ」


 フィーアはそういうと、俺をジロリと見る。


「カーッ!こんな娘と一緒に旅して何もないとか……オメーホントに男かよ?それともアレか?やっぱあの獣人のガキがいいんか?このロリコンが!」

「違うと言っているだろう!」


 即座に俺は否定した。だが、そんなことなどお構い無しにミアが俺の背中に飛び付いてくる。


「そーだよ!ご主人はボクとずーっと一緒にいるんだ!」

「おい!?ミア!ちょっと黙ってなさい!ややこしくなる!」


 案の定ミアの発言を聞いたフィーアは顔をひきつらせる。


「へ、へえー。やっぱオメー、ロリコン……」

「断じて違う!この子は、あれだ。幼子が『父親と結婚する』とか言ってしまうあのテンションで発言してるだけだ!」

「あーはいはい。パパと結婚するーってか?そーいうプレイね。大丈夫大丈夫。オレ、口固い方だから。アインスのジーさんとあの口煩いメイドには黙っといてやるよ」

「だから、違うと言っている!ええい!カタリナからも何か言って……」

「可愛いだなんて、そんなぁ。ウフフ」


 俺がカタリナの方を振り向くと、彼女は未だに赤面しながら顔を赤らめていた。

 そんな俺達の間に、今度はイツキが割って入る。


「ちょっとフィーア!なんでアタシが頭数に入ってないのよ?」

「はぁ?」

「ツヴァイが手を出すだ出さないだ。なんでその候補にアタシが入ってないのかって聞いてんの!」


 イツキは俺を指差すと、フィーアを睨み付ける。


「勿論アタシはコイツに興味なんか全然ないけど?アタシよりもミアの名前が先にでるってのはどーよ?こっちはナイスバディでセクシーなレディよ?」


 とてもレディとは言い難い荒々しい口調で、イツキは体をクネクネと動かす。


(アイツ……もしかして色気をアピールしているつもりか?)


 奇っ怪な踊りを披露するイツキに、フィーアは冷たい視線を送る。そして、至極真っ当な一言をピシャリと叩きつけた。


「だってオメー、酒癖悪ぃじゃねえか」

「ぐっ!!」

「オレが言うのもなんだけどよ、昨日の飲み比べの時とか、酷かったぞ。ありゃあ嫁にはいけねえわ」

「はあ?ちょっと言い過ぎでしょーが!」


 フィーアの正論に打ちのめされたイツキは、思わず彼女に飛び掛かった。


「おいお前達!怪我してるんだから少しは安静にだな……」

「ねえねえご主人!ご主人はロリコンって人なの?」

「いや、だから……。頼むカタリナ、お前からも……」


 助け船を求め、俺は再びカタリナに視線を送る。だが。


「ええ!ホントに可愛いくなんてないですよぉ!んもう、ツヴァイ様ったら……」

「いつまでやってるのだ!早く帰ってこい!」

「ねーねーご主人。結局ロリコンって何なの?」

「アタシだって本気だしたら超モテるからね?一人称でオレとか言ってる痛いオーガ娘より全然モテっからね?」

「あー、ハイハイ。すごいすごい」

「キイィィーー!」


 各々がヒートアップし、収拾がつかなくなった頃。少し離れた場所から眺めていたラウロンはぼそりと呟いた。


「……青春じゃのう」

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